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王都へ
しおりを挟む__王都。に、たどり着く前に馬車が壊れてしまった。
壊れた時に、御者は足を挫いて馬車の残骸にしがみついている。その残骸の前で、私はグリモワールを開いて仁王立ちで腕を組んでいた。
「キ、キーラ様――!」
「まぁ、あなたは危ないからその馬車の後ろにでも隠れててくださいね」
壊れた馬車と魔物に驚いた御者が青ざめて隠れている。
「馬に強化魔法をかけたのは失敗でしたわ。まさか、馬ではなく馬車が壊れるなんて……」
少しでも早く王都に行こうとして、馬に強化魔法をかけた。そして、街道を外れてひたすらに王都へと真っ直ぐに向かった。
近道になると思ったけど……馬車が馬の勢いに耐えられずに壊れた。慣れない魔法を使うものではないと反省する。私が得意な魔法は攻撃系なのだ。
だけど、壊れたのはこの目の前の魔物のせいのような気もする。突然襲って来るから。
「稲光の槍」
何本もの雷魔法で作り上げた槍が魔物に命中した。そうして、目の前の魔物が煙を出して倒れていった。
「馬車が壊れて困りましたわ」
困ったなぁと思う。御者は馬車が壊れた時に、足をケガしてしまった。ますます困っていた。私には、回復魔法など使えない。歩いて王都へと行きたいけど、御者と荷物はどうするか。
「とりあえず、足の手当てをいたしましょう。足を出して下さいね」
「お、奥様が!? そんな……っ」
「私しかいないのですから、我慢してくださいね。包帯は……ないから、こちらの布でいいですよね」
「そ、それは、奥様のストールで……」
ストールを引き裂いて足に巻けるようにすると、御者が青ざめた。
「だから、何もないのですから我慢ですよ」
「が、我慢では……っ! 恐れ多くて……」
「別に弁償など要求しませんので、お気になさらず。王都へ行けば、新しいものを買うでしょうし……」
「そ、そういうことでは……」
「少し休めば私が頑張って担ぐので、それでいいかしら?」
「お、奥様……っ!」
慌てふためく御者は、私のストールを足の巻かれ、私に担ぐと言われて、今にも卒倒しそうだった。
「何かを育てたり、癒すのは苦手なのよね……適正がないと師匠にも言われたし……下手くそですが、許して下さいね」
「……」
恐れ多すぎたせいか、御者はもう何も言えない。
その時に、幾人かの人たちがやって来た。魔法を象徴する紫色のマントを羽織った集団が近づいてくる。紫色のマントは、魔法師団のマントだ。
「大丈夫ですか!?」
「とっても大丈夫ですけど……」
私に話しかけてきたのは、集団の先頭にいる男だった。彼をじっと見上げると、彼が私に気付いた。
「まさか……キーラ!?」
「やっぱり、クリストフ様?」
見覚えのある顔。彼は私の知己だった。
♢
「本当にここでいいのか? キーラ」
「ええ、今の婚約者はリクハルド様ですの」
王都のマクシミリアン伯爵邸へと到着した。長い道のりだった。近道をしようと余計なことを考えたばかりに……。
クリストフ様のエスコートで馬車から降りると、マクシミリアン伯爵邸で待っていたリクハルド様とシリル様が迎えに出てくれていた。
すると、シリル様がムッとして駆け寄ってきて、勢いよく私の足にしがみ付いた。
「まぁ、シリル様。元気そうで安心しましたわ。とっても会いたかったです」
「僕もです」
いつも通り笑顔はないが、頬を染めて迎え出てくれたシリル様が可愛すぎてギュッと抱き寄せた。
「キーラ。そちらは?」
「あら、リクハルド様。お迎えに出てくださったのですか?」
「そうだが……馬車が違う。マクシミリアン伯爵邸から来たのではないのか?」
「それがですね……馬車が壊れてしまいましたので、こちらのクリストフ様に送っていただきましたの」
「馬車が壊れた!?」
リクハルド様が驚いて力いっぱい言う。クリストフ様は、苦笑いで見ていた。
「いったいなぜ!?」
「シリル様に早く会いたくて、急ごうとしたのです。それで、馬に強化魔法をかけましてね……馬車が壊れました。ちょうどそこに魔物もいましてね」
「魔物のせいで壊れたんじゃないのか?」
「そうかもしれませんけど……ちょうど魔法師団の魔物の討伐任務に出くわしまして、送っていただきましたの。ちなみに怪我した御者も送ってもらいましたので、休ませてください。魔法で怪我は治してもらいましたのが、一日は休暇にしましょう」
「それは構わないが……」
じろりとリクハルド様がクリストフ様を睨み付ける。
「キーラ。自己紹介をしてもいいだろうか」
「はい。クリス様。リクハルド様。こちらは魔法師団の小隊を率いるクリストフ・エイディール様です。エイディール子爵の家の方ですわ」
「婚約者を送っていただき感謝する。俺は、リクハルド・マクシミリアン伯爵だ」
「お名前は存じております。お会いできて光栄です」
リクハルド様にお辞儀するクリストフ様。リクハルド様は、いつも通りの無表情だ。
「では、キーラ。私はこれで帰るよ。何かあれば、来なさい。私は、魔法師団の宿舎にいるから……」
「はい。クリス様。ありがとうございます。お気を付けて」
去っていくクリストフ様を見送った。シリル様は無言でしがみついているが、ムッとしたようにクリストフ様を睨み見送っていた。
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