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14 告解・後編 (立川side)
しおりを挟む「………そうか…。」
藤川の告白は情報量が多過ぎて、正直、何と言えば良いのかわからない。
「俺は思ったより、藤川に好いてもらっていたんだな。」
衝撃的過ぎて的外れな感想しか出てこない。
とすると、思い返せば、あの時もその時も、閨事中の睦言も、全て本気の本気で言ってたという事か…。
てっきり噛んでしまった義務だと思っていたな。
責任感や罪悪感からの気遣いや優しさだろうと決めつけていた。
「でも、そこまで想ってくれていたなら、何故?」
わざわざ運命を持ち出してまで、俺に別れを切り出した理由は。
「…洸さんの…、貴方の気持ちを、知りたくて…。」
掠れた声を絞り出すように答える藤川。
「少しでも、俺を好きになってくれていれば…何かリアクションがあれば、って。
ほんの少し、自信が欲しかっただけでした。」
リアクション?
「少し戸惑ってくれるだけでも良かったんです。そしたらすぐに嘘だって言うつもりでした。」
ああ…なるほど。俺は試されたのか。
なのに俺はすんなり了承してしまって、だから予定が狂ったって事か。
しかしそれについては俺だって言い分がある。
「…運命の相手だというなら、どだい俺では太刀打ち出来ないと思ったんだ。」
互いがどんな状況にあっても、出会ってしまったが最後、どうしたって惹かれあうという。その引力には抗えない… 殆ど伝説化している“運命の番”。
藤川の口から聞いた時も、正直 半信半疑ではあった。
でも、本人達がそう信じているのなら、それを覆すまでの何かを俺は持たないから。
俺よりも似合いの相手を連れて来たなら、何時でも離れてやる心積りは常にあった。
共に日々を過ごして、体を重ねて、君の愛撫の癖を体に憶え込まされながら、愛しく思う気持ちを 芽生えたそばから、摘み取って、摘み取って…。
決して心を移すまいと。
何時か来てしまう、その日の為に。
まだ学生である君の未来を、俺だけに縛り付けない為に。
そしてあの日、実際に別れを告げられて、顔色ひとつ変えずにいられたのは、幾度となく頭の中で来たるべきその場面を 繰り返しシミュレーションしていた成果だ。
無様な別れの姿を見せて 君の心に僅かな枷も遺したくは無かった、俺の勝手な矜恃だ。
決して少しも心が波立っていなかった訳では無い。
はたからは、凪いで見えていたとしても。
君の存在の抜けた日常に、時に空虚を感じても、それが寂しさというものだとは気づかずに、今この時まで…。
常に、君に最良な対処をしようと、そればかりを考えて、
君の気持ちをおざなりにしてしまっていた。
あんな画策をさせてしまう程に、君を追い詰めてしまっていた。
「すまなかった…。」
謝罪の言葉を口にすると、藤川が驚いて乗り出して来た。
「俺が謝ってるんです!洸さんが謝る事は何一つ無い!」
「君を追い詰めてしまったのは俺の至らなさだ。君の本心を汲み取れなかったから…。」
一番大事な部分を蔑ろにしてしまっていた。
やはり俺は、誰かの伴侶となり共に生きていくのにはとことん向かない人間らしい。
だってこんなにも相手の心の機微を量れないでいる。
人と深く関わる事をして来れなかった俺は本当にポンコツなのだ。
情深い彼のそばにいるにはふさわしくない。
きっと俺は、この先何度でも彼を傷つけるだろう。
俺は、人としての情緒が欠落している欠陥品だ。
おそらく、Ωとしても。
「ごめんなさい、ごめんなさい洸さん…
ごめんなさい…、」
藤川の頬を伝う涙をみつめながらぼんやり思う。
(…俺は、何度藤川にこんな顔をさせる事になるんだろうか……。)
見ている内に俺まで涙が出てきた。
自分がこんな時に泣けるなんて思ってもみなかったな。
「藤川」
名を呼んだ俺に、藤川が肩を震わせた。
「洸さん、ごめんなさい!!もう二度と、絶対…」
「別れよう。」
藤川の涙が止まった。
「俺達は、合わない。」
「……やっぱり、許せないです…よね…。」
俯かせてしまった。
大きな体を縮こまらせて。
そうじゃない、君にそんな風にさせるのが、俺は嫌なんだ。
俺の顔色や機嫌なんか窺わないでくれ…。
「…君に俺は相応しくない。
俺は君を傷つけてばかりいるようだ。」
「貴方に傷つけられた事なんか1度もない!!」
藤川の震える声。
「…俺は、君に相応しくない。」
もう一度、はっきり言った。
「…お願いです…許せないのは仕方ない…
でも、貴方自身を理由にしないで…。」
とうとう嗚咽混じりになった。
きっと俺は、知らない所でこんな風に君を泣かせて、苦悩させていたんだろう。
情けない。何が大人だ…。
俺が、もう少し…もう少し、まともな人間だったら…君をこんな風には…。
気高いαをこんな風にしてしまっていた自分を、俺自身が許せない。
そんな俺が、未来の君を独占し続ける事なんか許される訳が無い。
だから、
「番を、解除してくれ。」
言葉の後の、耳の痛くなる程の、静寂。
唇を戦慄かせ…、藤川は諦めたように、静かにその目を閉じた。
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