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第二章

動き出した夜 3

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深夜。
リヒト様は、私と唇を交わした後に、リティス公爵たちのところに戻っていった。
私を守るための策を練っているのだろう。

ウトウトと意識を飛ばしかけた時に、小さなか弱い声が私の意識を戻した。

『リーゼ』

ほんの少しだけ瞼を開くと、目の前には光が浮いていた。妖精だ。
それも、私に妖精の弓をくれたあの妖精だ。急に妖精が姿を現したことに驚いてしまう。

「どうして……」
『リーゼ! 早く逃げるよ』
「逃げる? 誰かいるの? 呪い?」
『知らないわ。でも、人間たちが忍び込んでいる』

暗殺者だ。
こんなに早く来るなんて……急いで起き上がり、シュミーズドレスのまま妖精の弓を持った。
部屋から出ようとすると、幾人もの争っている音が響いた。

「……すぐに逃げるけど……リヒト様に伝えなきゃ。リヒト様を呼んできてください。黒いメッシュの色味のある髪色の方だから、すぐにわかるわ」
『イヤ。ここは、穢れているもの』

腕を組んでツンとする妖精に、イラッとした。

「ワガママ言わないでください。今は非常事態よ!?」
『ここに来るのも嫌だったんだから! 私が助けるのは、リーゼだけよ。マリサとルーセルの頼まれているから来たのよ! リーゼが私の愛し子じゃなかったら、ここまで来ないわ!』
「マリサ……やっぱりあなたが私の母とチェンジリングした妖精だったのね!」

マリサは、私の母の名前だ。忘れるわけがない。

『はぁ? 今さら気づいたの? 鈍いわねー』
「あなたのせいで、ややこしいことになっていたんでしょ! 私が王女なんて初耳だったんだからね!」
『でも、マリサは幸せそうだったけどね……大体、リーゼが魔法を問題なく使えていたのは誰のおかげかしら? 私が、魔力吸収の魔法を教えてあげて、そのうえ妖精の弓を与えたからでしょ?』
「恩着せがましいわね」
『人間は感謝を重んじる種族だと思っていたけど?』
「くっ……」

あつかましいと思いながら、持っている妖精の弓に力が入った。
腹黒ルーセル様と話している気分になる。もしかして、ルーセル様はこの妖精に懐いていたのではないだろうか。人間の王女のフリして王宮にいたし……。

その時に、廊下から「リーゼ様! お逃げください!」と叫ばれていた。

「こんなバカなことを話している暇はないわ!」
『だから、早く逃げろと言っているのに』
「うるさいわね! 窓から出るわよ!」

窓から迷わずに飛び降り、風の魔法で地面に叩きつけられる前に浮かぶと難なく庭へと出た。
窓から飛竜が見えたはず。その方向に必死で走った。

『リーゼ。後ろから誰かが追いかけて来るわ!』

庭を隠れもせずに走っているのだ。バレるのは当然だった。でも、これならリヒト様たちも私の居場所がすぐにわかるはずだ。

「とにかくっ……邪魔しないで!」

足を止めて振り向き、弓を引くと光の矢が現れる。魔力を込めて弓を放つと、魔法の矢が光をまとって一直線に辺りをなぎ倒した。

『誰かが、リーゼは庭だって叫んでいるわ』
「リヒト様よ……すぐに気づいてくれたんだわ」

ほんの一呼吸足を止めた。でも、リヒト様を探している暇はない。私が今捕まるわけにも暗殺されるわけにはいかない。リヒト様には、私の魔力吸収がないと命に関わるのだから……

飛竜の側に着くと、竜騎士が今にも剣を抜きそうな様子でいた。すぐに飛竜が飛び立てるようにしているのだ。

「誰だ!?」
「……ベルハイム国の王女リーゼ・オルフェーヴルです。すぐに飛竜を一頭貸して下さい」
「あなた様がリーゼ様!?」

私の姿を見たことのなかった竜騎士は、目を見開いて驚く。

「一刻を争います。私が狙われているなら、すぐにここを離れなければ……」
「ハッ! リヒト殿下より承っております! すぐに隠れ家にお連れします!」
「いいえ。私の逃げる先はリヒト様にお伝えしています。どうかこのまま、飛竜をお貸しください」

竜騎士にお願いしていると、竜舎から一頭の飛竜が睨みながら歩いてきた。

『なにか言いたそうね。リーゼの知り合いかしら?』
「飛竜に知り合いなんていないけど……」

妖精が見えない竜騎士からは、独り言を呟いているように見えた私に「リヒト殿下の飛竜です」と教えてくれた。

「乗せてくれるのかしら?」

喉を鳴らして吊り上がった瞳で睨み続ける飛竜の気持ちがわからなくて困惑する。
すると、『ギャアァ』と鳴き、驚いた。

『リーゼに嫉妬しているんじゃ……リヒト様がいつも可愛いと言っていたとか言っているけど……』
「誰が?」
『この飛竜が』

リヒト様……一体飛竜に何を話しているのでしょうか。
しかも、飛竜と話すなんてリヒト様の方が可愛いのでは!?

今は、嫉妬される暇などなく恥ずかしながらも困ってしまった。まさかのシエラ様だけでなく飛竜にまで嫌われているとは……

「あの……リヒト様の飛竜様ですよね? 私を乗せてくださいませんか? きっとリヒト様も褒めてくださると思います。どうかお願いいたします」
『あつかましいわね……』
「あなたとルーセル様だけには、言われたくないですよ。それに、今は緊急事態です!」
『仕方ないわね……』

妖精は私に呆れるけど、恩着せがましいのはルーセル様とこの妖精だ。
飛竜は、リヒト様の名前を出したせいか、首を振り私を背に促した。

「ありがとうございます。リヒト様にあなたのことは必ずお伝えしますからね。しっかりと褒めてもらいましょう」
『そんな駆け引きしなくても、リヒトという人から聞いていたから、この飛竜はリーゼの力になるつもりだったけどね』
「そういうことは、早く言ってください!」

リヒト様の名前を出してまで飛竜で逃げようとしていた自分がバカに思える。
そして、この様子を啞然と見ていた竜騎士に「行ってきます。リヒト様にどうぞお伝えください」と告げて私は慣れない飛竜にしがみつき飛び立った。





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