グリモワールの塔の公爵様【18歳Ver】

屋月 トム伽

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結婚式には破壊魔が帰ってくる


破壊された扉の向こうから、大勢が争っている声が聞こえていた。
吹っ飛んできた扉に驚いているジャンは、今にも腰を抜かしそうになっている。

「何事ですか!? ここは、神聖な教会ですよ!!」

神父様は、聖書を閉じて叫んだ。修道士たちは、慌ててやって来る。

「神父様——! 大変です! 教会が……っシルヴァン殿下の騎士たちに囲まれてます!!」
「なっ!? 何故ですか!? 我々は国に逆らう事なんて何も……」

(シルヴァン殿下? クライド様じゃなかった。でも、ここから、やっと逃げ出せるわ)

困惑している神父様たちは、教会が狙われてきたと思っているけど違う。
シルヴァン殿下の騎士たちが来たのは、きっと私を救出に来てくれたんだと思えた。
逃げていたリアムが呼んでくれたのかもしれない。

この騒ぎに乗じて急いで逃げようとすると、私が部屋から出てきた時に周りを囲んでいたギュスターヴ伯爵の手下の女性たちが止めてきた。

「プリムローズ様! いけません!」
「離してよ!!」

殴ってやりたかった。今まで誰にもそんなことしたことないけど、今なら一発ぐらい殴ってもいい気がする。それくらい、私は逃げたいのだ。

女性たちに押さえられたところで、私が入り口から逃げないようにジャンが何かの魔法薬を投げた。ボンッと音を立てて火が上がった。

「プリムローズ! そっちはダメだ! 俺と逃げるんだ!」
「私に近づけないくせに! 絶対に嫌よ! ジャンは、私と自分勝手な婚約破棄して、どこかの後妻に出すつもりだったのよ!? それもお金のために!! クライド様があの時求婚してくれなかったら、私は今頃どうなっていたと思うの!? それに、眠っている時だって……!!」
「あれは間違いだった!! もうあんなことはしない!! だから……!」

三メートル以上離れたところで言い合っていると、あっという間に疾風のような風が吹いた。青い月のような光が風と共に私に向かってきたと思うと、一瞬でさらわれた。

「「「キャアァーーーー!!」」」

私を押さえていた女性たちがなぎ倒されて、悲鳴が上がる。ジャンも、風になぎ倒された。私も驚き、悲鳴がでた。

「プリム、大丈夫か!?」

青い月のような光と風で閉じていた瞼を開けると、私を心配そうに見ているクライド様の顔があった。

「……クライド様?」

夢かと思った。青い月のような光にさらわれたと思ったら、私はクライド様の腕の中にいるのだ。
彼の顔を見ると、安心したのか、会えて嬉しいのか不安だった気持ちを我慢していたものが壊れて、泣きながら彼に抱きついた。

「クライド様……っ……」
「一人で怖かっただろう……遅くなってすまない……」
「そんなことありません……クライド様が、ずっと私を守ってくれていたのです……!」

魔法で宙に浮いたまま、私を抱きしめてくれる力強い腕に安心した。急いでやって来たクライド様の息遣いも荒かった。そんなクライド様の胸に顔を埋めていると、彼の周りがピリッとした。

「クライド様……?」
「逃がさんぞ……!」

クライド様が怖い顔で入り口を睨み付けている。そして、クライド様のグリモワールの一節一節が周りに飛び出して来て、教会の入り口に光と共に飛んで行った。

入り口には、逃げようとしているジャンたちがいた。

爆音と共に入り口の扉どころか壁まで全てが崩れ落ちている粉塵の中、外が見えると騎士たちが地上だけでなく、空からも教会の前にいた。

「プリム。捕まっていろ!」
「は、はい!」

言われるままに、しっかりと後頚部まで腕を伸ばして抱きつくと、風のようにクライド様は外に向かって飛んで行った。

入り口は瓦礫の山で、ジャンたちは逃げられないどころか、腰が抜けながらも必死で起き上がっている。

外に出ると、騎士たちが教会の周りを囲んでいた。地上にはシルヴァン殿下までいる。

「レイヴンクロフト公爵の婚約者を誘拐した者たちだ! 全員ひっ捕らえろ!!」 

教会の外にいたギュスターヴ伯爵の手下たちは魔法で応戦しているが、シルヴァン殿下の騎士たちの方が圧倒的に多く、実力も上で次々に捕縛されているのが空から見えた。

「ク、クライド様……これは……?」

しがみついているクライド様を見ると、「地の精霊(ノーム)……」とか、よくわからない何かの言葉を呟いている。

クライド様の周りの浮いているグリモワールを見ると、光りながら教会の周りに勢いよく飛んで行く。そして、教会の周りの大地が盛り上がりそこから植物があっという間に伸びて教会を包んだ。
教会の上にはあのクライド様が飛び込んできた時と同じ、青い月のような光が舞っていた。

「クライド様の魔法ですか?」
「グリモワールの魔法だ。あの青い月のような光は月の妖精だ。月の魔力で地の魔素や植物は活性化するからな。あれが、大地の魔法に力を与えて植物が一気に育つ。俺は月の妖精と相性がいいのか随分気に入られているんだ」

すごい……と、制圧されていく教会の惨状に目を奪われていると、クライド様の腕にいっそう力が入った。

「プリム……お前が危険にあっていると知り、心臓が止まるかと思った……無事で良かった……」
「クライド様のお守りの青水晶が、私をジャンやギュスターヴ伯爵から守ってくれました……」

首からぶら下げていた青水晶を見ると、クライド様も見ていた。

「これは、危険を知らせられる月の妖精の一節を入れた。……他の男が近づいては困るし……」
「ジャンが迫って来た時に、青い月のような光が飛び出して来たんです……それはどこかに行ってしまいましたが……」
「それが、この一節にいた妖精だ。グリモワールの塔の部屋にいた形ある妖精と少し違うが……これが飛んできて、お前が危険だとわかった。これが飛び出た時に、魔法の障壁も発動されたはずだ」
「はい……だから、ジャンは私に近づけなくなったのです……」
「……そうか……」

クライド様は、ジャンが何をしようとしていたのか察したように教会から捕縛されていく人たちを睨んでいる。その中には、何かを叫んでいるジャンもいた。

「……クライド様。リアムたちは? お会いになりませんでしたか? 2人は逃げたはずなのです」
「リアムもルノアもシルヴァン殿下の近衛隊が保護している。リアムが逃げるのに、ギュスターヴの手下を倒してしまったから、追手を追加されて俺のところまで来られなかったんだ。城に行くまでも苦労したようだが……シルヴァン殿下の近衛隊に助けを求めたようだ。リアムは賢明だ。心配はいらない」
「良かった……」

ホッとすると、クライド様は私を大事に抱えたまま地上へとゆっくりと降りた。
降りた先には、シルヴァン殿下が捕縛者たちを確認するように凝視していた。




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