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学院での日々
十限目
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みっちりと様々な授業を受け、生徒たちはようやく騎士寮の談話スペースへと集まってきた。ちなみにこの協調性のない奴らが談話スペースに集まるのはかなり珍しい。大変なストレスだったのだろう。
「づ、づがれだ……」
「もー二度としたくなーい! だいたい、クラス担当も違うのにさー!」
「アハハ。希望者は、各授業のエキスパートの講義を聞きにいけるんだよ。クラス担任が全ての授業を受け持つのは無茶だから、そうしてる方が多いかな」
「ほ、ほほんとにエキスパート……? 歴史学とか、つまらなすぎ……」
贅沢な奴らである。生き証人エトンの歴史学、アカシック・レコードの所有者シャーウッドの魔法道具学なんて、何億積んでも本来は見られないものなんだからな。
そう言いかけたのを押し留め、談話室に入ってきた生徒たちにリオンは笑いかけた。
「お疲れ様、みんな。よい学びになった様で何よりだ」
皮肉めいた教師の言葉に、各々不満げな視線が集まる。どうやらリオンは完全に嫌味なキャラクターとして定着してしまったらしい。全く失礼なことだ。
「なに、事実さ。君たちは所詮この程度……周囲の子らは授業を理解していただろう? でも君たちはどうだい、何か年号の一つは覚えたかな?」
「待てや、旦那」
「どうしたのかな、イサクくん」
紅茶の香りを楽しみ、口をつける。ローズヒップの爽やかな香りはエレノアのお気に入りだった。リオンとしてはもう少し深みのある方が好みだが、お子様のエレノアに合わせてよくこれを淹れたものだ。
「ぼくらが落ちこぼれ……って言いたいんか?」
「きちんと言葉の意図を見抜いた様で何より」
「なっ……」
魔法使いの高いプライドを貶され、騎士寮全体の殺気が上がる。色めき立つ、と言うのだろうか。これを。一人ででも学んでいたらしいエドリック、レオナルドは、リオンの直接的な煽りを仕方なさげに、もしくは不安そうに見つめていた。
「君達に能力があるのはわかる。だが、あるだけで満足しているのが現状だね。ユウキくん、魔法道具学の初歩授業はどうだったかな?」
「えっ……よ、よく分かんなかったよ。難しい言葉とか、いっぱい出てくるし……」
「そうかい。魔法使いが占星術のため扱う道具は一般と違い、魔法道具学の真髄を表している。君はよくわからない道具を武器として使うのだね」
急に振られたユウキに言葉を返せば、手元の道具に目を移した。本当に考えたことがなかったのだろう。魔法使いにとって魔法道具の確認を怠ることは、剣士が刃こぼれの確認一つせず名剣を扱うのによく似ている。野蛮、非効率、何より勿体無い。野獣であるまいし、特に魔法使いは野蛮さを嫌う。
「ダミアンくん? 君、歴史学を散々に言ったそうだな」
「な、ななんで知って……」
「君の大切にしている動物たち……特に、秘密基地にいた歌羽鳥は、歴史と密接に絡み付いた進化をしているはずだが、知っていたかな?」
ダミアンが視線を逸らし、黙りこくる。今日一日遠くから見ていて思ったが、彼らはあまりにも幼く未熟だ。まだ一年生だから仕方がないのだろうけれど、彼らを導く役目を言い渡されたのはリオンなのだ。
「君たちは、何か一つのことに長けている。それは闇魔法であったり占星術であったり、個人によって違うね?」
「そやな……」
「しかし学問というものは密接に絡みつくものだ。本来隔てられるものではない。ただ先達が、索引しやすい様に分けていただけ」
元素魔法を学べば呪文学の履修は必須となる。そうなればまずはルーン文字とその法則から、理解を深めるには歴史学が必要なのだ。
けれどそれは元素魔法が特別高等なのではなく、全ての魔法はあらゆる学問を通して練り上げられるものだからに他ならない。
だからこそ、魔法使いというのは非魔法使いに比べ、叡智たる存在でなければならないのだ。
「他の、今まで授業を受けてきた彼らは、そのあらゆる学問を初歩だろうと学べている。けれど君たちはどうだい? 自分の生まれ持った能力を磨く努力はしたのかな?」
膝の上で眠る謎生物の毛並みを撫でる。さっきまでお風呂に入れていたので大変に毛並みがいいが、それまでがなかなかに大変だった。
逃げ出したこの子を貴族寮の二年生と呪文のみで捕獲する実習をしていたが、この子は呪文を弾く能力があるらしく手こずったのだ。
「分かったら学びなさい、落ちこぼれ達。教え導くのは俺の役目だが、それは人の話。まともに話も聞けない動物を導く気はないよ」
そう言った瞬間の面々の反応は凄かった。反感、尊敬、悪意、畏怖……そういうものが入り混じり、一つの視線となってリオンにプレッシャーを浴びせる。当然怯むリオンではない。何より、反論の声が上がらないということは、本人達にも自覚があるということ。
