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lets休暇
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ルースが入学すると決まって、俺は浮かれに浮かれていた。なにしろようやくシナリオが始まるし、俺の性癖を煮詰め、人生を賭け、書籍化アニメかコミカライズまで果たした大ヒットBLゲーム──キミヒカがめちゃくちゃ近くで見れるのだから!!
(とはいえ、アニメは観れなかったんだよなぁ)
本編シナリオライターとしてアニメの監修や表現にはいくつか携わらせていただいたのだが、放映の直前に事故で死んでしまったのだ。
個人的にアニメの鑑賞と付く行為には、SNSで同志と語るまでが含まれている。サーチしたかったぜ、俺の書く話の評判を。めちゃくちゃエゴサの練習してたのに!
(まぁでも実質実写だしな、この世界! ビバ異世界転生!)
とはいえ、実写と呼ぶにはもうだいぶ変質してしまっているのだが。
とりあえず俺はルースに嫌がらせなどしない。いい感じにシナリオの強制力でヴィンセントとくっついたりなんだりして幸せになってほしい。
「ルース? お前、馬車には乗らないのか?」
「へっ!? な、な何故それを!」
うーんルース、人に隠し事したい時は図星突かれてもその反応はやめような。可愛いから言わないが。
俺がいつも通り危険飛行の準備をしていたら、ルースが後ろでソワソワしているのに気が付いた。今日は学校入学二日前である。どうにか魔法の杖と教材を揃えたルースが、全てを置き勉してきたセリオンと共に学校へ向かう手筈だった。
「あ、アーノルド様が、普段空を飛んで学校に行っているとお聞きして……危険なので! 僕、戦えませんけど、せめて肉壁になろうと!」
「こ、この数日でそんな覚悟を。いや、ダメです。馬車に乗りなさい」
危険飛行してる身分なので、もしルースが好奇心で飛ぶつもりなら止めはしない……が、そうでないなら推奨もしないぜ。
普段より数段多くの使用人が見送りに来ている状況で、暴走したルースがふんふんと気合を入れている。魔法の馬車へさっさと乗り込んでオーロラさんと何やら話しているセリオンがこちらをチラリと気にしていた。
そういえばこいつ、こんな子だったな。気合いが空回りしがちで一生懸命でいい子で、思い込んだら一直線。可愛らしいものである。
「俺のことは気にするんじゃない。それと、ポチを今回は乗せているから。指導役として頼んだぞ」
「ハッ……そ、そうでした。ポチとセリオン、仲悪いですものね……し、失礼しました! セリオン様は……」
セリオンとルースは仲良しの友達同士だ。時折一緒に遊んでいるのを見るし、わがままでプリンセス的精神のセリオンをルースがその寛大な心で許容し、昔から仲良くしている。相性が良いんだろうな、根本的に。
そしてルースは、そんなセリオンとの蜜月を俺に知られていないと思っているらしい。
公爵の息子に一介の使用人が不敬だから、みたいな理由だろうが。相変わらず隠し事のできない子である。というかセリオンが普通にルースの話をするので秘密の関係も何もない。
「良いよ、知ってる。お前達は仲がいいからな……しかしポチとセリオン、何故仲が悪いんだろうな? セリオンは身分差別するような子じゃないんだが……」
「へ?? いやっ、それは貴方が……」
「?」
「ルース、何してるの。早く行くよ」
何か言いかけたルースを遮るように、セリオンが馬車から声をかける。愛おしい弟は早朝起こされ不機嫌そうだ。ポチが馬車の中でソワソワしているのを迷惑そうペッペッと払っていた。その様子を見て、ルースが慌ててそちらに駆け寄る。
「はは! 悪いな。仲介役頼む」
「アーノルド様!」
魔法の馬車が出発する前にすっと飛び上がる。慌てて追いかけようとしたルースがぴょいんと跳ねて馬車に吸い込まれていった。十中八九セリオンの仕業だろう。
飛び上がる。遠くに空が見えて、それがぐんぐんと近づいていっていた。上に行けば行くほど肌寒くなってくる。傍観してるから大丈夫だけれど。
空から見た世界は相変わらず綺麗で、人が住んでいるとは思えないほどだ。王都に目を向ける。ここを飛んだ日の、一番思い出深い夜。隣には笑顔の可愛い少女がいた。もう少女じゃないけど。
『……貴方って、生きたいんだか死にたいんだかとんと分かりませんね』
「生きたいに決まってるだろ普通。何言ってるんだ」
『はいはい。普通はね』
指輪から呆れたような声が漏れ出た。魔神である。こいつもあと一年くらいの付き合いになるのか……。
「とはいえ、お前ごと処刑される可能性とかも全然あるからな。頑張ろうな」
『え? 普通に初耳なんですけど』
「いやお前隠しキャラなんだもん。というか、元々敵としてだけ出してたんだけど書いてるうちに愛着湧いて攻略対象にしちゃった。だからルートによってはお前は消滅します」
『人命軽視がスローガンにでもなってるんですか?』
お前人じゃないからな。
そう、これから先はルースの選ぶルート分岐によって、世界が滅んだり創生したり俺が死んだり惨たらしく死んだり爆散したりする。
この薄れかけた前世の記憶で、どうにかルースを都合のいいルートに誘導し生き残るしかないのである。
『まぁ、どれだけやっても死ぬ時は死にますが』
「なんでそんなこと言うんだお前怒ってる?」
『当たり前すぎる』
たった今魔神の不興を買ったが、まぁ四捨五入して幸先良しと言うことで。
(とはいえ、アニメは観れなかったんだよなぁ)
本編シナリオライターとしてアニメの監修や表現にはいくつか携わらせていただいたのだが、放映の直前に事故で死んでしまったのだ。
個人的にアニメの鑑賞と付く行為には、SNSで同志と語るまでが含まれている。サーチしたかったぜ、俺の書く話の評判を。めちゃくちゃエゴサの練習してたのに!
