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いざゆけ魔法学校
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セリオンの言う通り、俺は一年生に教えられるようなことはない。学校の中庭、青々しい芝が年中生えている運動場で、俺は自分の腰元やら胸元程度の背丈しかない子供達の前に立ち、わくわくと少しの不安を胸に輝く笑顔達を見回した。
「──というわけで、先ほど紹介に預かった四年の監督生、アーノルドだ。軽い補助魔法で君達の飛行を手助けする手筈となっている。箒は忘れていないな?」
「フィレンツェ様だ……」
「公爵の……!?」
「監督生になられたとはお聞きしていましたけれど」「素敵……」
おお、俺の無能さを知らない下級生の何と輝かしいことよ。
今年入学した彼らは、ざっと見た限り十三歳から十五歳くらいだろうか? 何人か俺より年上も混ざっているみたいだが。
おおむね優秀なようでなにより。
「すでに使いこなせている人も居ると思うが、入学の際に箒を買ったと思う。一ヶ月後の飛行試験に受かれば、校内で箒を使えるようになると言うわけだ」
「えっ、自由に飛んで良いんですか!?」
「元気な子だな」
確か子爵の息子だっただろうか。俺と似たような薄茶の髪は鳥の巣のようだが、髪の奥から見えるエメラルドの瞳は森にひそむ湖畔のような品の良さがある。
名前はグラーノくんだったか。
「マーガレット先生に聞けばわかると思うが、幾つか飛行禁止区域がある。そこ以外は基本自由にして良い」
箒を使って自由に飛べる、という俺の言葉に新入生達がワッと盛り上がる。
それを軽く宥めながら、俺は魔法の杖であるトランクを呼び出した。
「まずはこうして杖を呼び出せるようになってもらう。杖自体にある程度の浮力があるから、高いところから落ちた時の緊急回避法だな。必ず覚えていてくれ」
「えー! いらねぇよ!」
「早く箒使いたーい!」「別に俺は落ちないし!」
おーーいガキども。
どうやら早く飛びたくてウズウズしていたり、もう既に箒に乗った経験のある子供達からクレームが上がる。おまえっあるかもしれないだろ翼竜のいる上空を自由落下で突っ切る可能性が!!
セリオンをちらっと見れば、杖の金属部分を無言で手入れしていた。セリオンも自由に飛べるようになったもんな……
(仕方ないにゃあ……)
実はこの一年生指導は空きコマにやっており、その分単位がもらえる。今日は必ず杖の呼び出し方を教えろと言われているし、この調子ではこの時間内に間に合わなさそうだ。
「あーー……じゃあ、ミューズ! 君浮遊魔法得意だったよな」
「ええっ?♡ ぼくですかぁ?♡ はあい♡」
ミューズ……くん。ふわふわのピンク髪をツインテールにして、レースだらけの制服を着ている姿からは想像もつかないが男である。
ハートマークが常に付いているみたいな甘~い喋り方が特徴で、ゲーム本編のライバル兼友人枠。
年齢も主人公の一つ上であることから、悪役令息の俺と違いミューズ先輩と呼ばれ親しまれていた。
「少し俺を浮かして見てくれ……そうだな、校舎三階の高さまでで良い」
「はあい♡」
ミューズせんぱ、ミューズくんが俺に手を翳し何やら呟いた。心臓が一瞬ひっくり返る心地がして体が浮いた。ウオーッッ浮遊感! タマヒュン!
ミューズくんは優秀な浮遊魔法を持っていて、最初あたりは主人公をそれで浮かして遊ぶといった悪戯好きなメスガキ仕草をしていた。
この歳から人一人浮かせることができるのは実際優秀である。
「お」
「うわ」
二階の廊下を通っていたヴィンセントと目が合う。空きコマなので暇しているらしい。だとしても確率ヤバすぎるだろ!
