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第四章 迷宮都市ラビリントス
閑話 ラビリントスの事後
しおりを挟む「ここが禁忌の実験生物が出たラビリントスですか」
レトが黒蝶のボス、スネイルをクリーチャーに変異させ、街に解き放ってから3ヶ月後。
シュルペニア神聖王国の枢機卿の一人が、ラビリントスにやって来ていた。
枢機卿がラビリントスに来た理由は、禁忌の実験生物が発生したと、この都市の教会から連絡があったからだ。
「お待ちしておりました。枢機卿様」
「うむ。手紙でも概要は理解したが、今一度説明してくれるか?」
「では、事の発端から--」
ラビリントスの司祭から聞いた話は悍ましいものだった。
表向き商会を運営していた闇組織が、ある日を境に拉致され拷問。
そして商会の前に晒されるという、目を覆うような惨状で、予め手紙で理解していた枢機卿も身震いする程だった。
「恐ろしいな。そして最後に出て来たのが、商会主のスネイルか…。間違いなく禁忌だったのか?」
「はい。理性もなく、ただ暴れるだけの魔物よりも悍ましい存在でした。S級冒険者が来てくれなければ、被害はもっと出ていたでしょう」
禁忌とは、教会が正式に禁止してるタブーの事である。
危険な魔法の実験。死者蘇生。不老不死の研究。
色々あるが、今回は魔物の血を人間に飲ませたらどうなるかという、約150年前に禁忌扱いされている実験だった。
教会側も昔、罪人で実験をして、今回と同じ様な生物を生み出してしまったのだ。
教会は、実験結果を重く受け止めて禁忌扱いにし、国の上層部には結果までを報告した。
理由も分からず、禁忌扱いにすると反発や試しにやってみるという事例も多いからだ。
禁忌を破ると、シュルペニア神聖王国はその事件があった国を徹底調査する。
なので、まず枢機卿が先駆けとしてやってきたのだ。
「犯人は未だ分からずか?」
「はい。スネイルと親交があった人間はほとんど殺されておりまして…。目撃者も全く。闇組織同士の抗争かと思い、そちらも洗ってみたのですが、芳しくありません」
「参ったな。犯人を見つけないと、また同じ事を繰り返されるかもしれぬ。そしてそれは教会の沽券に関わる。突き止めねば、禁忌を犯す者が他にも出て来るぞ」
「一応、有力かどうかは分かりませんが、僅かながら情報があります」
「ほう。聞かせよ」
「冒険者ギルドのギルド長が、件の闇組織に賄賂を貰っていたらしく。こちらで詮議して、現在は謹慎処分にしておりますが、どうやら報復の為に人を探していたらしいのです」
「なるほど。そいつが怪しいと?」
「はい。しかし、目撃情報がほとんどなく、得た情報は髪色が赤く、見慣れない貴族の様な格好をしていると」
「むぅ。それだけか?」
「後は、冒険者ギルドには登録せず、迷宮に入ってるらしいです。供の者もおらず、迷宮の30階層での目撃証言がありました。その半年後に街中で商会を回って煙草を買い漁ってたぐらいですね。しかし、その男が街中で目撃されてから、直ぐに騒動がありましたので、関わってる可能性もあるのではないかと」
枢機卿は僅かしかない目撃情報を残念に思いながらもこれからの事を考える。
騒動が終わってからは、また姿を消したらしく、もしかしたら既に街を出てる可能性もあると。
「どうすれば良いか迷うな。この都市を徹底的に調べるのは確定として、どの騎士団を派遣するか。第二騎士団がまだ再建中なのが悔やまれる」
「ミュラー団長のご遺体は見つからずですか?」
「うむ。魔王の足跡も全く分かっておらんしな。どこぞで引きこもってくれてると、とりあえず助かるんだが」
「魔王は縄張りから出てきませんからね」
「大人しくしてくれるならばそれで良いのだ。知らずにちょっかいをかけてしまった場合が怖いが」
枢機卿は司祭と雑談しつつ、逸れた話を元に戻す。
「迷宮にも調査隊を入れるべきか。いや、流石に国が許さんだろうな。いくら禁忌の調査とはいえ、騎士団を他国の迷宮に入れるのは色々問題か」
「冒険者に調査を依頼しますか? S級クラスはかなりお金が掛かりますが」
「それも検討すべきだな」
(犯人の居場所さえ分かっていれば、超越者の派遣も出来るんだがな。流石に調査の段階では無駄遣いか)
「とりあえず、禁忌を討伐したS級冒険者にも話を聞こう。繋ぎは取れるか?」
「はっ。もしかしたらまた話を聞かせてもらうかもしれぬと言ってあります。宿の場所も押さえてありますれば」
「うむ。では使いを送って都合の良い日を聞いてきてくれ。冒険者とはいえS級だ。いきなり押し掛けて機嫌を損ねたらかなわん」
「かしこまりました」
翌日。
すぐに連絡が取れたS級冒険者デスターと、教会の一室で会談する。
「神聖教会枢機卿のネルフィムだ。いつもの通りの言葉で構わぬ。討伐した時に何か変わった事が無かったか教えてくれぬか」
「S級冒険者のデスターだ。お言葉に甘えて言葉を崩させてもらうぜ。丁寧な喋り方は性に合わんからな。あれは、俺が娼館から帰ってる時だった--」
そこから、討伐までの流れを一通り説明してもらい、気になった事もあったという。
「戦闘中、ずっと誰かに見られてるような気がした。気になって、周辺を探りながら戦ってたんだが、それらしいのは見つけられなかったな。だが、他の冒険者や騎士が突然狂ったようにおかしくなったのは知ってるだろ? 簡単に抵抗は出来たが、恐らく見てた奴が何かしたんだろうよ」
報告にも、突然同士討ちを始めたりと不可解な事はあったが、誰かが介入した可能性が高いらしい。
S級冒険者が見つけられなかったという事はかなりの手練れでもあるだろう。
「貴重な意見だ。助かった。これは少ないが礼だ。また何かあったら話を聞かせてほしい」
「迷宮に行ってたら無理だがな。地上にいたら話ぐらいはしてやらぁ」
そう言って帰って行ったデスターを見送り、これからの方針を決める。
「やはり、誰かが意図的に禁忌を街に解き放ったんだろうな。それを観察していた可能性があると。うむ。目撃者を集めて似顔絵を作らせよ。もういないかもしれんが、この都市を徹底調査するぞ」
「かしこまりました」
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