悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!

伊月乃鏡

文字の大きさ
81 / 252
二年目の魔法学校

25

しおりを挟む
結局セリオンも交流会には参加しないものだと思っていたが、どうやら今年は参加する気概があるらしい。というのも、わざわざフィレンツェから仕立て屋を呼びつけ、交流会に着ていくための燕尾服を選ぶと言い始めたので。

そのため、寮内ではなく本校舎の一室を借り、俺とセリオンは採寸をしていた。

「あんたも、そのボロッボロのローブで参加する気じゃないよね。この人のも新しく仕立てて」

けほっ、と咳き込みながらセリオンがジロリと睨んでくるので、どうやら俺も参加することは決定事項らしい。
ウーンまぁ仕方ない、我が家のわがままちゃんに俺は全面降伏しているので。

「分かった分かった。好きにするといい……まったく、お前の代わりに社交界に出てたのは誰だと思ってるんだ」
「フィレンツェはローブでもドレスコードになるって言ってた」

それはそうなんだが。
この世界において夜会は戦場だ。フィレンツェほどの大家ともなれば、社交のシーズンは夜会の招待状が届き、どれに参加するかで今後の政治的立ち位置が決まる。有力な家にだけ出ていればいいというわけではなく、立ち位置を守るには情報戦。ある程度立ち回り、自分の家で催す夜会も気合を入れて開催しなければならないのだ。

……と、めんどくさい諸々の作法は俺が今まで行なってきた。そのため実は自分に合わせた燕尾服だって持っているのだが、セリオンは俺に服を贈りたいらしい。

「……あ、セリオンの服だが、前は閉じるスタイルで。筋肉が上手くついてなくて細っこいからそっちの方がスタイルが良く見える。それとボタンなんだがもう少しよく見せてくれるか? ああ、生地はこちらが用意したものを使ってほしい。安心してくれ、あなた方が扱って恥ずかしくない程度の上物を用意したつもりだ」
「気持ち悪い」
「お兄ちゃんに対してなんだその態度はお前」

衣服の召使である仕立て屋達は俺とセリオンの小競り合いに何か反応するようなこともなく、俺の出した要望を粛々と叶えていった。
首を突っ込むわけでもなく、遠慮しすぎるわけでもなく淡々と仕事をこなす姿はプロフェッショナルを感じるぜ。

「長々と注文をつけて悪いな」
「構いません、アーノルド様。モーニングのお仕立てはよろしいですか?」
「ああ~……いや、構わない。実は現在成長期でな、来年の交流会では燕尾服とモーニングどちらも仕立てさせてもらおう」
「かしこまりました」

モーニングとは夜会ではなく昼のフォーマルスタイルを指す。一端の紳士は昼夜でモーニングと燕尾服を使い分けるんだぞ!
現在流行の形を無理やり取らせるより、セリオンという少年に会った今だけのものを仕立てた方が何倍もいい。なにしろ彼は来年になればオーダーメイドの礼服に袖も通らないくらい大きくなるのだから。

金はある。金貨シャワーの分が。ヴィンセントっていっつもなんかイラついてるけどマジであれなんなんだろうな。

「見積もりは出たか? ……うん、このくらいなら問題ないな。いつもの場所から引き出しておいてくれ」
「かしこまりました。三日後にお届けにあがります」
「相変わらず早いな……。縫製魔法を使えるのはお前達の特権か。よろしく頼むぞ」

この学校を卒業した魔法使いである仕立て屋は、深々と礼をしたままその場から掻き消える。掻き消えたというか、元々居なかったのだろう。召喚獣にした妖精を使い、ホログラムのように姿を映していただけ。
魔法の仕立て屋はあらゆる場所に出現しあらゆる場所に存在しない。彼らの本拠地を探る行為は禁止事項の一つとなっているし、魔法領であるフィレンツェにも詳しく彼らを知っている人間は居ないだろう。

銀行的な場所に預けておいた金からあとは勝手に差し引くだろうし、何かあれば色をつけておいてやろう。採寸のために脱いでいたローブを着ると、膨れっ面のセリオンと目が合った。

「どうしたセリオンそんな可愛い顔して……ふくふくのほっぺちゃん食べちゃうぞ?」
「気持ち悪い」
「じゃあなんでそんなぷくぷくになってるんだ? 冬の小鳥かと思った!」

