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7 違和感の正体 (隆慶side)
しおりを挟むその日から、僕とミツクニは恋人としてつき合い始めた。と言っても、最初、僕らはそれを周囲に公表していた訳ではなく、あくまで僕と彼との間だけでの事だった。とはいえ、それまでよりも親密になった僕達の距離感に、目敏い者は気づいていたかもしれない。
僕は周囲に知られても良かったのだが、ミツクニの方が気にした。おそらくは、僕の立場を気にしてくれての事だろうと、その時は思っていた。
しかし、今となってはそれもどうだったのだかわからない。ミツクニ本人が、僕とつき合った事を後悔していたのではと思っている。
きっとミツクニが僕の告白を受け入れたのは、彼なりの優しさ…いや、同情だったのだろう。
僕は心の何処かでそれに気づいていたのに、それにも気づかないふりをした。
始まりからずっと、僕はいくつもの違和感に目を瞑り続けていたのだ。誰よりも彼の近くに居られたら、それで良かった。
つき合い初めて1年も経つ頃には、僕はミツクニに対する独占欲を隠そうともしなくなった。自然、クラスメイト達を初めとした学園関係者には知られていく。だが、誰も僕には何も言わなかった。
そもそもからして社交的な性格でもなく、活発でもない僕は、幼稚舎の頃から遠巻きにされてきた。気は遣われるし無視される事こそ無かったが、積極的に親しく接してくれる者は少なかった。家で親に、『皇族相手に粗相をしないように』とでも言われているのか、単に僕の根暗そうな風体を忌避しているだけなのか、とにかく必要以上には近寄ってはこない。
祖父同士が学友だったという縁で、幼い頃から顔を合わせる機会が多かったミツクニだけが、僕に屈託の無い笑顔を見せてくれる友人だった。
ミツクニは僕の、幼馴染みであり、親友であり、兄弟であり、恋人だった。ミツクニだけが居れば、僕には全てが事足りたのだ。いや、彼で全てを間に合わせようとした。
今ならそれが完全な依存状態で異常だとわかるのだが、その当時はわからなかった。
だから、ミツクニがどんどん疲弊していっている事にも気づけなかった。
毎日あれだけベッタリと一緒に居たというのに、僕とミツクニの恋人らしい接触と言えば、せいぜいキス止まり。彼は、人目のある場所では手を繋ぐのも避けようとした。
でも僕は、彼が僕以外の人間と話しているのも笑い合っているところにも乗り込んでいき、彼の肩を抱いた。敢えて彼が嫌がる事をして、彼に対する所有権を主張したつもりだったのだ。彼もその場では、困ったようにしながらも抵抗せずに連れ去られてくれるから、僕はますます図に乗って同じ事を繰り返した。
次第に、僕だけでなく彼までも遠巻きにされるようになり、僕らは完全に浮いた存在になってしまった。そしてその状況に、誰にも邪魔されず2人きりで過ごせると満足していたのは僕だけだった。
反対にミツクニの精神状態はとうに限界を迎えていたのだろう。いつも笑っていたのにめっきり無表情になり、口数も減った。なのに僕は、彼を独占できる事が嬉しくて、その変化にきづけなかった。いや…本当は、自分の欲求を満たすために、またしても気づかないフリをしていただけだ。
彼を大切にしているつもりでいた。邪魔なものを排除して格段に増えた2人きりの時間で、恋を育んでいるつもりでいた。僕だけが。
一般的に、恋人のいる思春期の男子が、恋人とキス以上に進むまでにはどれくらいの期間が必要なものなのだろうか。少なくとも、キスに漕ぎ着けてから1年半も待ったのだから、決して早くはない筈だ。
そう考えていた僕にとって、それは思いもかけない拒絶だった。
部屋に呼んでいたミツクニと一緒に授業のレポートを片付けたあと、いつものようにキスをした。素直になすがままのミツクニが可愛いく、そろそろもう少し先を求めても良いんじゃないかと思った僕は、思い切って彼の制服のボタンを外そうと指を掛けたのだ。
すると、それまで流されるままだったミツクニが、突然僕の手を跳ね除けた。
そして、青ざめた顔で、声を震わせながら言ったのだ。
『申し訳ありません。私にはこれ以上、殿下のご希望に添う事は無理かと存じます…』
僕が脱がせようと指を掛けた襟元をしっかり合わせるように強く掴んで、唇は細かく震えていた。
ショックだった。ミツクニは僕を怖がっている。
そういうセリフが出てきたというのは、僕とキスをしてきたのが僕のご希望に添う為だったという事だ。つまり、恋愛感情などではなく皇族への忖度。忍耐。
度々感じていた違和感の正体を、はっきりと突きつけられた気がした。
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