見捨てられ妻なので離縁を決意したら溺愛生活に突入しました!

屋月 トム伽

文字の大きさ
20 / 20
第二章

番外編 クレイグ 後編

しおりを挟む
 それから、数週間後。 
 ディアナは、王都に帰って来ており彼女に会いに行った。

 フィルベルドの王都の邸に行くと、ディアナは庭園でお菓子をテーブルに並べている。
 軽やかになびく風に乗って、ラベンダーピンク色の長い髪もなびく。周りには、バラが少しずつ花開いておりそのほのかな匂いまで風に乗っていく。
    その様子が穏やかで見とれてしまっていた。

「……ディアナ」
「はい」

   嬉しそうに軽く頬をピンクに染めて振り向いたディアナに、その表情はフィルベルドに向けたものだとわかる。
   呼んだのが私だとわかるとピンクの頬はスウッと消え、いつもの彼女になる。いつものクールな彼女に……。

「クレイグ様。どうされたんですか?   塔から外出許可が下りましたか?」
「ちょっと会いに来たんだよ」
「どうしてですか?」
「国を出ることにしたからね……もう一度会っておこうかと思って……」

 ディアナは、困惑したように菓子を置き、一呼吸置いた。

「国外追放はしないと聞いていましたけど……」
「追放ではないよ……私が、自分から国を出ることに決めたんだよね」
「……この国は息苦しいですか?」
「そうだね……」

 そう聞かれると、彼女はやはり私の気持ちが見えているかと思う。だからだろうか。なぜだか、素直に「そうだね……」と返事をしてしまった。

「ディアナ。私に刺しゅうはくれないのかい?」
「刺しゅうはダメです。私がハンカチに刺しゅうをしてあげるのはフィルベルド様だけですから」

 特別な相手に送る刺しゅうは、フィルベルドだけ。そういうことだ。
 いつからか、ディアナとフィルベルドの二人の雰囲気が変わっていた。夫婦として仲睦まじくやっているのだろうと思っていたが……そこには、もう誰も邪魔できないだろう。

 ディアナの指を見ると、刺しゅうの跡なのか、指にいくつか絆創膏が貼ってある。

「……刺しゅうは、失敗した?」
「ちょ、ちょっと考えごとをしていて……」
「かして……」

 指を隠すように照れているディアナの指を取ると、少しだけ血が滲んでいる。
 その指に、魔法をかける。指を取られて抵抗しようとしたディアナは、魔法の光に驚いたのか、大人しくなっていた。

「指が……」
「すり傷程度の回復魔法しか使えないから、ほとんど役に立たないけどねぇ……回復魔法が使えて驚いたかい?」
「……何でもできるんですね」
「何もできないということだよ」

 そう言って、掴んでいる彼女の指にそっと口付けをした。

「……一緒に行く?」
「絶対に行きません。フィルベルド様が、ここにいますから……それに、クレイグ様は私のことなど好きではないですよ」
「そう……でも、君が困った時は助けてあげるよ。鎖で繋いだお詫びだね」

 引き下がろうとしているディアナの指を無理やり引き寄せることができなかった。
 彼女の言っていることが本当だからだ。フィルベルドのように彼女を愛することはできない。それでも、ディアナだけは他の誰とも違う。
 すぐに離せないままゆっくりと離れようとした時に、いきなりディアナが目の前から離れる。

「何をしている!? 貴様誰だ!?」

 ディアナの後ろから、引き寄せたのはフィルベルドだった。そのまま、ディアナはフィルベルドの腕の中にすっぽりとはまっている。

「フィルベルド様。何を言っているんですか? クレイグ様ですよ?」
「クレイグ様!? なんで俺に化けているんですか!!」
「えぇっ!?」

 憤怒の形相で睨みつけるフィルベルドと、驚き私を見るディアナ。

「どうしてフィルベルド様に!? まったくわからないんですから、変なことしないでください!!」
「フィルベルドの邸に来るのに、私の姿のままだと色々面倒だからねぇ……あぁ、それとフィルベルド。暗器を出そうとするのはやめてくれないかい。ディアナは、君といたいそうだから私に止めを刺す理由はないよ」

