18 / 20
第二章
番外編 フィルベルド
しおりを挟む隣国ゼノンリード王国に来て、すでに二年が経ち20歳になっていた。
ディアナは、もう16歳になっている。たった一度で彼女に好感をもち惹かれてしまった。
その彼女もう二年も会ってない。
今はどんな姿なのだろうか。ラベンダーピンク色の髪が似合う可愛い娘だった。
結婚するからと、この国の義務のようなもので用意した刺しゅう入りのハンカチを、頬を少し赤く染めて照れながらも受け取ってくれたことは、いまでも鮮明に覚えている。
一度しか会っていないけど、思い出すだけで胸が熱くなっていた。
そんな時に、ゼノンリード王国で祝祭が開かれることになり、近隣の国からも多くの貴族たちも来ることになっていた。
アクスウィス公爵である父上も来国することになっており、ディアナの近況でも聞くかと考えていると、その日にまたアスラン殿下の様子が酷くなっていた。
アスラン殿下の部屋に行くと、フランツが浄化の魔法で呪いを消そうとしているがやはり出来ない。できることはせめて、呪いを弱めることだけ。
「一体、身体のどこから呪いが強くなっているんでしょうか……?」
部屋にいるルトガーが不思議そうにそう言った。
身体全体に浄化の魔法をかけているのに、浄化の魔法でも呪いが消えない。だが、フランツが言うには、アスラン殿下から呪いが発生していると言う。外から呪いが飛んできている気配はないし、あれば部屋にしかけている魔法で阻まれるはずだと言う。
「……祝祭は無理だな。いつものように俺が成り代わる」
「すまない、フィルベルド……」
「いいのですよ……」
ベッドの上で弱々しく申し訳なさそうに謝るアスラン殿下にそう言った。
もし予言通りなら、アスラン殿下が亡くなることはないだろう。でも、その予言さえ疑わしい。
こんな呪われた状態で、騎士王になどなれるのだろうか……と。
陛下と王妃様は、アスラン殿下をなんとか助けたくて隣国ゼノンリード王国に逃がすことに反対もしない。
兄上のクレイグ殿下は、なにを考えているのかまったくわからない。
ヴェレス王国でも密かに陛下の手の者が遺物である『真実の瞳』を情報を集めてくれている。でも、見つからない。呪いをかけた犯人の手がかりもない。
国では、早くアスラン殿下の帰国を願う声が大きい。誰もがアスラン殿下を王太子にと願っているからだった。
そして、いつものようにアスラン殿下に変身魔法で姿を変え、殿下の衣装に身を包む。
祝祭には、舞踏会も開かれるがその前に貴族たちが大会場で挨拶に周る。それに、アスラン殿下として、挨拶にくる貴族の対応をしていた。
しかし、驚愕の事実が発覚した。なんと父上がディアナと義父スウェル子爵を連れて祝祭に来ているのだ。
報告はきてない。そもそも、父上と直接的に手紙の受け取りをしているわけではない。
でも、正直動悸がしている。あの可愛かったディアナが来ているのだ。
彼女に会える。でも、それは、フィルベルドとしてじゃない。ディアナが会えるのはアスラン殿下として……。
それが、虚しい。
ディアナには、俺だとわからないのだ。本当は夫のフィルベルドだと名乗れない。
「……アスラン殿下? どうなさいました?」
挨拶が少しはけたところで、アスラン殿下の護衛に付いているルトガーが側でそう聞いて来た。
「……アクスウィス公爵と、義娘である次期公爵夫人が来ている。その隣はスウェル子爵だ」
少し人がはけたと言っても誰がどこで聞いているかわからないために、アスラン殿下のままでそう言った。
「……あれが、フィルベルド様の……では、アスラン殿下に挨拶に来ますね」
そして、予想通り父上はアスラン殿下に挨拶に来た。
フィルベルドだとも気づかずに父上と挨拶を交わすと、ディアナは緊張したようにドレスの裾を持ち挨拶をしてくる。
それが、堪らなく可愛い。
「アスラン殿下。フィルベルドはどちらでしょうか? こちらは、フィルベルドの妻のディアナなのですが……」
「……そうか、悪いがフィルベルドは護衛の責任者だから、騎士たちをまとめたりとしているから、まだ来られないだろう……」
本当なら、貴族籍のある騎士がこのような夜会や舞踏会などの催会には護衛に付くはずなのだが……こう言えば、突っ込んで聞くこともないとわかっている。
実際に、フィルベルドである俺がまとめているのだ。
「お義父様。私は気にしてませんよ。お仕事なら、お邪魔はできませんし……」
「そうか……せっかく会えるかと楽しみにしていたのにすまないな」
「そ、そうですね……」
父上がそう言うと、ディアナはニコリとした。
アスラン殿下に緊張しているのか、彼女と顔を合わせたのもほんの少しだけ。それでも、思いがけずディアナに会えたことに感無量になる。
二年前に初めて会った時よりも少し背が伸びている。印象的なラベンダーピンク色の髪に少し幼さの抜けた表情は可愛いとしか思えない。
あの愛らしい顔なら誰かが声をかけるのでは、と不安になるが父上と義父のスウェル子爵は両脇についているから、誰もディアナを口説く目的で誘うことはなかった。
声をかけても、挨拶程度。父上二人がディアナに余計な虫を近づけないようにしている。いや、虫よけになっている。
思わず、心の中で良かった……とホッとしていた。
その後には休憩のために、アスラン殿下の控え室に戻るとディアナを思い出さずにはいられない。
「あんなに可愛くなっていたなんて……どうしてあんなに可愛いんだ!? 年々可愛くなってきているんじゃないのか!? このまま連れて帰りたい……!」
「襲いに行かないでくださいね」
「襲ったりなんかするわけない! 彼女を大事にして愛したいだけだ!」
