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近づけない新郎新婦の結婚式
結婚式当日。
なぜ、クレア義姉様と結婚したジャンと私は結婚しないといけないのだろうか。
こんな朝早くから、なぜジャンのために純白のウェディングドレスを着ないといけないのか。疑問しかない。
「さぁ、プリムローズさん。この部屋から出て来てもらおう」
偉そうに言うギュスターヴ伯爵が、私の部屋の前に来て言った。
「出てこないなら、あの使用人たちがどうなるかわかっていますな」
ルノアたちを理由に脅してくる。ライラさんとアリーのおかげでそれはただのウソだとわかっている。でも、この人たちから逃げるために、そのウソに乗っていた。
「偉そうに言わないでください。クライド様の魔法のせいで、私に手が出せなかったくせに」
「偉そうに……クライド殿が、こんな小娘に溺れているのか甚だ疑わしい……だが、私の娘もクライド殿の寵は受けている。どうせ小娘のことはすぐに忘れるだろうな」
最低な人間だ。ギュスターヴ伯爵は、何でも思い通りにしないと気が済まないのだ。
あのプレスコット伯爵家から来た私には、なんの後ろ盾もない。ギュスターヴ伯爵は、私のことは、権力も含めて力で押さえつけようとしても大丈夫だと確信している。
私がどうなっても、誰にも咎められないと……。
確かに実家の当主がジャンなのだから、実家がギュスターヴ伯爵を咎めることもない。
でも、クライド様は私を好きだと言ってくれた。彼なら、ギュスターヴ伯爵に罰を与えるかもしれない。
ギュスターヴ伯爵は、クライド様がそこまでするとは思ってないかもしれないけど。
ライラさんにも威圧的だ。彼女は、子供の時からこの親になんの希望も癒しもなかっただろう。
可哀想だ。
クライド様と結婚出来なかったら、ライラさんはこの邸に帰る……いや、お金を作っていたから、逃げるつもりだったかもしれない。そんなことをさせたくない。
私だって自分の親になんの希望もなかった。
生前の父親は私になんの興味もなく、プレスコットの血筋を残すためだけの結婚を用意されてた。それは仕方ないと思っていたけど、結婚まで……と耐えていたものは、あっさりと壊された。
それをクライド様が助けてくれたのに……ジャンは狂ったことをし始めている。
そのせいで、ライラさんはクライド様に捨てられようとしている。
(絶対にそんなことさせないわ)
ギュスターヴ伯爵を、睨み付けフンと顔を背けた。そして、ゆっくりと部屋から足を踏み出した。予想通り、私は部屋から出ることが可能だった。
「やはり……男を近づけないようにしているのか」
ギュスターヴ伯爵は、私が部屋から出るのに合わせて遠ざかった。
無様に弾かれたくないのだ。
「さっさと連れていけ!」
ギュスターヴ伯爵が言うと、彼の手下の女性たちが私の周りを囲み、そのまま私は馬車に乗せられた。
結婚式場につくなり、ジャンは私を出迎えた。笑顔のジャンに出迎えられたのは、初めてだったかもしれない。
でも、クライド様のおかげで私には近づけないでいた。
「これでやっとプレスコット伯爵家に連れて帰れる……」
感無量のようになっているけど、新郎新婦が三メートル以上離れて入場し、神父様に誓いをするのに立っている位置も離れていることをおかしいと思わないのだろうか。
あんなに私を嫌っていたのに、待ちわびた結婚のようになっている新郎ジャンと、ツンとしている新婦の私を、目の前の神父様は聖書を持ったまま不思議な顔で交互に見ている。
「……あの……もう少し近づいてもらえませんか? 特に新婦様……もう少しこちらに……」
呆れ困った神父様が、おそるおそる言ってきた。
「無理です!」
ハッキリと返事した。
私は、ジャンと結婚なんかしたくない。自分勝手に婚約破棄して、良からぬことをした彼は受け入れられない。
そして、神父様は男性だから、目の前には立てません!
「……新郎様はよろしいですか?」
「事情があって今はこんなだが、問題ありません」
問題しかない。
こんな結婚式なのに、キリッとした顔で堂々と言わないで欲しい。
「では、結婚の誓いを始めましょうか……?」
「よろしくお願いします」
困った様子で、それでも厳かに神父様が結婚式を始めた。
こんな恐ろしい距離の新郎新婦を前に、真剣な顔で結婚の誓いの言葉を口にするのは、神父様に申し訳ないと思うが、こればっかりはどうしようもない。
そして、いよいよ誓いの言葉に返事をする時に、外が騒がしくなっていった。
私とジャンの、このふざけたような結婚式に参列者はいない。後ろの席には、婚姻届を受理するための登記官が座って待っているだけだった。
騒がしいことを不審に思い後ろを振り向くと、いきなり教会の扉が大きな破壊音を立て、吹っ飛んできた。
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