 その言葉に、殺気立っているフィルベルドはディアナに視線を移した。

「本当か? この男を始末してもいいんだぞ? もう殿下ではないし……」
「そ、それはおやめください。それに、私もフィルベルド様のことが好きだと言ったじゃないですか……」
「本当に? だが、この男は邪魔じゃないか?」
「だ、大丈夫ですよ。クレイグ様は、私のことなど眼中にありませんから……ですから、止めは刺さないでくださいね」

 ディアナがフィルベルドを見つめてそう言うと、彼は腰から暗器を出そうとした手を離してディアナを私から隠すように包み込む。よほどディアナが大事らしい。

「ここにいると危険みたいだからもう帰るよ……」
「お菓子を持って帰ってください! すぐにバスケットに入れますから……!」

 そう言って、不機嫌なフィルベルドを背後にディアナは置いてあったバスケットに、テーブルの菓子を詰めていた。
 そして、フィルベルドは変身魔法を解くように言ってくる。もう帰るだけだから、仕方なく魔法を解いた。
 
 ディアナはそれを見て、首を傾げている。『真実の瞳』のせいで本当に変身魔法を使っていても、元に戻っても区別がつかないらしい。

 そして、ディアナの菓子を受け取ると、彼女のその気遣いに少しだけ本当の笑みが零れた。
 
 フィルベルドとディアナはそのまま、バラ園の中から私を見送り、私はフィルベルドの邸をあとにした。

 










しおりを挟む
感想 37

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(37件)

マコみと
2025.07.31 マコみと

面白いから
何度も読み返してますが
やっぱり
第一王子が歪んだのは
あの脳筋王様のせいなのでは?🤔
と思ってしまいます

王様だけざまぁできないかなぁ😩って(笑)

執着愛が重たいのは好物で
しかも愛の重たさに若干壊れ気味になるのは大好きなので

戻ってきてしまう話ですね
そして王様にイラッとしてしまう

2025.08.01 屋月 トム伽

マコみと様
ありがとうございます〜!

解除
芹香
2023.03.11 芹香

連載中の悪妻…を拝読して、面白かったので、リンクからこちらに参りました。

面白くて一気読み致しました。

二人の母の様子が印象に残りました。 ヒロイン母の無償の与える愛。王妃の 母としての愛も有るけど、有る意味 愛の押し付けみたいな何か。

どう接していたら 第一王子は歪まずにいられたのでしょうね。

何だか 親として色々考えさせられました。

面白い物語を有難うございました。

2023.03.11 屋月 トム伽

こちらこそありがとうございます!

解除
マリオ
2022.07.15 マリオ

番外編ありがとうございます😊
壊れる旦那様が好きです!番外編も壊れて暴走してほしいです( ˊ̱˂˃ˋ̱ )

解除

あなたにおすすめの小説

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

あなたと別れて、この子を生みました

キムラましゅろう
恋愛
約二年前、ジュリアは恋人だったクリスと別れた後、たった一人で息子のリューイを生んで育てていた。 クリスとは二度と会わないように生まれ育った王都を捨て地方でドリア屋を営んでいたジュリアだが、偶然にも最愛の息子リューイの父親であるクリスと再会してしまう。 自分にそっくりのリューイを見て、自分の息子ではないかというクリスにジュリアは言い放つ。 この子は私一人で生んだ私一人の子だと。 ジュリアとクリスの過去に何があったのか。 子は鎹となり得るのか。 完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。 ⚠️ご注意⚠️ 作者は元サヤハピエン主義です。 え?コイツと元サヤ……?と思われた方は回れ右をよろしくお願い申し上げます。 誤字脱字、最初に謝っておきます。 申し訳ございませぬ< (_"_) >ペコリ 小説家になろうさんにも時差投稿します。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。