(まぁでも実質実写だしな、この世界! ビバ異世界転生!)
とはいえ、実写と呼ぶにはもうだいぶ変質してしまっているのだが。
とりあえず俺はルースに嫌がらせなどしない。いい感じにシナリオの強制力でヴィンセントとくっついたりなんだりして幸せになってほしい。
「ルース? お前、馬車には乗らないのか?」
「へっ!? な、な何故それを!」
うーんルース、人に隠し事したい時は図星突かれてもその反応はやめような。可愛いから言わないが。
俺がいつも通り危険飛行の準備をしていたら、ルースが後ろでソワソワしているのに気が付いた。今日は学校入学二日前である。どうにか魔法の杖と教材を揃えたルースが、全てを置き勉してきたセリオンと共に学校へ向かう手筈だった。
「あ、アーノルド様が、普段空を飛んで学校に行っているとお聞きして……危険なので! 僕、戦えませんけど、せめて肉壁になろうと!」
「こ、この数日でそんな覚悟を。いや、ダメです。馬車に乗りなさい」
危険飛行してる身分なので、もしルースが好奇心で飛ぶつもりなら止めはしない……が、そうでないなら推奨もしないぜ。
普段より数段多くの使用人が見送りに来ている状況で、暴走したルースがふんふんと気合を入れている。魔法の馬車へさっさと乗り込んでオーロラさんと何やら話しているセリオンがこちらをチラリと気にしていた。
そういえばこいつ、こんな子だったな。気合いが空回りしがちで一生懸命でいい子で、思い込んだら一直線。可愛らしいものである。
「俺のことは気にするんじゃない。それと、ポチを今回は乗せているから。指導役として頼んだぞ」
「ハッ……そ、そうでした。ポチとセリオン、仲悪いですものね……し、失礼しました! セリオン様は……」
セリオンとルースは仲良しの友達同士だ。時折一緒に遊んでいるのを見るし、わがままでプリンセス的精神のセリオンをルースがその寛大な心で許容し、昔から仲良くしている。相性が良いんだろうな、根本的に。
そしてルースは、そんなセリオンとの蜜月を俺に知られていないと思っているらしい。
公爵の息子に一介の使用人が不敬だから、みたいな理由だろうが。相変わらず隠し事のできない子である。というかセリオンが普通にルースの話をするので秘密の関係も何もない。
「良いよ、知ってる。お前達は仲がいいからな……しかしポチとセリオン、何故仲が悪いんだろうな? セリオンは身分差別するような子じゃないんだが……」
「へ?? いやっ、それは貴方が……」
「?」
「ルース、何してるの。早く行くよ」
何か言いかけたルースを遮るように、セリオンが馬車から声をかける。愛おしい弟は早朝起こされ不機嫌そうだ。ポチが馬車の中でソワソワしているのを迷惑そうペッペッと払っていた。その様子を見て、ルースが慌ててそちらに駆け寄る。
「はは! 悪いな。仲介役頼む」
「アーノルド様!」
魔法の馬車が出発する前にすっと飛び上がる。慌てて追いかけようとしたルースがぴょいんと跳ねて馬車に吸い込まれていった。十中八九セリオンの仕業だろう。
飛び上がる。遠くに空が見えて、それがぐんぐんと近づいていっていた。上に行けば行くほど肌寒くなってくる。傍観してるから大丈夫だけれど。
空から見た世界は相変わらず綺麗で、人が住んでいるとは思えないほどだ。王都に目を向ける。ここを飛んだ日の、一番思い出深い夜。隣には笑顔の可愛い少女がいた。もう少女じゃないけど。
『……貴方って、生きたいんだか死にたいんだかとんと分かりませんね』
「生きたいに決まってるだろ普通。何言ってるんだ」
『はいはい。普通はね』
指輪から呆れたような声が漏れ出た。魔神である。こいつもあと一年くらいの付き合いになるのか……。
「とはいえ、お前ごと処刑される可能性とかも全然あるからな。頑張ろうな」
『え? 普通に初耳なんですけど』
「いやお前隠しキャラなんだもん。というか、元々敵としてだけ出してたんだけど書いてるうちに愛着湧いて攻略対象にしちゃった。だからルートによってはお前は消滅します」
『人命軽視がスローガンにでもなってるんですか?』
お前人じゃないからな。
そう、これから先はルースの選ぶルート分岐によって、世界が滅んだり創生したり俺が死んだり惨たらしく死んだり爆散したりする。
この薄れかけた前世の記憶で、どうにかルースを都合のいいルートに誘導し生き残るしかないのである。
『まぁ、どれだけやっても死ぬ時は死にますが』
「なんでそんなこと言うんだお前怒ってる?」
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たった今魔神の不興を買ったが、まぁ四捨五入して幸先良しと言うことで。
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