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14、図書館で男女のあらぬ声……もしかして?
しおりを挟む複雑な気持ちを抱きながら、目的の場所に向かう。
その途中、リアは侯爵に対する文句ばかり口にした。
「ほんっと偉そうにして最悪です。だいたい、食事の量も半端ないって有名ですよ。陛下と同じ量を食べるみたいですよ。陛下は剣の訓練をなさっているのですべて筋肉になられますけど、侯爵の場合すべて脂肪です。あのお腹を見ました? ぶくぶく太って風船みたいだわ」
「風船……?」
イレーナが目をぱちくりさせていると、リアは人差し指を立てて言い放った。
「ほら、お祭りのときに膨らませて遊ぶあれですよ。膨らませると飛んでいくんです」
「ええ、知っているわ」
「で、針で刺すとパーンって弾けちゃうんです。ああ、侯爵のお腹をパーンってしてみたーい」
イレーナの背後で「ぶふっ」と声がして、ふたりが振り返る。
すると、ひとりの騎士が笑いを堪えていた。
そして、他の騎士たちも真顔だが、耐えているようだ。
イレーナは真顔で彼らを見つめて、ふたたびリアに向き直る。
「リアはお笑いの才能があるわね」
「ほんとですかー。芸人になろうかしら。町でおかしな格好しておしゃべりする人たちのことですよ」
「へえ、大道芸とは違うのね」
そうこうしているあいだに目的の場所に辿り着いた。
そこは内部が神殿のような造りになっており、壁際には上から下までびっしりと蔵書が詰め込まれている。
イレーナは目を輝かせながら入室しようとして、立ち止まった。
護衛騎士3人がぴったりくっついていてはゆっくり本を選ぶこともできない。
「あの、あなたたちはここで待っててくれる? 本を借りたらすぐに戻るから」
やんわりと言ったつもりだ。
しかし騎士たちは硬い表情でまっすぐ立ち、真面目に言い放つ。
「妃さまの身に何かあっては我々自害しなければならなくなります」
「大袈裟……」
イレーナは呆れてしまった。
おそらくヴァルクに何があっても妃のそばを離れるなと命令されているのだろう。
イレーナは少々うんざりする。
「だったら少し離れたところで待機していて。見える範囲ならいいわよね?」
「御意」
イレーナはため息まじりに彼らのそばを離れた。
命令どおり、彼らはその場から動かない。
視線がかなり気になるも、せっかくの本の宝庫だ。
全力で楽しまなくてはならない。
「これだけあれば退屈しないわね」
イレーナが本棚に目を走らせていると、リアが遠くから呼びかけてきた。
「イレーナさま、恋愛小説を読みませんか?」
「あー、うん。ごめん。ぜんっぜん興味ないの」
「え? ご冗談でしょう? 令嬢のあいだですっごく流行っているんですよ。特にこの悲恋モノが」
「へえ……」
リアが1冊の本を胸に抱いてうっとりした表情で宙を見つめる。
おそらく本の内容を想像しているのだろう。
イレーナは苦笑しながら歴史書の並ぶ棚へと足を運んだ。
この国の歴史が知りたいからだ。建国神話などあればなおよい。
あとは、やはり商売の本でもあれば最高だ。
イレーナが何冊か本を手に取っていると、一番奥の扉からぼそぼそと人の声がした。
そこは別の部屋につながっているようだ。
もしかしたら、その部屋にも蔵書がたくさん置かれてあるのかもしれない。
イレーナがわくわくしながら扉を開けようとすると、中から男女のあらぬ声が聞こえた。
「えっ!?」
イレーナはドアノブに手をかけたまま固まった。
(これは、もしかして……?)
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