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二年目の魔法学校
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そんなわけで、視察までに今来ていない部員を連れてこよう大作戦、決行である。
「代役立てるとかはダメなんですか?」
「そんなに来たくないなら無理させる必要ないでござるよ、本当に。拙者らのために誰か犠牲にするのは申し訳がないでござる……」
「てか、退部させたら? 今五人で成り立ってるでしょ……」
つれないやつらめ。ユミルのいう代役は顔と名前を把握されてるこの魔法学校で難しいし、フィッシュの意見は優しいが却下だ。俺にピッタリ張り付いているマイスウィートフェアリー(概念)ちゃんの発言は彼の使う魔法を思い起こさせる絶対零度。
在籍報告は最後に提出したぶんをベースにしているので、どうしてももう一人必要なのだ。在籍報告をしてくれる程度には協力的だと信じたいが……
「……てか、何作ってるの? 薬?」
「これか? 唐揚げ丼」
「は?」
「何でござるか!」
唐揚げ丼は唐揚げ丼である。
下味をつけた鳥もも肉(鶏が手に入らなかったため、石化蛇鶏の錬金素材の余りを使用)を用意しておいた片栗粉、小麦粉、水で作った衣にまぶして揚げたもの。とりあえずエセ唐揚げである。
「知ってるか? 石化蛇鶏がなぜ最近になって石化“蛇鶏”になったのか。前はただの石化鶏だったんだけど。まぁ厳密に言えば鶏じゃなくて竜の一種なんだが」
「その竜の一種揚げてますけど」
「しらない。何で?」
じゅわじゅわっと揚げたての唐揚げをほかほかの米に乗せる。水場が豊富な東洋でしか育てられない稲は地味に貴重だ。
魔物もいるような世界で農民は魔法を忌避してられんので、基本的にこの国の農業は魔法による地力アップと根気強い品種改良で賄われている。
「本来石化鶏は石化蛇が弱点である雄鶏の鳴き声を克服しようとして進化した種でな。だが見た目があまりにも違うから、長らく原種だってのが信じられてなかったんだ」
石化蛇は見た目だけ見れば小さな蛇で猛毒を持つ。頭に小さな王冠のような凹凸があり、雄鶏の鳴き声を聞くと悶えて死ぬという特徴がある。
また石化鶏の尻尾(?)には石化蛇らしき生き物がぶら下がっており、それは周囲に恐ろしい蛇の姿を見せて威嚇するためだと長らく信じられていたのだが……。
「ある研究者が、石化鶏は石化蛇の食性と全く同じであることを発表したんだ。
またサンプルをいくつも使用し石化蛇の弱点とされているものを石化鶏にも試したところ、外れ値を除き平均して雄鶏以外の弱点が一致していると判明した」
「魔物実験ってことですか? イカれてますね、しかも猛毒を持つ高レベルの魔物相手に……」
「ちなみに、それまで毒竜と呼ばれていた生き物が石化蛇の巨大個体であったと発見したのもその研究者だ! 魔物研究はいいぞ、何をやっても先行研究だからな」
そして、雄鶏の鳴き声という弱点を克服し人里を襲うようになった石化鶏の方を新種、石化蛇を原種と断定した。まぁ学術的に諸々を証明するにはまだ長い道のりが必要となるわけだが、ともかくそれで石化鶏の方の名前が変わったのだ。
研究室で作っていた唐揚げ丼を保温用の容器に入れ──見た目はどんぶりだしネタで作ったので耐久性はアレだが食事をするには十分──密封する。
「ムリですよ……充分な戦闘能力があれば魔物と相対しても実験できるかもしれませんが。というか随分詳しいですね? この学校にいる方とか?」
「ん。石化鶏の名称が変わったのは最近……だったと思う。ありえる?」
「十四のくせに二年前を最近って言うなよなー。まぁ最近だな、当たってる当たってる」
さっきからフィレオフィッシュが静かだ。まぁ当然だろう、俺の話に思い当たるところがあったのか、そそくさと自分の作業に戻っている。
何も知らない可愛い二年生たちはちまちまと……と言うにはちょっとデカいな。まぁわらわらと俺の後ろについてきている。
「フィレオフィッシュ、俺はアイツ呼んでくるから! ちょっと留守番しといてくれ!」
「はーいでござる」「ぜったい俺アイツに会いたくないんすけど!?」
