見捨てられ妻なので離縁を決意したら溺愛生活に突入しました!

屋月 トム伽

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第二章

番外編 フィルベルド

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 隣国ゼノンリード王国に来て、すでに二年が経ち20歳になっていた。

 ディアナは、もう16歳になっている。たった一度で彼女に好感をもち惹かれてしまった。
  その彼女もう二年も会ってない。

 今はどんな姿なのだろうか。ラベンダーピンク色の髪が似合う可愛い娘だった。
 結婚するからと、この国の義務のようなもので用意した刺しゅう入りのハンカチを、頬を少し赤く染めて照れながらも受け取ってくれたことは、いまでも鮮明に覚えている。

 一度しか会っていないけど、思い出すだけで胸が熱くなっていた。
 そんな時に、ゼノンリード王国で祝祭が開かれることになり、近隣の国からも多くの貴族たちも来ることになっていた。
 アクスウィス公爵である父上も来国することになっており、ディアナの近況でも聞くかと考えていると、その日にまたアスラン殿下の様子が酷くなっていた。

 アスラン殿下の部屋に行くと、フランツが浄化の魔法で呪いを消そうとしているがやはり出来ない。できることはせめて、呪いを弱めることだけ。

「一体、身体のどこから呪いが強くなっているんでしょうか……?」

 部屋にいるルトガーが不思議そうにそう言った。

 身体全体に浄化の魔法をかけているのに、浄化の魔法でも呪いが消えない。だが、フランツが言うには、アスラン殿下から呪いが発生していると言う。外から呪いが飛んできている気配はないし、あれば部屋にしかけている魔法で阻まれるはずだと言う。

「……祝祭は無理だな。いつものように俺が成り代わる」
「すまない、フィルベルド……」
「いいのですよ……」

 ベッドの上で弱々しく申し訳なさそうに謝るアスラン殿下にそう言った。

 もし予言通りなら、アスラン殿下が亡くなることはないだろう。でも、その予言さえ疑わしい。
 こんな呪われた状態で、騎士王になどなれるのだろうか……と。

 陛下と王妃様は、アスラン殿下をなんとか助けたくて隣国ゼノンリード王国に逃がすことに反対もしない。
 兄上のクレイグ殿下は、なにを考えているのかまったくわからない。

 ヴェレス王国でも密かに陛下の手の者が遺物である『真実の瞳』を情報を集めてくれている。でも、見つからない。呪いをかけた犯人の手がかりもない。

 国では、早くアスラン殿下の帰国を願う声が大きい。誰もがアスラン殿下を王太子にと願っているからだった。
 
 そして、いつものようにアスラン殿下に変身魔法で姿を変え、殿下の衣装に身を包む。
 祝祭には、舞踏会も開かれるがその前に貴族たちが大会場で挨拶に周る。それに、アスラン殿下として、挨拶にくる貴族の対応をしていた。

 しかし、驚愕の事実が発覚した。なんと父上がディアナと義父スウェル子爵を連れて祝祭に来ているのだ。
 報告はきてない。そもそも、父上と直接的に手紙の受け取りをしているわけではない。

 でも、正直動悸がしている。あの可愛かったディアナが来ているのだ。
 彼女に会える。でも、それは、フィルベルドとしてじゃない。ディアナが会えるのはアスラン殿下として……。
 それが、虚しい。

 ディアナには、俺だとわからないのだ。本当は夫のフィルベルドだと名乗れない。

 「……アスラン殿下? どうなさいました?」

 挨拶が少しはけたところで、アスラン殿下の護衛に付いているルトガーが側でそう聞いて来た。

「……アクスウィス公爵と、義娘である次期公爵夫人が来ている。その隣はスウェル子爵だ」

 少し人がはけたと言っても誰がどこで聞いているかわからないために、アスラン殿下のままでそう言った。

「……あれが、フィルベルド様の……では、アスラン殿下に挨拶に来ますね」

   そして、予想通り父上はアスラン殿下に挨拶に来た。
   フィルベルドだとも気づかずに父上と挨拶を交わすと、ディアナは緊張したようにドレスの裾を持ち挨拶をしてくる。
    それが、堪らなく可愛い。

「アスラン殿下。フィルベルドはどちらでしょうか?    こちらは、フィルベルドの妻のディアナなのですが……」
「……そうか、悪いがフィルベルドは護衛の責任者だから、騎士たちをまとめたりとしているから、まだ来られないだろう……」

   本当なら、貴族籍のある騎士がこのような夜会や舞踏会などの催会には護衛に付くはずなのだが……こう言えば、突っ込んで聞くこともないとわかっている。
    実際に、フィルベルドである俺がまとめているのだ。

「お義父様。私は気にしてませんよ。お仕事なら、お邪魔はできませんし……」
「そうか……せっかく会えるかと楽しみにしていたのにすまないな」
「そ、そうですね……」

 父上がそう言うと、ディアナはニコリとした。
 アスラン殿下に緊張しているのか、彼女と顔を合わせたのもほんの少しだけ。それでも、思いがけずディアナに会えたことに感無量になる。

