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14、まさかの新婚旅行です
しおりを挟む「それは(偽りの)夫婦としての活動の一部ですか?」
アリアはすぐさま冷静に返した。
「うん、まあ……そうなるかな」
「構いませんよ。書物を持っていってもいいなら」
「もちろんだ。別荘地での読書は最高だと思うよ」
アトラーシュ侯爵家の別荘は自然豊かな森の湖畔に佇んでいる。
鳥の声を聞きながら、テラスで紅茶を飲み、大自然の中で読書をする。
想像するだけでも素晴らしい。
「いいですね。私の時間を確保していただけるなら。夫婦としての活動はともに買い物に出かける程度で構いませんよね?」
「ああ、そうだね」
まあ、この程度なら悪くないだろう。
体裁も保てるし、同じ場所にいようともお互いに趣味を楽しんでいるということで、周囲に怪しまれることもない。
屋敷にいるばかりでは気分も滅入ってしまうし、というほどストレスはないのだけど。
「いいですわ。旅行しましょ、旦那さま」
すると、フィリクスはアリアの手を握って歓喜の表情を見せた。
しかし、喜んでいるのはフィリクスだけではなかった。
「アリアさん、新婚旅行をされるんですって?」
義両親とアフタヌーンティーを楽しんでいたところ、突如その話を持ち出された。
ただの旅行なのだが、新婚だからそうなるのか。
アリアは複雑な気分になった。
「旦那さまがお休みを取られるようですので」
とアリアは冷静に返す。
すると、義両親は涙ながらに喜んだ。
「素晴らしい。私たちは嬉しいよ。ようやく本当の夫婦らしくなったね」
と義父。
変わらず偽りの夫婦ですけど?
「フィリクスも目を覚ましてくれてよかったわ。アリアさん、あなたのおかげよ」
と義母。
いいえ、私は何もしておりませんけど?
「とにかく今夜は祝いだ。いいワインを用意させよう」
「まあ、ふたりきりの時間をお邪魔してはいけないわ。私たちは影でひっそり見守りましょう」
「ああ、そうか。気が利かなくて悪かった」
「本当ですわよ。もう子供じゃないのですから」
いやー、むしろご両親一緒の旅行でもぜんっぜん構わないんですけどねー。
旦那さまとふたりきりとか、無理すぎる。
などと口には出せないのでアリアは静かに微笑んで紅茶を飲み干した。
そして、フィリクスと夫婦ふたりきりの旅行の日。
当然ながら侍従と侍女と使用人数人という大人数での旅となった。
侯爵家の別荘に到着し、フィリクスとランチをともにすればあとは自由だ。
フィリクスは勝手に乗馬でもしに行くだろうから、アリアはゆっくりカフェテラスで森の景色を楽しみながら読書をして過ごすはずだった。
「アリア、僕と一緒に乗馬をしないかい?」
アリアは書物を抱えたまま、すぐに返答。
「見ておわかりありませんか? 私はこれから読書をするのです」
「こんなに晴れて気持ちのいい日に外へ出ないなんてもったいないよ」
「大丈夫です。テラスで紅茶を飲みながら読書をするのも気持ちいいので」
アリアはスラスラと拒否をするので、フィリクスはあからさまに残念な顔をした。
それはまるで、捨てられた子犬のようだ。
うっ……その表情は反則ですわ。
アリアの心が妙に揺れ動く。
「お出かけをされるなら、奥さまは念入りにお支度がございます。お肌の保護もしなければなりませんし、服装も動きやすくかつ夫人としてふさわしい衣装にしなければいけません」
侍女のユリアがすぐに出かけられない正統な理由を説明してくれたので、アリアはほっと安堵した。
しかし、ユリアはすぐに使用人たちに命令する。
「みんなで奥さまの外出の準備をするのよ! 急ぎなさい!」
使用人たちは全員「はい!」と大きな返事をして即座に行動に移した。
「え……そこ、やる気出さなくてもいいのに」
フィリクスがアリアに笑顔を向ける。
「アリア、ゆっくり待っているから急がなくてもいいよ」
「は? はぁ……」
行くって言ってないんだけど!
なぜか、周囲がフィリクスとアリアの仲を取り持とうと頑張っている。
頑張らなくていいのに。
アリアは嘆息した。
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