我儘なフィレオは無視ということでね。
丼を抱えたままふわりと宙に浮けば、さすがは飛行大会優勝者のユミルは難なくついてきた。
あ、そういえばセリオンは──
「っ……!?」
「ああ~ほら。無茶するな。ほら、お兄ちゃんの背中に捕まってろ」
予想通りふらついていた。すいっと前に出てやればしばらく無言が落ち、小さな手が俺の首に回ってくる。
思っているより大きい身体に言わないがちょっと一苦労しつつバランスをとり、風邪に逆らうように部室のエリアを抜ける。
「えっ、何で……寮じゃないの?」
「本当に何で寮じゃないんだろうな」
本来寮がある筈なのだが、全くもって集団行動が得意ではない相手のため普段から自分の研究所に篭りきりのやつだ。
普段は魔法で隠されて辿り着こうとすればするほど迷う筈なのだが、ヴラド先輩が事前に手配しておいたのか真っ直ぐ空に浮けば城壁前の崖らしき部分にちょこんと造られた研究室がよく見えた。
「ええ、自分の住処を勝手に!? よく許しましたねこの学校が……」
「許したも何もねーよ。誰も許してないけど、勝手に住み着いてんだアイツが」
「えっそれダメじゃないですか」
「ダメだよ」
ダメだが、聞くような奴ではないのだ。
どう見ても外観掘立て小屋の研究室に近付いていく。ガチャリと立て付けの悪い扉が開き、不健康そうな男がぬるっと姿を現した。
ボサボサの髪に窶れた顔。それなのに高身長で、俺も見上げなければ顔が見えないような。
そんな男が、長い前髪の下から俺を捉える。鮮血によく似た瞳。
「…………何だと思えば部長殿ではないか。ようやくこの我輩の研究に参加する気になったのかね? 全く凡人とは一日が30時間以上あるようなのんびりさだな、羨ましいよ」
「黙れ、俺には暴力があるぞ」
──豪語不遜な態度。後ろにしがみついたセリオンが殺気立つのがわかる。そうだな、お前こういう奴こそ嫌いなんだよな。
才能に驕ったが、その才能こそが世を揺るがすほどのものであるため一生痛い目を見ない最悪の男。
それが最後の部員、アバロンである。
「あ、ちなみに石化鶏を石化蛇鶏にしたのはコイツだから」
「は??」
「え!?!?」
「フン、吾輩の頭脳にかかれば当然の結果だな」
嘘つけお前学会で通った時ガッツポーズして俺のことぶっ叩いてたくせに……
「代役立てるとかはダメなんですか?」
「そんなに来たくないなら無理させる必要ないでござるよ、本当に。拙者らのために誰か犠牲にするのは申し訳がないでござる……」
「てか、退部させたら? 今五人で成り立ってるでしょ……」
つれないやつらめ。ユミルのいう代役は顔と名前を把握されてるこの魔法学校で難しいし、フィッシュの意見は優しいが却下だ。俺にピッタリ張り付いているマイスウィートフェアリー(概念)ちゃんの発言は彼の使う魔法を思い起こさせる絶対零度。
在籍報告は最後に提出したぶんをベースにしているので、どうしてももう一人必要なのだ。在籍報告をしてくれる程度には協力的だと信じたいが……
「……てか、何作ってるの? 薬?」
「これか? 唐揚げ丼」
「は?」
「何でござるか!」
唐揚げ丼は唐揚げ丼である。
下味をつけた鳥もも肉(鶏が手に入らなかったため、石化蛇鶏の錬金素材の余りを使用)を用意しておいた片栗粉、小麦粉、水で作った衣にまぶして揚げたもの。とりあえずエセ唐揚げである。
「知ってるか? 石化蛇鶏がなぜ最近になって石化“蛇鶏”になったのか。前はただの石化鶏だったんだけど。まぁ厳密に言えば鶏じゃなくて竜の一種なんだが」
「その竜の一種揚げてますけど」
「しらない。何で?」
じゅわじゅわっと揚げたての唐揚げをほかほかの米に乗せる。水場が豊富な東洋でしか育てられない稲は地味に貴重だ。
魔物もいるような世界で農民は魔法を忌避してられんので、基本的にこの国の農業は魔法による地力アップと根気強い品種改良で賄われている。
「本来石化鶏は石化蛇が弱点である雄鶏の鳴き声を克服しようとして進化した種でな。だが見た目があまりにも違うから、長らく原種だってのが信じられてなかったんだ」
石化蛇は見た目だけ見れば小さな蛇で猛毒を持つ。頭に小さな王冠のような凹凸があり、雄鶏の鳴き声を聞くと悶えて死ぬという特徴がある。
