44 / 68
あの空の色は
しおりを挟む1泊と言いながら、ラディスラウスが帰ると言ったのは翌々日の夕方だった。
雪長はラディスラウスが来た日を含め、3日間、授業を休んだが、その後更に1週間の静養が必要になった。
それだけ心身共に疲弊し消耗していたと言う事だ。
つまり、そうなるような事が行われていた、と草鹿は理解した。
「夕方には帰る。」
シールドを解き寝室から出て来たラディスラウスは、少し疲れた様子だったが表情は満足げだった。
草鹿としては、初日の夕方から雪長の様子が気がかりだったものの、蜜事に水を差す訳にもいかない。
故に、手持ち無沙汰で待機。
家事をしながら待っていたが、ラディスラウスは時折出てきて必要な命令を下し、揃えたものを取りに出ると直ぐに引っ込んでしまう。
雪の様子を聞こうにも取り付く島もなかった。
物理的距離は近くとも、シールドを張られては完全隔離状態と同じだ。
3日振りに見た雪長は、死んだように、と言うのが大袈裟では無い程に深く眠っていた。
診察に呼んだ学内の医師は、体に傷も無く 生命に別状がある訳では無いが、著しい体力の消耗があり、通常のヒールでは効きが悪い。
栄養点滴を打ちながら目を覚ますのを待てば良い、と所見を 告げた。
ラディスラウスはヒールは生活上使うような軽度のものしか使えない。表面的な細かい傷等は治せるが、重度の疲労になると難しかった。
結果、雪長が目を覚ましたのは、ラディスラウスが帰って2日後。
目覚めてからも何処かぼんやりとして呼びかけにも反応が鈍い。
「何でもない、大丈夫だ。心配をかけたな。」
と、薄く微笑みを浮かべるのだが、それが妙に胸騒ぎを覚えさせる。
明らかに以前の雪長とは違っていた。
(皇太子殿下はご機嫌良くお帰りになられた。ならば、主の言う通り、何も無かったのか?
お2人にとってはこれが普通なのか…?)
仲睦まじい、のだろうか?
皇太子を見ている限り、雪長は至極大事にされているように見えた。
しかし、と思う。
しかし雪長はラディスラウスからの連絡を受ける事も、自ら取る事も無かった。何故だろうか。
よくわからない。
ユアンに度々様子を聞かれ、報告をしてはいるが、ユアンはその度に何か難しい顔をして黙り込む。
言葉にはしないが、この辺りからユアンと草鹿、2人共の頭には とある仮説が立っていた。
もしや、ラディスラウスと雪長はーーー…。
雪長は1週間もすれば起き上がって、室内ならば歩き回れる程度になった。
窓辺に立ち、外を眺めている姿を見ていると、この十日ばかりで一段も二段も華奢になったようだ。
小さいながらも生命力に溢れていたものを、と草鹿の目は潤む。
欠席日数が長くなっているので、雪長の友人達が草鹿を見掛ける度に容態を聞いて来る。
皆一様に雪長の身を案じていた。
少し疲れが出たようで、と答えながら、草鹿は小さな主の光の無い目を思っていた。
皇太子来訪から約2週間。
雪長は久しぶりに教室に向かった。
クラスメート達に囲まれ、笑顔を見せているのを見て、草鹿は少しホッとする。
あれから雪長は少しづつ回復したように見えていたし、言葉数も戻りつつある。
久々の婚約者との逢瀬に、やはり少し疲れが出ただけだったのだろう、と思った。
授業に戻って2日目、雪長は久々にユアン(クレイル)に会った。
案じるような視線にも微笑みで返す雪長に、ユアンも違和感を感じている。
常のように帰りの手伝いを頼むと、困ったように断られた。
やはり未だ体調が戻らないのだろうか。
以前より頼りなくなった首筋の儚さに、ユアンは胸が痛む思いがした。
数メートル離れた場所に控えて様子を見ている草鹿を見遣ると、眉を下げて やはり困ったような表情で返された。
2人で話した仮説が、もしかして正しいとしても、そんなデリケート且つセンシティブな問題を雪長には聞けない。
時間経過で元の様子に戻るのを待つべきなのかもしれない、と思い始めていた。
寮への帰路、専用通路の窓から見える空模様のあやしさに、草鹿は呟いた。
「降りそうですね。」
雪長は ん、と空を見上げ、
「そうなのか?」
と小さく聞き返して来た。
え? と、草鹿の脳内の危険信号が点る。
「…よく、わからないが…そうか。」
明らかな灰色の空と雲を、雪長は認識出来ていなかった。
ああ、と草鹿はその場にくずおれそうになるのを必死に耐えた。
雪長は色彩を失っていた。
51
あなたにおすすめの小説
婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後
結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。
※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。
全5話完結。予約更新します。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
生まれ変わったら知ってるモブだった
マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。
貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。
毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。
この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。
その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。
その瞬間に思い出したんだ。
僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
【完結】婚約破棄の慰謝料は36回払いでどうだろうか?~悪役令息に幸せを~
志麻友紀
BL
「婚約破棄の慰謝料だが、三十六回払いでどうだ?」
聖フローラ学園の卒業パーティ。悪徳の黒薔薇様ことアルクガード・ダークローズの言葉にみんな耳を疑った。この黒い悪魔にして守銭奴と名高い男が自ら婚約破棄を宣言したとはいえ、その相手に慰謝料を支払うだと!?
しかし、アレクガードは華の神子であるエクター・ラナンキュラスに婚約破棄を宣言した瞬間に思い出したのだ。
この世界が前世、視聴者ひと桁の配信で真夜中にゲラゲラと笑いながらやっていたBLゲーム「FLOWERS~華咲く男達~」の世界であることを。
そして、自分は攻略対象外で必ず破滅処刑ENDを迎える悪役令息であることを……だ。
破滅処刑ENDをなんとしても回避しなければならないと、提示した条件が慰謝料の三六回払いだった。
これは悪徳の黒薔薇と呼ばれた悪役令息が幸せをつかむまでのお話。
絶対ハッピーエンドです!
4万文字弱の中編かな?さくっと読めるはず……と思いたいです。
fujossyさんにも掲載してます。
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる