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二年目の魔法学校
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さて。
錬金部の残り部員の話をしたからなのか。
「えーっと…………今、なんと?」
「だからぁ、視察しよーって話になったの! 部活!」
「はぁ……」
「とはいえアーノルドくんは優秀だし、文化祭の利益も高いから……あんまり心配いらないと思うけどね! 在籍報告誤魔化して部費もらってる部活がちょくちょくあって、生徒全員揃えて迎えてもらうことになったんだよね」
監督生専用の談話室。そこでお知らせの紙を配るイリア先輩に、俺は内心冷や汗をかいていた。
ツルツルの眩しい生足と可愛らしい見目。前回の進級試験を欠席して留年となった彼は、それでも優秀な成績を収めたせいか七年の監督生として場を取り仕切っている。
監督生になって初手で予算改革を推し進めた俺に面倒ごとの嫌いな彼は良い顔をしなかったものの、大鷲寮らしい奔放さでいつの間にか認めてくれていた。
少なくとも、冗談の通じない真面目で堅物な後輩としては認識されているだろう。
「真面目くんより、そっちの方がまずいんじゃないの」
「え? 俺っすか? わっは~やば~確かに~!」
「なっなななんでそんなに気楽な顔で笑えるわけ?? 何か考えたことないの?? 考える脳がないから気楽なの……!?」
陰気な蝙蝠寮六年、メイヴェン先輩が狼寮のワイアットに突っ込む。確かワイアットは馬術部だったか。隠れ幽霊部員の多い面子で有名だな。
とはいえ、馬術部は有名な大会にも出ていたり、そもそも貴族子弟に馬術はプラスにしかならなかったりと残される理由があるのだ。ビビリ不敬のアレンが言うほどまずい状態ではない。
まずいのは俺の趣味と独断と我儘で存続している錬金部の方だ。
(やばいやばいやばいやばい)
ヴラド先輩がいるのは周知の事実なので誤魔化されてもらえるだろうが、もう一人の方がまずい。
いや、もう居なくても五人の制約はクリアしているわけだが、在籍報告の誤魔化しがバレたら本当にまずい!
「あり? どしたのアーノっち! すっげぇ~不都合そうな顔してるけど!」
「そう見えるか?」
「え!? そう聞かれたら違う気がしてきた」
そうだよ。不都合なんだよ!
ワイアットにうりうりと頬を突かれながらヴラド先輩を仰ぎ見る。今日は珍しく談話室の上座に座っており、初めて監督生をまとめるイリア先輩に色々と教えていた。
実のところリオール先輩へ周囲の諌め方を教えたのもヴラド先輩で、代々優秀な生徒は彼の世話になっていることが多い。なんだかんだ世話焼きな人……らしい。マーガレット先生が言っていた。
「……まったく。そのように仔犬のような目で見るでないわこの~!! カワユイ後輩め! わかったわかった、チャンスは与えてやるから泣くでないぞよーちよちよちよちよち」
「いつ俺が犬のモノマネしたって言うんですか」
「ンもう言質とった瞬間これなんだからっ! 先輩寂しいっ!」
唐突に飛びついてきては頭を撫で回される。まったく勝手な人だ。成長することのない小さな手は冷たく、子供体温も何もなかった。セリオンも吸血鬼だったらこうなのだろうか。そう思えばあの子が人間でよかった。
イリア先輩への指導はもう済んだのか、楽しそうに俺の膝に座ってくる。相変わらず意思があるのかと疑うような長い髪の毛が巻き付いており、俺の体を拘束する。拘束しすぎである。めちゃくちゃがんじがらめ。
「ちょっとぉヴラドせんぱ~い? 会議中ですよ~!? 新しい三年生も入ってきてるんですしぃ、しっかりしてくださ~い!」
「ひぇ~自分も雑談してたのによく言う……」
「エーンだってアーノルドがつれんのだもん! ワシの部屋に窓と結界ぶち破って入ってきた時から可愛がっとるのに……ワシの天使ちゃん……」
「え!?!? なんそれ詳しく!!」
あああ盛り上がってしまった……!
