身の程を知るモブの俺は、イケメンの言葉を真に受けない。

Q矢(Q.➽)

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13 回る世界

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思っていたより予想外の動きをしてくる本條に対して、警戒心の爆上がりした俺。
だから自分なりに細心の注意を払った筈だった。

店選び、本條との距離、オーダーするドリンクから料理、何時でもスマホを取れる位置に置いて。

万全の構えの筈だ。




焼きうどんと唐揚げと言う、栄養バランス的には偏り切った食事を終えてやっと人心地ついた俺。

やはり炭水化物と肉は最強なのだ。


口の中をさっぱりさせる為に緑茶を飲む。
腹具合いから言えばもう少し何か入りそうだけど、話が平行線な以上、本條といる時間を長引かせるのも避けたいなと俺は思っていた。


本條はずっと俺を眺めながらビール。
目の前の確実に美味いつまみより、こんなモブが食物を摂取しているだけの姿を酒のアテにしているのか。そうか。
まあそれも今夜で見納めだから好きなだけ見るが良いさ、こんな凡顔で良いのなら。
つーか、ビール一杯くらいもっと早く飲んだらどうなんだ。

本條が話の通じない人間だとわかったので、俺は強制的に接する機会を無くしてFOするしかないなと考えている。
この店を出たら連絡先もブロックし直して、接点をできるだけ少なくして。
勿体無いけど、馴染んだバイト先も変えないといけないかもしれない。
だって今日みたいに待ち伏せされるのは困る。

どうせ元々の学部も違うんだから、互いに意識しなければ顔を見る事も無いだろう。

そんな風に頭の中では既にこの店を出た後にやる事、この先の事をシュミレーション。




「失礼します。」

思考を遮るように襖の向こうから若い女性の声がした。
席担当のスタッフだろうか。

オーダーは全て来た筈なのに、店員はトレイに何か載せていた。

「失礼します。こちら本日御来店の皆様にサービスで。」


店員が小さな器の焼きプリンを2つとスプーンを2本、共にテーブルに置いた。

「わ、ありがとうございます。」

甘いものは好きだから、俺は素直に喜んだ。
あけましておめでとうサービスかな。折々にそういうイベントのサービスをする店って、何日くらい迄やるもんなんだろうか。
寒い時期だからアイスじゃなくて焼きプリンってのも気が利いてる。


「ヤス、好きでしょ。俺のも食べなよ。」

甘いものがあまり得意じゃない本條は、自分の分の焼きプリンを俺の前に つつーっと指で寄せて来た。

「ありがと。」

せっかくのご厚意を無碍には出来ない食い意地の張った俺は嬉しくなって、いそいそとプリンにスプーンを入れた。
カラメルソースの苦みが少し強いなと感じた以外、焼きプリンは蕩けるように美味かった。





異変を感じたのは、店を出て歩き出して数分後だ。

互いに譲らないまま、頭を冷やしてから後日また改めて話をしようとなり、今夜はお開きとなって店を出た。
会計時に当然の如く本條が出そうとしたが、自分の分は自分で払った。
奢られる理由が無い。

店を出ると、早速店内の暖房が懐かしくなる程に一気に冷えた。
さっむ。

買い物はもう今日は間に合わない。
降りる駅からアパート迄の途中にあるスーパーはそろそろ閉まる頃だろう。
仕方ないからコンビニで最小限の買い物だけをして、早く帰って温かい風呂に浸かろう。


「じゃ、また。」

「ああ。」


俺が乗る駅付近迄着いてきた本條がそう言ったが、俺はもう、その"また"は無いなと考えている。

生返事だけをして手を振って、本條に背を向けて2、3歩歩いた時、何故か視界が歪んだ気がした。

立ちくらみ、だろうか。

久々に仕事に出て疲れたのかなあ、と立ち止まって額を押さえた。
たかだか数時間程度の事で情けない。年末年始でそんなに体が訛ったのか。

「大丈夫?」

後ろから本條に声をかけられた。
それに返事を返そうとするのに、何故か言葉が出ない。口を開いて喋ろうとしているのに、声は只、空気が洩れていくだけになる。

何で急にこんなに眠い。


目を閉じて立っているのにぐるんぐるんと回っているのは、周囲なのか俺なのか。
倒れそうになるのを踏み留まる為に1歩出した足は、足首がぐにゃりとなり体重を乗せられない。
それどころか体全体に力が入らず、とうとう膝が折れた。

それを待ち構えていたかのように本條の腕にがしりと抱きとめられて、次には抱き上げられる浮遊感を感じた。


「大丈夫?具合い悪い?」

「………、」


違う、これは、違う。
何か、違う。

拒否は声にならない。
指を動かすのも億劫で、ダウンジャケットのポケットの中のスマホにすら手を伸ばせない。
頭もぼんやり霞がかかったようになってきて、思考がままならない。


「年始から張り切り過ぎたんだね。
大丈夫、ちゃんと責任持って連れ帰ってあげるから。


彼氏の俺がね。」


僅かに笑いを含んだような本條の声が遠くで聴こえて、俺の意識は落ちていく。



なんで、こんな…。


本條がこういう奴だって知ってた筈なのに一体、何処で気を抜いたってんだ、俺は。

本当に自分の学習能力の無さにうんざりする。
あれだけ風祭に言われていたのに。





(裕斗…。)



意識が途切れる瞬間に脳裏に浮かんだのは、昨日俺を見送った時の、寂しそうな幼馴染みの顔。


片想いが苦しくても辛くても、お前から離れなければ良かった。


俺の選択は何時も間違えてばっかりだ。

  

















    
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