屈んでほっぺを潰せば、ぷすーっと口から息が漏れていく。あざとい、可愛い、百億万点。異論は許そう、俺は寛大ゆえな……。

「……ぼくが買うつもりだったのに」

どうやら、俺に奢られたのが嫌だったらしい。相変わらず変な理由で不機嫌になる子だな、セリオンにとっては相応のものなのだろう。理解できない俺と世界が悪い。
とはいえ今までずっと、それこそ魔法道具もシャツの替えも俺が買っていたわけだし。どちらかというとヴィンセントの金だが、まぁ迷惑料ということで。

「どうせ来年買い替えるんだし、今年はいいだろ? 今年は俺も自分の分があったわけだし、ついでに弟の服を買ってやるのもやぶさかではないというか光栄というか」
「来年あんたは買わないんでしょ」
「当たり前だろもったいない! いちいち流行りを追うより一つのオーダーメイドを着こなした方が美しいってもんだ」

そもそもフィレンツェに求められてる姿は流行りに乗る浮ついた姿ではないしな。

そんなことを言えばさらに不機嫌になり、手がつけられなくなった。
どうにかご機嫌を治してもらった頃にはとても外出できる時間じゃなくなっており、パートナーを誘う気力をなくしたと愚図る弟。

「あんたのせいで誘えなくなった。勇気いるのに。せっかく頼んだのに。勿体無い」
「おっ前なぁ……」

正直かわいい。俺のわがまま天使ちゃん……♡という気持ちである。我ながら気持ち悪いな!
仔猫に迷惑をかけられてガチギレする猫飼いは居ないように、めんどくせぇ弟のわがままなんていくらでも聞いてあげたくなる……が。

「別に強制参加じゃないんだぞ? 今年はお前も二年生だし、交流会は休んでも……」
「やだ。服もったいないでしょ。でもパートナーは誘いたくない。なんとかして」
「おお、ワールドイズマイン」

どうやら初めて自分で仕立てた服は気に入っているみたいで、夜会には参加したがっているみたいだ。確かに今までつるつるの膝小僧を見せつけるみたいな少年用の短パンだったけど、今回は大人らしい長ズボンだからな。絶対もっとオシャレな言い方はあるが許してくれ、庶民感覚が抜けないんだ。

「うーん……あっ、じゃあ俺と参加する? なーんて、」
「仕方ないなどうしてもっていうならそうしてやってもいいよ服ももったいないから」
「エッ」

エーーーーーッッッッいいの!?!?!?!?!? 流石セリオン引き際を弁えていて断りきれない優しさを持っている俺の弟である。わがまま言っても仕方がないとでも思ったのかな? 嘘~もっと困らせてくれてもよかったのに!
てか今俺夜会のパートナーになるの承諾された!? 嘘だろもっと気合い入った服つくりゃよかった!!


しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます

クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。 『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。 何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。 BLでヤンデレものです。 第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします! 週一 更新予定  ときどきプラスで更新します!

BLゲームの脇役に転生したはずなのに

れい
BL
腐男子である牧野ひろは、ある日コンビニ帰りの事故で命を落としてしまう。 しかし次に目を覚ますと――そこは、生前夢中になっていた学園BLゲームの世界。 転生した先は、主人公の“最初の友達”として登場する脇役キャラ・アリエス。 恋愛の当事者ではなく安全圏のはず……だったのに、なぜか攻略対象たちの視線は主人公ではなく自分に向かっていて――。 脇役であるはずの彼が、気づけば物語の中心に巻き込まれていく。 これは、予定外の転生から始まる波乱万丈な学園生活の物語。 ⸻ 脇役くん総受け作品。 地雷の方はご注意ください。 随時更新中。

え?俺って思ってたよりも愛されてた感じ?

パワフル6世
BL
「え?俺って思ってたより愛されてた感じ?」 「そうだねぇ。ちょっと逃げるのが遅かったね、ひなちゃん。」 カワイイ系隠れヤンデレ攻め(遥斗)VS平凡な俺(雛汰)の放課後攻防戦 初めてお話書きます。拙いですが、ご容赦ください。愛はたっぷり込めました! その後のお話もあるので良ければ

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼2025年9月17日(水)より投稿再開 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

処理中です...