サイコパス、異世界で蝙蝠に転生す。

第四章 迷宮都市ラビリントス

第137話 消滅

　
　「何事ですか？　良い所だったんですが」

　「まだまだ爆弾の実験を続けたいんだぞ！」

　影で回収したグレース達が少し不満気に出てきた。影移動も中々慣れたもんだね。擬似的転移と変わらないレベルだ。

　妲己は興味深そうにテレサを見ているけど、キメラまで不満気だぞ。余程人間が美味しかったのか、影から出てきても何人かを手に持ってむしゃついている。
　妲己もアシュラも人間をあんまり食べようとしないから新鮮な光景だな。グロいけど。

　「テレサがね。とんでもない魔法を行使しようとしてるから。巻き添えを食らうかと思って」

　「妲己がしきりに気にしてたのはそれのせいですか」

　「レト様。これを維持するのは疲れるの。もう撃っちゃってもいい？」

　「妲己とアシュラは一応ウェインとキメラを庇えるようにしておいてくれ。何が起きるか分からんぞ」

　テレサは相当維持に神経を使ってるのか、うっすらと汗をかいている。
　ちょっと暴発しそうになってるんじゃなかろうか。余波がやばそう。

　「よし。ぶちかませ」

　「……とんでけーなの」

　その瞬間、迷宮都市ラビリントスは黒いドームに包まれた。
　テレサが放った魔法は街の中心部に着弾して爆発。その後、人や建物を関係なく飲み込んでいく。

　「あぁ。影の前衛アートが…。……？　なんだ？　……っ！！　全員影に入れ！　早く！」

　俺はそう言って、全員が影の中に入った事を確認すると慌てて飛翔する。

　「やべぇやべぇ！　なんだこれ！？　吸い込まれるぞ！」

　俺は黒いドームに吸い込まれそうになるのに対抗しながら、なんとか距離を離していく。
　そして、引力がなくなった所でようやく着地して都市の様子を遠見で確認する。

　「あっぶねー。なんだよあれ」

　冷や汗かいたのなんて吸血鬼になってから初めてじゃないかな。あの魔法に巻き込まれると、俺ですらどうなるか分からんぞ。

　「テレサ。あれはどういった魔法なのですか？」

　「【火炎魔法】を圧縮して着弾と同時に爆発させる魔法なの。ちょっとしたアクセントに【闇魔法】を混ぜてみたの…。ふふっ。【闇魔法】が良い味を出してるの。興味深い現象なの」

　結構離れたけど遠見を使わなくても確認出来る。
　未だに都市が合った部分は黒いドームに覆われていて、詳細はまだ分からない。

　「【闇魔法】が引力の働きをしてんのか？　そういうのは【重力魔法】の領分じゃないの？」

　「研究途中だけど【闇魔法】と【重力魔法】はちょっと似てるの」

　俺も重力なんて、正直手に余る話なんだけど。
　学校の授業で習った程度だし。

　「爆発した熱エネルギーを回収して、二次被害を控えめにしようと思ったの。でも見た感じ…。うん。やっぱりそうなの。逆効果なの」

　「逆効果？」

　テレサの魔法解説に俺達は耳を傾けていたが、黒いドームはどんどん収縮していっている。
　これで被害は都市だけになったんじゃね？

　「ん？　おいおいマジか」

　急に暴風が吹き荒れる。それは黒いドームが発生した所に吹き込んでいくように。

　「熱エネルギーを回収したせいで、あの場所一時的にとっても寒くなるの。この後は天気が悪くなると思うの」

　そこからテレサはかなり小難しい話をしていたが、なんでそこまで知ってるんだろうか。
　俺も上昇気流のせいで積乱雲がうんたらと言われても、そういえばそんな現象があったなと思うくらいに忘れていた。多分紙に書いたりもしてない。正直、説明されてもあんまり理解出来てないし。
　現代で学んだ俺ですら難しい話なのに。
　こやつ、既に俺より何倍も賢いな。


　「天変地異じゃん」

　それから少しして。
　テレサの言う通り天気が悪くなった。
　いや、悪くなったってレベルじゃないけど。

　風はビュンビュン吹いてるし雨は土砂降り、雷はゴロゴロ鳴り、この世の終わりを見ているみたいだ。テレサはレポートをしきり書き殴り、うっとりとした表情をしている。

　「ふぅ。とりあえずテレサが満足するまではここで待機だな」

　「生存者が居ると思いますか？」

　テレサは影の外でまだ災害を見ているが、他の面々は影の中に入って休憩中。
　ソファにどさっと座りため息一つ。俺が楽しむ為の虐殺だったのに、全部持っていかれた感があるな。まぁ、面白かったから良いけど。
　あの魔法だけで国を潰せるぞ。

　「居ないだろ。一応収まってきたら、都市の確認はしに行くけど。どんな感じになったか気になるしね」

　「凄い魔法を開発してしまいましたね。使い所は選びそうですが」

　戦争ぐらいじゃないの？　単体にあの魔法は過剰すぎるだろ。
　竜王とかにぶつけたらどうなるかは気になるけどさ。

　「発動にかなり時間がかかるけどな。集中力もかなり要るっぽかったし」

　「あれを連発できるようになったら、この世界は終わりですね」

　レベルを上げたら出来るようになるんじゃないですかねぇ。
　あれを普通の魔法と同じようにポンポン撃ってきたら…。
　俺も負ける可能性があるな。いや、停止の【魔眼】で止めれるか？　今度試してみよう。


　「レト様！　早く跡地に行ってみるの！」

　災害は二日程で収まった。テレサは睡眠時以外ずっと影の外で観察していた。ウェインと同じで研究するのが好きっぽい。兄妹ですな。

　とはいえ、俺も跡地がどうなってるのか気になる。早速行ってみるとしよう。