死亡フラグばっかのヤンデレBLゲームで、主人公になったんですけど

つかさ

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ホワイト家

ヤンデレに愛された男

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 変な夢……。妙に生々しくて……夢じゃない?僕は……俺は『水無瀬 優里』だ!

 バッと起き上がれば、机と本棚しかない、いつも通りの簡素な部屋。

 今にも心臓が飛び出て、破裂しそうな左胸を抑える。
 汗によってパジャマが全身に張り付き、気持ち悪い。

「ハァ、ハァ……」
 
 思い出した、思い出してしまった。
 ヤンデレ変態野郎達に蹂躙され、身体を開発されてきた悲しき人生を。

 そして、ここが救済の「き」の字もない『愛されて死ね!』という最悪なネーミングのヤンデレBLゲームであることを。

 ベッドから降りて、自分の部屋の鏡まで這いずり、全面鏡に手を当て、顔をじっくり眺める。両手で自分の頬を叩くと、パチンッと良い音が鳴った。

「……うそ……じゃない!」

 何10回瞬きしても、主人公の「ノア ホワイト」だ。頬をつねれば、赤くなって痛い。
 それ以前に、僕の『ノア』としての記憶が、真実である事を物語っている。

 日光に照らされ輝く金髪。前髪は目の上まであり、耳を軽く覆っているサイドの髪。きめ細かい色白の肌。氷みたいに透き通っている碧眼の儚げな美少年。最悪だ!

 華奢なせいで、白のパジャマがブカブカしている。
 
 お願いだから、誰か幻覚だと言ってください。

 このゲームを30回以上プレイした。
 悲惨な結末を迎える事しかできないノアを、ハッピーエンドの幻ルートへ導きたかったけど、不可能。
 多岐に渡るエンディングルートで、ノアは天へと旅立つか、監禁されるか。要はバッドエンド。酷すぎるぞ!

 元彼、つまりサイコパス達の心理と対処法を学ぶために、『愛されて死ね!』を何回もクリアしたんだ。このゲームを通して、世界には多種多様な愛の形?と、行為がある事を学習できた。

 1ミリも役立っていないんだが。
 
 今でも、純粋なノアが汚されていく光景が鮮明に思い出せる。運営は爆発しろ!

 興奮して息が荒くなってしまったので、深呼吸する。

「今は……15歳」

 『アストリア魔導王国』は、15歳で成人。多くの人が王都へ出稼ぎに行くか、魔法を学びに行く。

 唐突に前世を思い出したから、頭が混乱してしまい、詳細なゲーム内容を思い出せない。
 
 空也の1件も実感が湧かないし、今は生きているのだろうか。僕が死んだのって、空也のせいじゃ……。僕、殺人者になってないよね?
 
 余りにも衝撃的なエロシーンだけが、頭の中のスクリーンで上映中だ。
 あぁ、もう思考がぐちゃぐちゃ。
 
 水無瀬である僕は死んでしまって、これからノアの死亡フラグをへし折らなければならない。もちろん、監禁、開発、共依存もだ。

 床に座ったまま、壁にかけてあるカレンダーと時計を確認する。

 ん?待てよ。『12時馬車、王都の学園に出発』って赤字で書いてあるな。今日は4月1日だし。

「ヤバ!今11時じゃん」
 
 日常をどう過ごしていたか、言語、僕の住む町の情報が、なんとなく理解できるから、生活には困らないだろう。
 でも、水無瀬である俺とノアである僕の記憶が、混在していて、奇妙な感じだ。

 荷物の準備は済んでいるし、王立魔導学園へ向かう馬車まで走らなければ。

 ……てか、行かないってボイコットしよう。
 そしたらヤンデレ鬼畜に出会わず、幸せな日々を過ごせるのでは?確か、ノアは魔導学園で貞操を奪われるはずだ。

 『愛されて死ね!』というクソゲーの主人公『ノア』は、貞操観念ゆるゆるのポヤポヤ系ヒロインだ。街を歩いてたら強姦に合い、戦闘に巻き込まれ死亡など、不幸すぎる。
 が、今の僕は違う。主人公補正とかあったら、掘られるだろうけど。

 鏡に映る自分の姿を見て、深いため息をつく。ほのぼのした世界に行きたい。
 
 軽快に階段を上がる音がして、「にーいーさん!」という高めな声が聞こえた。
 豪快にドアが開く。

「兄さん! 父上が呼んでいますよ!」
「ごめん、寝過ごした」

 この眩しい笑顔を見ると、ほっこりする。

 僕より1歳年下の『ルイス ホワイト』は、淡い水色のナチュラルな髪と、スミレ色の丸い瞳をもつ可愛い義弟だ。
 僕の身長は165㎝で、ルイスは162㎝。この少しの差が誇らしい。
 血縁者ではなく、ノアが、僕がスラム街で知り合って、我が家へ招き入れたのだ。

 辺境に位置するド貧乏男爵家のホワイト家は、父上と弟、そして僕で構成されている。金欠過ぎて、使用人は雇えていないのだが、父上は特に気にしていない。
 
「やっぱり一緒に眠るべきでしたね!」
「僕は成人だよ?1人で起きれるさ」

 そうは言っても、弟にお風呂で背中を流してもらい、モーニングコールをしてもらい、僕は自活できてないのだ。由々しき問題である。このままでは、自衛のできないチョロイン化してしまう。
 
 とりあえず、立ち上がろうとするが、何故か足に力が入らない。

「大丈夫ですか?」
 
 心配の言葉の割には、楽し気な表情で僕の前にしゃがみ込む。ルイス?

「大丈夫だから、気にしないで」

 世の中の事は気合でどうにかなる。そう自分に言い聞かせ、足にありたっけの力を込める。

 立て!立たないといけない!そう警鐘が鳴った。

 少しフラフラするけど、壁に手をついて立ち上がる。
 ルイスが僕の姿を見ながら、目を見開いているが、すぐ笑顔に戻った。なんか怪しい。

「フラフラですね。肩に掴まってください!」
「……ありがとう」

 喉に刺さった小骨のようだ。大切な事を忘れている気が……。
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