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二年目の魔法学校
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「……とまぁ、そんなわけで。俺はヴィンセントに結婚を申し込んだし、了承されたっていう……」
『めちゃくちゃ重要情報じゃないですか!?!?!?!?!? よくあんな塩対応できますね貴方!!!!!!!!!』
「確かに守りたい可愛い女の子だったが、セリオンに悪影響し煽りカスに成長した事実は変わらんからな……」
『と、時の流れ……』
「ここだけの話俺は俺モデルの男とあいつモデルのヒロインで小説書いて売ってた頃がある」
『ワ黒歴史!』
意外とその大衆小説はウケて、元シナリオライターでありノベライズも手掛けていたぶん俺の文章力も好評でかなり出回っていた。
俺の出した本自体も結構多かったので、フィレンツェ領内で写本されたり回し読みされたりしてると考えればかなりの知名度を誇っているだろう。
ちなみに平民とお姫様というジャンルをこの世界で流行らせた一端を担っている。要するに大バズりであった。
「まさか覚えていたとはな。あいつ入学式初手、両脇に男を侍らせて俺の火傷を嘲笑ってきたのに……」
『それに対して貴方の対応も大概でしたけど。よくもまぁ守りたいと思った相手を叩きのめして整列させましたね』
そうだったそうだった。
ティア……ヴィンセントは何が気に入らなかったのか、入学式で支給された制服を着込む俺にちょっかいをかけ、取り巻きが困惑している中で大衆の前で穢れた血、醜い火傷だと罵倒してきた。
仕方がないので振り向きざま顔にグーパンを叩き込んで気絶させ整列させた。
後で教師に俺だけ呼び出されたが納得行かなかったのでヴィンセントの口にした罵詈雑言をその場で完コピして諳んじれば反省文を書かされており、素直にザマァという気持ち。
「とはいえ、接触禁止令も出て会えないうちにアイツも女遊びが激しくなってって。詳しい機微は知らんが、こんな男と婚約してたなんてヴィンセントからしたら最悪だろ?」
『……まさか、接触禁止令の説明してないとかないですよね?』
「? してないけど。どうやってすんだよ、連絡も禁止されてたんだし」
『ウワーーーーーッッ凄い嫌な予感当たっちゃった今。最悪です。タチが悪い。いつも貴方はそう』
「なんなんだその物言いは……」
長話をしているうちにそろそろ始業時間三十分前だ。いつものかっちりとしたコートに着替え、中にそっと氷魔法で冷感を足しておく。
昔は魔法が使えなかったのではふはふと体を熱されるか下のシャツが見えるくらいまで脱ぐしかなかったので、今は見た目からも真面目に見える……といいな。
体温が高くて汗が多い方らしく、いっつもびちょびちょになってたんだよ……。
ヴィンセントの部屋から出れば、また起こしにきたらしい今回の恋人らしき少年と目が合う。
「え学級長!?!?」
「すまん、取り逃した」
「いやぜんぜん捕獲とかはしてないんですけど。いつの間にか追い込み漁に参加させられている?」
流れと勢いで誤魔化されてくれた生徒に感謝しつつ廊下を競歩で歩いた。魔神の指輪はまた沈黙を守っている。部屋から一歩外に出れば誰に感知されるかわからないもんな、この力……。
(別に今、ヴィンセントに対して過去のことで特別扱いしたいとも思ってない。ティアと過ごした月日より、ヴィンセントと喧嘩しながら過ごした年月の方が圧倒的に多いしな)
俺が思っていたよりずっとヴィンセントは図太くて嫌なやつで、多分きっと、俺より権力も魔力も持っている。何より金貨シャワーといい入学式の騒動といいクソガキすぎ。やってられっか!
