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if 26 蝶は自ら籠の中 2 (本條ルート)
しおりを挟むどう考えてみても失くすものの方が多いとわかっていた。
覚束無く震える足でベッドから降りて、本條に支えられながら裕斗と風祭の待つリビングへ向かうと、2人は座っていたソファから立ち上がって俺に駆け寄ってきた。
その姿に、またチクリと胸が痛む。
俺はこれから、最悪の選択を彼らに告げる。
「ごめん。」
俺が頭を下げると、裕斗が小さく息を飲むのが聞こえた。
視界には裕斗の腰から下と、握り締めた手が見えている。力を込め過ぎて筋が浮き出て、震えているその拳。
最悪な事をしてしまっている。ずっと想ってくれていた幼馴染みに 気を持たせるだけ持たせて、待たせて。
救いにきてくれたその手を振りほどこうとしている。
誰だって、王子様みたいな裕斗を選ぶのに。何故、俺は。
「何で俺じゃ駄目なんだ。」
裕斗の声は震えている。
裕斗が駄目なとこなんて何も無いから、俺は言葉に詰まるしかない。
裕斗は俺の青春の全てだった。
彼に恋した事も、彼のような人に想ってもらっていた事も、幸せな事だと思っている。
15年の信頼、恋慕。
大事な、恋しい幼馴染み。
それを捨てて、欠点だらけの本條を選ぶなんて、正気の沙汰じゃない、誰が見たって。
それでも俺には本條を突き放せなかった。
どんな事をしてでも、俺を繋ぎ止めたい、心を得たいと足掻いた孤独な男。
こんなつまらない男ひとりに、感情の全てを注いでくれた。
馬鹿だ。
本当に馬鹿な男だ、此奴は。
でも、わかるんだ。
俺を手にしたら本條は、きっとこの先俺を裏切る事はない。その代わり死ぬ迄俺を縛り付けるだろうけれど。
裕斗は納得出来ない、と本條を睨み付けながら言った。
まあそうだよな、と思う。
「ごめん。本当にごめん。
絶対に裕斗の方が良いのなんか、わかってる。でも、理屈じゃないんだ。」
俺は本当にどうしようもないな、と苦笑いしながら言った。
「コイツには俺じゃなきゃ駄目らしいんだ。」
それを聞いた裕斗は叫んだ。
「俺だってお前じゃなきゃ駄目だわ!
何でだよ?ソイツみたい滅茶苦茶やれば良いのか?
独占する為にガキみたいに駄々捏ねりゃお前が手に入るなら俺だってそうする!!」
15年以上一緒にいて、聞いた事も無いような悲痛な叫びだった。
涙が出そうだ。
俺だってお前が大事だった。今だって大事なままだ。
でも俺は、澄ました顔をしているように見えて、今俺の手を握り締めながら震えているこの手を裏切れない。
「…お前には、俺なんかよりもっと良い奴が現れる。」
やっとの事で絞り出したのはそんな月並みなつまらない言葉でしかなくて、せめてもう少しマシなのは無かったのかと後悔した。
「…残酷な事を、言うんだな。」
俺の気の利かない言葉の後、暫くしてから裕斗はそう言って、唇だけを歪める微笑みを作った。
「…言い出したら聞かねえお前の頑固さを、今日くらい恨んだ事はねえよ。」
ぽつりとそう言って、裕斗は俺をじっと眺め、
そして思い切るように目を伏せて、もう何も言わず玄関に向かって歩き出した。
目で追うしか出来ない。
呼び止める事は問題の先送りにしかならない。
理解を求めるような残酷な事も出来ない。
零れる涙を止められないまま見送るしかなかった。
「…本当に、良いの?」
その場に残っていた風祭がぽつりと俺に問う。
「……ごめんな。せっかく、来てくれたのに。
カザ…ごめん。」
それだけを、やっと告げると 諦めたような表情で風祭はこくりと頷いた。
「泰がそれで良いのなら…。」
溜息混じりにそう言って、風祭も裕斗を追うように玄関へ向かった。
「彼の事は、ちゃんと送るから心配しないで。」
そんな言葉を最後に、玄関は閉まった。
俺と本條はまた2人きりになった。
本條の手はずっと震えていた。
「…俺を選んでくれて、良かったのか。」
本條はバスタブの湯に浸かった俺の体を洗いながら聞く。
今更そんな事を聞くのか、と思ったが、本條の顔を見ると端正な顔を曇らせたまま、俺の顔を見もしない。
俺の手も足も、未だ満足に力が入らない。
でも何とか根性でそれを動かして、バスタブの外にしゃがんでシャワーを持つ本條の頬をペシッと叩いた。
まあ、案の定 力はこもらない。
でも本條はびっくりしてるから、それはそれで成功なのだ。やっとこっち見たな。
それにしてもこんなにポカンとした間抜け顔の本條を見るのは初めてだ。うける。
「仕方ないだろ。キラキラしてるなんて言われちゃ。」
「……仕方ないの?」
本條は少し困ったような、不思議そうな顔で俺を見た。
俺みたいなふっつーの男を、キラキラに見えるような奇特な不治の病にかからせておいて、この先放置するなんて無責任な真似もできまいよ。
「お前が本当に俺に飽きる迄、そばにいてやるよ。」
そう言うと、本條は泣きそうな顔で笑いながら、
「じゃあ、一緒のお墓に入ってもらって良いかな。」
と言ったので、俺は涙が光るその目尻に口付けてやった。
この気持ち(情)はきっと愛になる、と 予感がした。
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