彼女と手紙のやり取りすらできない。俺の居場所でも伝えれば、アスラン殿下だけではなく、ディアナにも危険が及ぶかもしれないからだ。
できるのは、一方的に手紙を送るだけ。それも、直接ディアナに送れるものでもなかったのだ。
「それにしても、アスラン殿下に見向きもしない奥様でしたね。どんな女性でもアスラン殿下を見ると、女性はうっとりするくらい顔はいいんですけど……フィルベルド様とは一回しかお会いしてないんですよね? それで、美形耐性がつきますかね?」
「ディアナは、媚びを売るような女性ではない」
「そうみたいですね。素敵な奥様でよかったです」
ディアナの印象がよかったのか、ルトガーもディアナに好感を持ったようにそう言った。
「それにしても可愛い……今すぐ会いに行きたい」
あの愛らしい顔が脳裏に張り付いて忘れられない。
「まだこれから、アスラン殿下は仕事がありますし……フィルベルド様も少し警備の方に顔を出さないと、色々怪しまれますからね……」
ゼノンリード王国の警備との兼ね合いで、お互いに顔を合わさなければならない。
第二騎士団だけのことならそれなりに融通もきいて、ディアナに少しでも声をかけて会えただろうが、今はそうはいかない。フィルベルドとしての時間が取れない。
だが、泣き言など言っている暇などない毎日だった。
アスラン殿下の呪いの強まる理由さえハッキリしなかった。強弱のある呪いのせいなのか、呪いの犯人が故意に強めているのか……今思い返せば、あの日はクレイグ様が故意に強めていたのだろう。
二年前のことを思い出し、ディアナにゼノンリード王国で会っていたことを話している。
「……クレイグ様は、影に呪いを隠していたから、空間を通して呪いを強めていたんだろう。空間魔法は高位の魔法で、魔力がそれなりにいるんだがな……」
「クレイグ様は、体力がないと言ってましたのに、呪いを使っている時は大丈夫だったのでしょうか?」
「……多分、それがバレないように後宮に魔法の仕掛けをして後宮にいる人間から生命力を少しずつ取って呪いに使っていたんだ。そのせいで、疲れることもなかったのだろう……本当に才能の無駄遣いだ」
今は、休暇でアクスウィス公爵邸に帰ってきており、先日結婚式を挙げたばかりだった。
ディアナは、結婚式のことを何も言わなかったけど、結婚式とウェディングドレスに感動していたから、やはり憧れはあったのだろう。
「でも、二年前にお会いしたのがフィルベルド様だと全然気づきませんでした」
「アスラン殿下にお会いしたことがなかったのか?」
「私は、まだ社交界にデビューしてませんでしたから……王族の方とお会いしたことがなかったのですよ」
王族は、赤髪が多い。でも、魔法で髪の色は変えられるし、ディアナはあの時、初めて殿下に挨拶をすることになりすごく緊張していたらしい。
「正直に言えば、あまり顔が見れなくて直視できなかったんです。すぐに去りたくて……惜しいことしました。しかも、会場は大きくて、たくさんの要人もいる貴族たちの中で自分が場違いな気がして、すごく気を張っていました」
「そうだったのか……」
そう思い出しながら話すディアナの手を離すことなくアクスウィス公爵邸の庭を歩いていた。
そして、庭の一角で足を止めた。
「ここに、ディアナのために温室を作ろうと思う。といっても、お茶などができるようにするから、コンサバトリーになるが……どうだろうか?」
「素敵ですけど……まだ、ずっとこちらで住まないのにいいのですか? 全焼した屋敷をクレイグ様が弁償することになりましたし、無理してこちらで作ることはないかと思うんですが……」
「ここは、アクスウィス公爵家の本邸だ。ディアナのための建物があってもおかしくないし、何よりも俺がディアナに贈りたいのだ」
庭の一角で両手を包むように、そう言った。これからもずっとディアナには妻でいて欲しいし、彼女が喜ぶなら何でもしたい。
「……では、コンサバトリーには、フィルベルド様のお好きな本もおきましょう。私は、ハーブや薬草を植えますね。二人だけのコンサバトリーにすればきっと素敵です」
「それは楽しみだ」
ここに、コンサバトリーが建つと思うと嬉しくなり思わず笑みが零れた。ディアナに視線を落とすと同じように笑みを溢していることに胸が温かくなる。
その愛しい妻にそっと唇を重ねた。
136
あなたにおすすめの小説
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
あなたと別れて、この子を生みました
キムラましゅろう
恋愛
約二年前、ジュリアは恋人だったクリスと別れた後、たった一人で息子のリューイを生んで育てていた。
クリスとは二度と会わないように生まれ育った王都を捨て地方でドリア屋を営んでいたジュリアだが、偶然にも最愛の息子リューイの父親であるクリスと再会してしまう。
自分にそっくりのリューイを見て、自分の息子ではないかというクリスにジュリアは言い放つ。
この子は私一人で生んだ私一人の子だと。
ジュリアとクリスの過去に何があったのか。
子は鎹となり得るのか。
完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。
⚠️ご注意⚠️
作者は元サヤハピエン主義です。
え?コイツと元サヤ……?と思われた方は回れ右をよろしくお願い申し上げます。
誤字脱字、最初に謝っておきます。
申し訳ございませぬ< (_"_) >ペコリ
小説家になろうさんにも時差投稿します。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。