けれどあの、唯一安眠できたあの日々を引きずっていないかと言われたら嘘になる。まだ俺は殿下に心酔しているし、穏やかなあの庭に帰りたいとまで思うことだってある。
何より、ティアに会いたい。
何でもかんでもあの丸いほっぺを染めて見上げてくれる永遠の少女へ、夢を見てしまうのだ。
俺の安寧。穏やかさの象徴。
何も知らない場所で永遠に少女として笑っていてほしいと、歪んだ感情を無垢な彼女へぶつけている。
(だから幸せになってほしい。そのためにはやっぱり、ルースが必要なんだ)
俺よりよほど幸せにしてくれる正ヒーロー。ルースが入学すればきっと、ヴィンセントだって彼に夢中になるだろう。
何より、俺は多分ティアでさえセリオンより優先することが出来ない。とびきり大切に、一番にしてくれる男の元へ行ってほしいと願うのは、かつて彼女に惹かれていた少年のかけらだろうか。
少なくともあの日々は恋になる前に終わりを告げて、俺にはもう何もない。彼女を守れるようなもの何も。
(俺がかつての約束を振りかざしてティアを迎えに行っても、それは彼女を縛っていた王宮と何が違うんだろうな)
何も違わないのだ。
俺は王子様じゃなくて、ただの男に成り下がってしまったのだから。
『めちゃくちゃ重要情報じゃないですか!?!?!?!?!? よくあんな塩対応できますね貴方!!!!!!!!!』
「確かに守りたい可愛い女の子だったが、セリオンに悪影響し煽りカスに成長した事実は変わらんからな……」
『と、時の流れ……』
「ここだけの話俺は俺モデルの男とあいつモデルのヒロインで小説書いて売ってた頃がある」
『ワ黒歴史!』
意外とその大衆小説はウケて、元シナリオライターでありノベライズも手掛けていたぶん俺の文章力も好評でかなり出回っていた。
俺の出した本自体も結構多かったので、フィレンツェ領内で写本されたり回し読みされたりしてると考えればかなりの知名度を誇っているだろう。
ちなみに平民とお姫様というジャンルをこの世界で流行らせた一端を担っている。要するに大バズりであった。
「まさか覚えていたとはな。あいつ入学式初手、両脇に男を侍らせて俺の火傷を嘲笑ってきたのに……」
『それに対して貴方の対応も大概でしたけど。よくもまぁ守りたいと思った相手を叩きのめして整列させましたね』
そうだったそうだった。
ティア……ヴィンセントは何が気に入らなかったのか、入学式で支給された制服を着込む俺にちょっかいをかけ、取り巻きが困惑している中で大衆の前で穢れた血、醜い火傷だと罵倒してきた。
仕方がないので振り向きざま顔にグーパンを叩き込んで気絶させ整列させた。
後で教師に俺だけ呼び出されたが納得行かなかったのでヴィンセントの口にした罵詈雑言をその場で完コピして諳んじれば反省文を書かされており、素直にザマァという気持ち。
「とはいえ、接触禁止令も出て会えないうちにアイツも女遊びが激しくなってって。詳しい機微は知らんが、こんな男と婚約してたなんてヴィンセントからしたら最悪だろ?」
『……まさか、接触禁止令の説明してないとかないですよね?』
「? してないけど。どうやってすんだよ、連絡も禁止されてたんだし」
『ウワーーーーーッッ凄い嫌な予感当たっちゃった今。最悪です。タチが悪い。いつも貴方はそう』
「なんなんだその物言いは……」
長話をしているうちにそろそろ始業時間三十分前だ。いつものかっちりとしたコートに着替え、中にそっと氷魔法で冷感を足しておく。
昔は魔法が使えなかったのではふはふと体を熱されるか下のシャツが見えるくらいまで脱ぐしかなかったので、今は見た目からも真面目に見える……といいな。
体温が高くて汗が多い方らしく、いっつもびちょびちょになってたんだよ……。
ヴィンセントの部屋から出れば、また起こしにきたらしい今回の恋人らしき少年と目が合う。
「え学級長!?!?」
「すまん、取り逃した」
「いやぜんぜん捕獲とかはしてないんですけど。いつの間にか追い込み漁に参加させられている?」
流れと勢いで誤魔化されてくれた生徒に感謝しつつ廊下を競歩で歩いた。魔神の指輪はまた沈黙を守っている。部屋から一歩外に出れば誰に感知されるかわからないもんな、この力……。
(別に今、ヴィンセントに対して過去のことで特別扱いしたいとも思ってない。ティアと過ごした月日より、ヴィンセントと喧嘩しながら過ごした年月の方が圧倒的に多いしな)
俺が思っていたよりずっとヴィンセントは図太くて嫌なやつで、多分きっと、俺より権力も魔力も持っている。何より金貨シャワーといい入学式の騒動といいクソガキすぎ。やってられっか!
けれどあの、唯一安眠できたあの日々を引きずっていないかと言われたら嘘になる。まだ俺は殿下に心酔しているし、穏やかなあの庭に帰りたいとまで思うことだってある。
何より、ティアに会いたい。
何でもかんでもあの丸いほっぺを染めて見上げてくれる永遠の少女へ、夢を見てしまうのだ。
俺の安寧。穏やかさの象徴。
何も知らない場所で永遠に少女として笑っていてほしいと、歪んだ感情を無垢な彼女へぶつけている。
(だから幸せになってほしい。そのためにはやっぱり、ルースが必要なんだ)
俺よりよほど幸せにしてくれる正ヒーロー。ルースが入学すればきっと、ヴィンセントだって彼に夢中になるだろう。
何より、俺は多分ティアでさえセリオンより優先することが出来ない。とびきり大切に、一番にしてくれる男の元へ行ってほしいと願うのは、かつて彼女に惹かれていた少年のかけらだろうか。
少なくともあの日々は恋になる前に終わりを告げて、俺にはもう何もない。彼女を守れるようなもの何も。
(俺がかつての約束を振りかざしてティアを迎えに行っても、それは彼女を縛っていた王宮と何が違うんだろうな)
何も違わないのだ。
俺は王子様じゃなくて、ただの男に成り下がってしまったのだから。
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