 二年前に初めて会った時よりも少し背が伸びている。印象的なラベンダーピンク色の髪に少し幼さの抜けた表情は可愛いとしか思えない。

 あの愛らしい顔なら誰かが声をかけるのでは、と不安になるが父上と義父のスウェル子爵は両脇についているから、誰もディアナを口説く目的で誘うことはなかった。
 声をかけても、挨拶程度。父上二人がディアナに余計な虫を近づけないようにしている。いや、虫よけになっている。
 思わず、心の中で良かった……とホッとしていた。

 その後には休憩のために、アスラン殿下の控え室に戻るとディアナを思い出さずにはいられない。

「あんなに可愛くなっていたなんて……どうしてあんなに可愛いんだ!? 年々可愛くなってきているんじゃないのか!? このまま連れて帰りたい……!」
「襲いに行かないでくださいね」
「襲ったりなんかするわけない! 彼女を大事にして愛したいだけだ!」

 彼女と手紙のやり取りすらできない。俺の居場所でも伝えれば、アスラン殿下だけではなく、ディアナにも危険が及ぶかもしれないからだ。
 できるのは、一方的に手紙を送るだけ。それも、直接ディアナに送れるものでもなかったのだ。
 
「それにしても、アスラン殿下に見向きもしない奥様でしたね。どんな女性でもアスラン殿下を見ると、女性はうっとりするくらい顔はいいんですけど……フィルベルド様とは一回しかお会いしてないんですよね? それで、美形耐性がつきますかね?」
「ディアナは、媚びを売るような女性ではない」
「そうみたいですね。素敵な奥様でよかったです」

 ディアナの印象がよかったのか、ルトガーもディアナに好感を持ったようにそう言った。

「それにしても可愛い……今すぐ会いに行きたい」

 あの愛らしい顔が脳裏に張り付いて忘れられない。

「まだこれから、アスラン殿下は仕事がありますし……フィルベルド様も少し警備の方に顔を出さないと、色々怪しまれますからね……」

 ゼノンリード王国の警備との兼ね合いで、お互いに顔を合わさなければならない。
 第二騎士団だけのことならそれなりに融通もきいて、ディアナに少しでも声をかけて会えただろうが、今はそうはいかない。フィルベルドとしての時間が取れない。

 だが、泣き言など言っている暇などない毎日だった。
 アスラン殿下の呪いの強まる理由さえハッキリしなかった。強弱のある呪いのせいなのか、呪いの犯人が故意に強めているのか……今思い返せば、あの日はクレイグ様が故意に強めていたのだろう。

 二年前のことを思い出し、ディアナにゼノンリード王国で会っていたことを話している。

「……クレイグ様は、影に呪いを隠していたから、空間を通して呪いを強めていたんだろう。空間魔法は高位の魔法で、魔力がそれなりにいるんだがな……」
「クレイグ様は、体力がないと言ってましたのに、呪いを使っている時は大丈夫だったのでしょうか?」
「……多分、それがバレないように後宮に魔法の仕掛けをして後宮にいる人間から生命力を少しずつ取って呪いに使っていたんだ。そのせいで、疲れることもなかったのだろう……本当に才能の無駄遣いだ」

 今は、休暇でアクスウィス公爵邸に帰ってきており、先日結婚式を挙げたばかりだった。
 ディアナは、結婚式のことを何も言わなかったけど、結婚式とウェディングドレスに感動していたから、やはり憧れはあったのだろう。

「でも、二年前にお会いしたのがフィルベルド様だと全然気づきませんでした」
「アスラン殿下にお会いしたことがなかったのか?」
「私は、まだ社交界にデビューしてませんでしたから……王族の方とお会いしたことがなかったのですよ」

 王族は、赤髪が多い。でも、魔法で髪の色は変えられるし、ディアナはあの時、初めて殿下に挨拶をすることになりすごく緊張していたらしい。

「正直に言えば、あまり顔が見れなくて直視できなかったんです。すぐに去りたくて……惜しいことしました。しかも、会場は大きくて、たくさんの要人もいる貴族たちの中で自分が場違いな気がして、すごく気を張っていました」
「そうだったのか……」

 そう思い出しながら話すディアナの手を離すことなくアクスウィス公爵邸の庭を歩いていた。
 そして、庭の一角で足を止めた。

「ここに、ディアナのために温室を作ろうと思う。といっても、お茶などができるようにするから、コンサバトリーになるが……どうだろうか?」
「素敵ですけど……まだ、ずっとこちらで住まないのにいいのですか? 全焼した屋敷をクレイグ様が弁償することになりましたし、無理してこちらで作ることはないかと思うんですが……」
「ここは、アクスウィス公爵家の本邸だ。ディアナのための建物があってもおかしくないし、何よりも俺がディアナに贈りたいのだ」

 庭の一角で両手を包むように、そう言った。これからもずっとディアナには妻でいて欲しいし、彼女が喜ぶなら何でもしたい。
 
「……では、コンサバトリーには、フィルベルド様のお好きな本もおきましょう。私は、ハーブや薬草を植えますね。二人だけのコンサバトリーにすればきっと素敵です」
「それは楽しみだ」

 ここに、コンサバトリーが建つと思うと嬉しくなり思わず笑みが零れた。ディアナに視線を落とすと同じように笑みを溢していることに胸が温かくなる。
 その愛しい妻にそっと唇を重ねた。







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