入学当初、馬車に乗るのが嫌すぎていつも通り空を飛んで学校にやってきていたのだが、荷物の多さとフィレンツェの寮外ゆえに魔法があまりにも使えずうまく着地できなかったのだ。
偶然ある魔法使いの超絶ふかふか浮遊ベッドを犠牲に死亡は免れたのだが、そのある魔法使いというのがヴラド先輩だったのが運の尽きである。
「そもそもこの学内に張られた結界をぶち破ってくる阿呆じゃなと思っておったが、魔法無しで飛んでくる胆力と命知らずさがの、可愛かったんじゃよ……ああ~ワシの後輩じゃ~と思っての~!」
「それで鉄人形倒して遺跡調査してこいとか言われるんだから気に入られない方が遥かにマシでしたけどね」
「ンン~かわい子ちゃんめ♡頭の刻印をチョチョイっと消すだけだろーに」
ペアを結んだ先輩の方は、後輩へある程度自由を与えることが出来る。例えば教師からの外出許可がなくとも外に出して実習へ行かせたり、自分の調査を手伝わせたり。
「えっ……? ウソ、そんなことしてたわけアーノっち……」
「そっ、そんな、明らかに殺す気で……逆になんで生きてるんだあんた……そもそも学外調査の時は魔物避けを持ってるから護られているんでは……?」
たいていは慄いているワイアットやアレンのように学外へ魔法薬の素材採取に行ったり生態調査に赴いたりとピクニック気分だ。というか実際ピクニックである。本気で危険な調査に一年を同行させるわけがないため。
「まぁ、ヴラド先輩はご老体だからな。七年と一年の区別もつかなかったのだろう。今度のお誕生日は老眼鏡でも贈って差し上げますね」
「生意気な後輩じゃの~~よぅくそのかわゆい顔が見えてしまったらかわゆすぎてイジワルしてしまうかもしれん」
クソッッッッ揚力でも魔力でも勝てない相手とのレスバはやはり不利か。早く卒業してくれんかな。でも一応ゲーム本編で謎の隠しキャラ(攻略不可)として一応出てんだよなぁ……!
錬金部の残り部員の話をしたからなのか。
「えーっと…………今、なんと?」
「だからぁ、視察しよーって話になったの! 部活!」
「はぁ……」
「とはいえアーノルドくんは優秀だし、文化祭の利益も高いから……あんまり心配いらないと思うけどね! 在籍報告誤魔化して部費もらってる部活がちょくちょくあって、生徒全員揃えて迎えてもらうことになったんだよね」
監督生専用の談話室。そこでお知らせの紙を配るイリア先輩に、俺は内心冷や汗をかいていた。
ツルツルの眩しい生足と可愛らしい見目。前回の進級試験を欠席して留年となった彼は、それでも優秀な成績を収めたせいか七年の監督生として場を取り仕切っている。
監督生になって初手で予算改革を推し進めた俺に面倒ごとの嫌いな彼は良い顔をしなかったものの、大鷲寮らしい奔放さでいつの間にか認めてくれていた。
少なくとも、冗談の通じない真面目で堅物な後輩としては認識されているだろう。
「真面目くんより、そっちの方がまずいんじゃないの」
「え? 俺っすか? わっは~やば~確かに~!」
「なっなななんでそんなに気楽な顔で笑えるわけ?? 何か考えたことないの?? 考える脳がないから気楽なの……!?」
陰気な蝙蝠寮六年、メイヴェン先輩が狼寮のワイアットに突っ込む。確かワイアットは馬術部だったか。隠れ幽霊部員の多い面子で有名だな。
とはいえ、馬術部は有名な大会にも出ていたり、そもそも貴族子弟に馬術はプラスにしかならなかったりと残される理由があるのだ。ビビリ不敬のアレンが言うほどまずい状態ではない。
まずいのは俺の趣味と独断と我儘で存続している錬金部の方だ。
(やばいやばいやばいやばい)
ヴラド先輩がいるのは周知の事実なので誤魔化されてもらえるだろうが、もう一人の方がまずい。
いや、もう居なくても五人の制約はクリアしているわけだが、在籍報告の誤魔化しがバレたら本当にまずい!