また石化鶏の尻尾(?)には石化蛇らしき生き物がぶら下がっており、それは周囲に恐ろしい蛇の姿を見せて威嚇するためだと長らく信じられていたのだが……。
「ある研究者が、石化鶏は石化蛇の食性と全く同じであることを発表したんだ。
またサンプルをいくつも使用し石化蛇の弱点とされているものを石化鶏にも試したところ、外れ値を除き平均して雄鶏以外の弱点が一致していると判明した」
「魔物実験ってことですか? イカれてますね、しかも猛毒を持つ高レベルの魔物相手に……」
「ちなみに、それまで毒竜と呼ばれていた生き物が石化蛇の巨大個体であったと発見したのもその研究者だ! 魔物研究はいいぞ、何をやっても先行研究だからな」
そして、雄鶏の鳴き声という弱点を克服し人里を襲うようになった石化鶏の方を新種、石化蛇を原種と断定した。まぁ学術的に諸々を証明するにはまだ長い道のりが必要となるわけだが、ともかくそれで石化鶏の方の名前が変わったのだ。
研究室で作っていた唐揚げ丼を保温用の容器に入れ──見た目はどんぶりだしネタで作ったので耐久性はアレだが食事をするには十分──密封する。
「ムリですよ……充分な戦闘能力があれば魔物と相対しても実験できるかもしれませんが。というか随分詳しいですね? この学校にいる方とか?」
「ん。石化鶏の名称が変わったのは最近……だったと思う。ありえる?」
「十四のくせに二年前を最近って言うなよなー。まぁ最近だな、当たってる当たってる」
さっきからフィレオフィッシュが静かだ。まぁ当然だろう、俺の話に思い当たるところがあったのか、そそくさと自分の作業に戻っている。
何も知らない可愛い二年生たちはちまちまと……と言うにはちょっとデカいな。まぁわらわらと俺の後ろについてきている。
「フィレオフィッシュ、俺はアイツ呼んでくるから! ちょっと留守番しといてくれ!」
「はーいでござる」「ぜったい俺アイツに会いたくないんすけど!?」
我儘なフィレオは無視ということでね。
丼を抱えたままふわりと宙に浮けば、さすがは飛行大会優勝者のユミルは難なくついてきた。
あ、そういえばセリオンは──
「っ……!?」
「ああ~ほら。無茶するな。ほら、お兄ちゃんの背中に捕まってろ」
予想通りふらついていた。すいっと前に出てやればしばらく無言が落ち、小さな手が俺の首に回ってくる。
思っているより大きい身体に言わないがちょっと一苦労しつつバランスをとり、風邪に逆らうように部室のエリアを抜ける。
「えっ、何で……寮じゃないの?」
「本当に何で寮じゃないんだろうな」
本来寮がある筈なのだが、全くもって集団行動が得意ではない相手のため普段から自分の研究所に篭りきりのやつだ。
普段は魔法で隠されて辿り着こうとすればするほど迷う筈なのだが、ヴラド先輩が事前に手配しておいたのか真っ直ぐ空に浮けば城壁前の崖らしき部分にちょこんと造られた研究室がよく見えた。
「ええ、自分の住処を勝手に!? よく許しましたねこの学校が……」
「許したも何もねーよ。誰も許してないけど、勝手に住み着いてんだアイツが」
「えっそれダメじゃないですか」
「ダメだよ」
ダメだが、聞くような奴ではないのだ。
どう見ても外観掘立て小屋の研究室に近付いていく。ガチャリと立て付けの悪い扉が開き、不健康そうな男がぬるっと姿を現した。
ボサボサの髪に窶れた顔。それなのに高身長で、俺も見上げなければ顔が見えないような。
そんな男が、長い前髪の下から俺を捉える。鮮血によく似た瞳。
「…………何だと思えば部長殿ではないか。ようやくこの我輩の研究に参加する気になったのかね? 全く凡人とは一日が30時間以上あるようなのんびりさだな、羨ましいよ」
「黙れ、俺には暴力があるぞ」
──豪語不遜な態度。後ろにしがみついたセリオンが殺気立つのがわかる。そうだな、お前こういう奴こそ嫌いなんだよな。
才能に驕ったが、その才能こそが世を揺るがすほどのものであるため一生痛い目を見ない最悪の男。
それが最後の部員、アバロンである。
「あ、ちなみに石化鶏を石化蛇鶏にしたのはコイツだから」
「は??」
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