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13 告解・前編 (立川side)
しおりを挟む「いらっしゃい」
少しはにかむような笑顔でドアを開けてくれた藤川は、なんだか少し痩せたようだ。
こころなしか、声も…。
「すまないな、急に。…もしかして風邪ひいてた?」
「いや、さっきまで寝てて。
声、暫くガラガラしてるけど、ごめんね。
1度、さっき来てくれたよね。直ぐに切れたから帰っちゃったかと思ってた。」
「大丈夫、駅前の本屋に寄ってたから。」
ごめんね、直ぐに出られなくて、と藤川は詫びながらコーヒーを淹れてくれた。
「砂糖は5つ…」
そう言いながらスプーンを回している。
何時の間にか藤川は俺の好みの殆どを把握してくれている。
マメなんだよな…。
こんなに綺麗な青年の人生に、一時的とはいえ俺のような人間が関わる事になったなんて不思議だ。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
あの日と同じ揃いのマグカップ。
同じやり取り。
違うのは、始まりではなく終わる話をしなければならないと言う事だ。
「あの彼が一緒かと…。」
見回すが、誰かがいたような気配は無い。
1人だったというのは本当だったのか。
向かいのソファに腰を下ろした藤川の顔が 微妙に曇った。
「さっきは、何故来てくれたんですか?
解除の件で?」
「それもあるけど、彼といるにしても、間が開き過ぎだし何かあったのかと…。あ、すまない。」
余計な事を言ってしまった。
「心配、してくれたんだ…。」
それだけ言うと俯いてしまった。
なんだか、思ってたのとだいぶ様子が違うような…。
と思っていると、意を決したように顔を上げて言った。
「謝らなきゃいけない事が、あります。」
その顔をまじまじ見てしまうと、やはり痩せて顔色も良くない。…窶れた?
滅多な事では音をあげない、優れた身体能力と強靭な肉体を持つαが?
「あやまる?」
俺に?藤川が?
「あの彼と、何かあったのか?」
そう聞くと、藤川の顔がくしゃりと泣きそうに歪んだ。
「…ごめんなさい、違うんです。アイツは…榊は、只の幼馴染なんです。」
「…幼馴染?」
えーと…、幼馴染という事は、俺なんかよりずっと昔から知っているという事で…。
確かにそんな2人が運命の番だとするならば、俺なんかに出会う前に既に番になってなきゃおかしいもんな?
でも、じゃあ…
「何でそんな嘘なんか…。あ、」
「違います。」
俺と別れたかったからか!と口にしようとしたら先読みされたようだ。
食い気味に否定される。
「洸さんの考えてるような理由じゃありません。俺は貴方と別れたいなんて思った事は1度もない。」
貴方は、違うでしょうけど…。
と、小さく続けて、藤川は唇を噛んだ。
あまり噛むと跡になりそうでひやひやする。
「俺はそんな事…」
「思ってましたよね。自分じゃ俺の相手には不足だと。俺にはもっと良い相手がいるんじゃないかって。」
少し憤りを含んだ、震え声。
そうか…。藤川も、察していたんだな。
俺の心にある後ろめたさを。
「俺は、洸さんがお情けで俺と付き合ってくれてるのはわかってました。でも、俺は貴方が好きだった。入学当初からずっと、」
「だから、」
「だから、噛みました。」
「酔って朦朧としてた貴方のうなじを、噛んだ。」
「貴方の許可なく。」
「興奮はしてましたけど、我を忘れるほどではなかったし」
「あの店で会ったのだって偶然じゃない。尾けてたんです。」
矢継ぎ早の告白に処理速度がついていかない。
は?
入学当初から?
勝手に噛んだ?
偶然じゃない?
「全部、確信犯でした。」
確信犯…。
「俺、付け込みました。洸さんの大人の責任感に。
真面目な人だって、わかってたから。」
泣き出しそうな、そんな表情で藤川は、
「全部、俺のせいです。」
と、言った。
何と言ったら良いのかわからなかった。
つまり、俺は、最初から藤川に狙われていて、嵌められたと、そういう事だろうか…。
…え? て事は…、
「藤川は俺がΩなのを知っていたのか?」
きっちり隠していたつもりだったのに、いつ?
匂いでもしていたのか、しかしそれなら他のα達だって気づく筈だ。
不思議に思って問いかけた俺に、藤川は首を振って答えた。
「いえ。あの夜初めて知りました。
介抱しようとして…。」
なんだ…そういう事か。良かった。
大学側とも秘密厳守の方向で、と話がついていたから少し焦った。
……いや、良くはないか。
実際、バレた途端に噛まれてる訳だし。
「Ωって知った時、俺、チャンスだと思いました。貴方を手に入れるチャンスだって。逃したら2度目は無いと思っちゃって、」
「貴方を誰にも渡したくなくて、卑怯な事をしました。」
「本当に、ごめんなさい…。」
それは悲痛な告白だった。
真っ青な顔で、前で組んだ両手を固く握って。
「責任を、貴方におっ被せたんです、俺。」
苦しそうに眉を寄せて、藤川は自嘲した。
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