「あり? どしたのアーノっち! すっげぇ~不都合そうな顔してるけど!」
「そう見えるか?」
「え!? そう聞かれたら違う気がしてきた」
そうだよ。不都合なんだよ!
ワイアットにうりうりと頬を突かれながらヴラド先輩を仰ぎ見る。今日は珍しく談話室の上座に座っており、初めて監督生をまとめるイリア先輩に色々と教えていた。
実のところリオール先輩へ周囲の諌め方を教えたのもヴラド先輩で、代々優秀な生徒は彼の世話になっていることが多い。なんだかんだ世話焼きな人……らしい。マーガレット先生が言っていた。
「……まったく。そのように仔犬のような目で見るでないわこの~!! カワユイ後輩め! わかったわかった、チャンスは与えてやるから泣くでないぞよーちよちよちよちよち」
「いつ俺が犬のモノマネしたって言うんですか」
「ンもう言質とった瞬間これなんだからっ! 先輩寂しいっ!」
唐突に飛びついてきては頭を撫で回される。まったく勝手な人だ。成長することのない小さな手は冷たく、子供体温も何もなかった。セリオンも吸血鬼だったらこうなのだろうか。そう思えばあの子が人間でよかった。
イリア先輩への指導はもう済んだのか、楽しそうに俺の膝に座ってくる。相変わらず意思があるのかと疑うような長い髪の毛が巻き付いており、俺の体を拘束する。拘束しすぎである。めちゃくちゃがんじがらめ。
「ちょっとぉヴラドせんぱ~い? 会議中ですよ~!? 新しい三年生も入ってきてるんですしぃ、しっかりしてくださ~い!」
「ひぇ~自分も雑談してたのによく言う……」
「エーンだってアーノルドがつれんのだもん! ワシの部屋に窓と結界ぶち破って入ってきた時から可愛がっとるのに……ワシの天使ちゃん……」
「え!?!? なんそれ詳しく!!」
あああ盛り上がってしまった……!
入学当初、馬車に乗るのが嫌すぎていつも通り空を飛んで学校にやってきていたのだが、荷物の多さとフィレンツェの寮外ゆえに魔法があまりにも使えずうまく着地できなかったのだ。
偶然ある魔法使いの超絶ふかふか浮遊ベッドを犠牲に死亡は免れたのだが、そのある魔法使いというのがヴラド先輩だったのが運の尽きである。
「そもそもこの学内に張られた結界をぶち破ってくる阿呆じゃなと思っておったが、魔法無しで飛んでくる胆力と命知らずさがの、可愛かったんじゃよ……ああ~ワシの後輩じゃ~と思っての~!」
「それで鉄人形倒して遺跡調査してこいとか言われるんだから気に入られない方が遥かにマシでしたけどね」
「ンン~かわい子ちゃんめ♡頭の刻印をチョチョイっと消すだけだろーに」
ペアを結んだ先輩の方は、後輩へある程度自由を与えることが出来る。例えば教師からの外出許可がなくとも外に出して実習へ行かせたり、自分の調査を手伝わせたり。
「えっ……? ウソ、そんなことしてたわけアーノっち……」
「そっ、そんな、明らかに殺す気で……逆になんで生きてるんだあんた……そもそも学外調査の時は魔物避けを持ってるから護られているんでは……?」
たいていは慄いているワイアットやアレンのように学外へ魔法薬の素材採取に行ったり生態調査に赴いたりとピクニック気分だ。というか実際ピクニックである。本気で危険な調査に一年を同行させるわけがないため。
「まぁ、ヴラド先輩はご老体だからな。七年と一年の区別もつかなかったのだろう。今度のお誕生日は老眼鏡でも贈って差し上げますね」
「生意気な後輩じゃの~~よぅくそのかわゆい顔が見えてしまったらかわゆすぎてイジワルしてしまうかもしれん」
クソッッッッ揚力でも魔力でも勝てない相手とのレスバはやはり不利か。早く卒業してくれんかな。でも一応ゲーム本編で謎の隠しキャラ(攻略不可)として一応出てんだよなぁ……!
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