「ほとんど使われていないけれど、騎士寮の大図書館はそこの暖炉から指定された呪文を入力すれば行ける地下にある。行けるものなら行ってみなさい」
「づ、づがれだ……」
「もー二度としたくなーい! だいたい、クラス担当も違うのにさー!」
「アハハ。希望者は、各授業のエキスパートの講義を聞きにいけるんだよ。クラス担任が全ての授業を受け持つのは無茶だから、そうしてる方が多いかな」
「ほ、ほほんとにエキスパート……? 歴史学とか、つまらなすぎ……」
贅沢な奴らである。生き証人エトンの歴史学、アカシック・レコードの所有者シャーウッドの魔法道具学なんて、何億積んでも本来は見られないものなんだからな。
そう言いかけたのを押し留め、談話室に入ってきた生徒たちにリオンは笑いかけた。
「お疲れ様、みんな。よい学びになった様で何よりだ」
皮肉めいた教師の言葉に、各々不満げな視線が集まる。どうやらリオンは完全に嫌味なキャラクターとして定着してしまったらしい。全く失礼なことだ。
「なに、事実さ。君たちは所詮この程度……周囲の子らは授業を理解していただろう? でも君たちはどうだい、何か年号の一つは覚えたかな?」
「待てや、旦那」
「どうしたのかな、イサクくん」
紅茶の香りを楽しみ、口をつける。ローズヒップの爽やかな香りはエレノアのお気に入りだった。リオンとしてはもう少し深みのある方が好みだが、お子様のエレノアに合わせてよくこれを淹れたものだ。
「ぼくらが落ちこぼれ……って言いたいんか?」
「きちんと言葉の意図を見抜いた様で何より」
「なっ……」
魔法使いの高いプライドを貶され、騎士寮全体の殺気が上がる。色めき立つ、と言うのだろうか。これを。一人ででも学んでいたらしいエドリック、レオナルドは、リオンの直接的な煽りを仕方なさげに、もしくは不安そうに見つめていた。
「君達に能力があるのはわかる。だが、あるだけで満足しているのが現状だね。ユウキくん、魔法道具学の初歩授業はどうだったかな?」
「えっ……よ、よく分かんなかったよ。難しい言葉とか、いっぱい出てくるし……」
「そうかい。魔法使いが占星術のため扱う道具は一般と違い、魔法道具学の真髄を表している。君はよくわからない道具を武器として使うのだね」
急に振られたユウキに言葉を返せば、手元の道具に目を移した。本当に考えたことがなかったのだろう。魔法使いにとって魔法道具の確認を怠ることは、剣士が刃こぼれの確認一つせず名剣を扱うのによく似ている。野蛮、非効率、何より勿体無い。野獣であるまいし、特に魔法使いは野蛮さを嫌う。
「ダミアンくん? 君、歴史学を散々に言ったそうだな」
「な、ななんで知って……」
「君の大切にしている動物たち……特に、秘密基地にいた歌羽鳥は、歴史と密接に絡み付いた進化をしているはずだが、知っていたかな?」
ダミアンが視線を逸らし、黙りこくる。今日一日遠くから見ていて思ったが、彼らはあまりにも幼く未熟だ。まだ一年生だから仕方がないのだろうけれど、彼らを導く役目を言い渡されたのはリオンなのだ。
「君たちは、何か一つのことに長けている。それは闇魔法であったり占星術であったり、個人によって違うね?」
「そやな……」
「しかし学問というものは密接に絡みつくものだ。本来隔てられるものではない。ただ先達が、索引しやすい様に分けていただけ」
元素魔法を学べば呪文学の履修は必須となる。そうなればまずはルーン文字とその法則から、理解を深めるには歴史学が必要なのだ。
けれどそれは元素魔法が特別高等なのではなく、全ての魔法はあらゆる学問を通して練り上げられるものだからに他ならない。
だからこそ、魔法使いというのは非魔法使いに比べ、叡智たる存在でなければならないのだ。
「他の、今まで授業を受けてきた彼らは、そのあらゆる学問を初歩だろうと学べている。けれど君たちはどうだい? 自分の生まれ持った能力を磨く努力はしたのかな?」
膝の上で眠る謎生物の毛並みを撫でる。さっきまでお風呂に入れていたので大変に毛並みがいいが、それまでがなかなかに大変だった。
逃げ出したこの子を貴族寮の二年生と呪文のみで捕獲する実習をしていたが、この子は呪文を弾く能力があるらしく手こずったのだ。
「分かったら学びなさい、落ちこぼれ達。教え導くのは俺の役目だが、それは人の話。まともに話も聞けない動物を導く気はないよ」
そう言った瞬間の面々の反応は凄かった。反感、尊敬、悪意、畏怖……そういうものが入り混じり、一つの視線となってリオンにプレッシャーを浴びせる。当然怯むリオンではない。何より、反論の声が上がらないということは、本人達にも自覚があるということ。
「ほとんど使われていないけれど、騎士寮の大図書館はそこの暖炉から指定された呪文を入力すれば行ける地下にある。行けるものなら行ってみなさい」
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