校舎の三階といえば、一般的に十三メートル程度の高さと言われている。実際に測ったわけではないがまぁこの後者も概ねそのくらいで、宙に浮いた足の下に小さく新入生達が見える。
いったい何を始めたのかと注目してくれている。よかったよかった。
「よし! では魔法を解除してくれ」
「ええーっ!?♡」
「……はっ!?」
セリオンがようやくこっちを向いた。全くお前は多少のお兄ちゃんの奇行には慣れおって。
ヴィンセントも何やら困惑しているが、一緒にいた他の生徒に連れ去られていった。
おおかた暇になったから学校と併設されている街の市場にでも行くのだろう。
「大丈夫だ、俺を信じて。ここで死んでも責任を追及することもしない」
「な、なら良いですけどぉ♡」
良いんだ。ミューズくんのちょっとズレてるところ、俺好き。
俺の宣言を聞いて腹が決まったらしく、ミューズくんが俺にむけていた両手をすっと下ろす。将来的に指先一本でできると良いな。
先ほどとは比にならない浮遊感、新入生の悲鳴。野太い声あげたの誰だ俺より年上だろお前。
「そー、れっ!」
慣れたので詠唱を破棄し手のひらを翳した。
上向けになった体が青い空に晒され、目の前に現れた光を握り締めれば地面に置いたはずのトランクがパッと現れた。
ぐんっと身体が吊られる。
靴先を掠めた雑草に一瞬ヒヤリとしながら、浮遊感を失ったトランクが徐々に落ちてきたのを迎えた。
「──というわけで、先ほど紹介に預かった四年の監督生、アーノルドだ。軽い補助魔法で君達の飛行を手助けする手筈となっている。箒は忘れていないな?」
「フィレンツェ様だ……」
「公爵の……!?」
「監督生になられたとはお聞きしていましたけれど」「素敵……」
おお、俺の無能さを知らない下級生の何と輝かしいことよ。
今年入学した彼らは、ざっと見た限り十三歳から十五歳くらいだろうか? 何人か俺より年上も混ざっているみたいだが。
おおむね優秀なようでなにより。
「すでに使いこなせている人も居ると思うが、入学の際に箒を買ったと思う。一ヶ月後の飛行試験に受かれば、校内で箒を使えるようになると言うわけだ」
「えっ、自由に飛んで良いんですか!?」
「元気な子だな」
確か子爵の息子だっただろうか。俺と似たような薄茶の髪は鳥の巣のようだが、髪の奥から見えるエメラルドの瞳は森にひそむ湖畔のような品の良さがある。
名前はグラーノくんだったか。
「マーガレット先生に聞けばわかると思うが、幾つか飛行禁止区域がある。そこ以外は基本自由にして良い」
箒を使って自由に飛べる、という俺の言葉に新入生達がワッと盛り上がる。
それを軽く宥めながら、俺は魔法の杖であるトランクを呼び出した。
「まずはこうして杖を呼び出せるようになってもらう。杖自体にある程度の浮力があるから、高いところから落ちた時の緊急回避法だな。必ず覚えていてくれ」
「えー! いらねぇよ!」
「早く箒使いたーい!」「別に俺は落ちないし!」
おーーいガキども。
どうやら早く飛びたくてウズウズしていたり、もう既に箒に乗った経験のある子供達からクレームが上がる。おまえっあるかもしれないだろ翼竜のいる上空を自由落下で突っ切る可能性が!!
セリオンをちらっと見れば、杖の金属部分を無言で手入れしていた。セリオンも自由に飛べるようになったもんな……
(仕方ないにゃあ……)
実はこの一年生指導は空きコマにやっており、その分単位がもらえる。今日は必ず杖の呼び出し方を教えろと言われているし、この調子ではこの時間内に間に合わなさそうだ。
「あーー……じゃあ、ミューズ! 君浮遊魔法得意だったよな」
「ええっ?♡ ぼくですかぁ?♡ はあい♡」
ミューズ……くん。ふわふわのピンク髪をツインテールにして、レースだらけの制服を着ている姿からは想像もつかないが男である。
ハートマークが常に付いているみたいな甘~い喋り方が特徴で、ゲーム本編のライバル兼友人枠。
年齢も主人公の一つ上であることから、悪役令息の俺と違いミューズ先輩と呼ばれ親しまれていた。
「少し俺を浮かして見てくれ……そうだな、校舎三階の高さまでで良い」
「はあい♡」
ミューズせんぱ、ミューズくんが俺に手を翳し何やら呟いた。心臓が一瞬ひっくり返る心地がして体が浮いた。ウオーッッ浮遊感! タマヒュン!
ミューズくんは優秀な浮遊魔法を持っていて、最初あたりは主人公をそれで浮かして遊ぶといった悪戯好きなメスガキ仕草をしていた。
この歳から人一人浮かせることができるのは実際優秀である。
「お」
「うわ」
二階の廊下を通っていたヴィンセントと目が合う。空きコマなので暇しているらしい。だとしても確率ヤバすぎるだろ!
校舎の三階といえば、一般的に十三メートル程度の高さと言われている。実際に測ったわけではないがまぁこの後者も概ねそのくらいで、宙に浮いた足の下に小さく新入生達が見える。
いったい何を始めたのかと注目してくれている。よかったよかった。
「よし! では魔法を解除してくれ」
「ええーっ!?♡」
「……はっ!?」
セリオンがようやくこっちを向いた。全くお前は多少のお兄ちゃんの奇行には慣れおって。
ヴィンセントも何やら困惑しているが、一緒にいた他の生徒に連れ去られていった。
おおかた暇になったから学校と併設されている街の市場にでも行くのだろう。
「大丈夫だ、俺を信じて。ここで死んでも責任を追及することもしない」
「な、なら良いですけどぉ♡」
良いんだ。ミューズくんのちょっとズレてるところ、俺好き。
俺の宣言を聞いて腹が決まったらしく、ミューズくんが俺にむけていた両手をすっと下ろす。将来的に指先一本でできると良いな。
先ほどとは比にならない浮遊感、新入生の悲鳴。野太い声あげたの誰だ俺より年上だろお前。
「そー、れっ!」
慣れたので詠唱を破棄し手のひらを翳した。
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