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第六章 ゆるり旅
第173話 エルフ
しおりを挟む影の中に潜みつつ、王城内をコソコソと移動中。
お目当ての人部門シークレットが楽しみで仕方ない。
「王城はてんやわんやだな」
「騒ぎに乗じてさっさと終わらせてしまいましょう。早めに終わらせれば時間はあるはずです」
なんの時間かな? その発情した目は何かな?
さっき軽く人の血を飲んでたから、気分が高揚しちゃってるのかしらん?
「まぁ、さっさと終わらせるのは同感だな。面倒だし隠れるのやめるか」
目撃者は全員殺したら良かろうて。
こんな殺せる機会をみすみす逃すのは勿体無い。
ヴェガも大好物はたくさん食べたいだろうし。
それに新しい能力をラーニングしてくれるかもしれん。よし。出会ったら即殺だ!
「一応仮面はしておくか」
「気に入ってますね」
かっこいいだろ。仮面の泥棒って。
物語の中の人になった気分だ。
「止まれ! お前達は一体だ…」
王城内を歩き回りながら、ついでに殺人。
そしてそのまま影の中にボッシュート。
「んあ。良い事考えた」
【感覚狂乱】を発動し、王城内を包む。
痛覚だけをゴリゴリ上昇させる。
「レト様。それを使うなら先に言って下さい」
「すまぬ。勢いで行動するのが俺の美点なんだ」
グレースは防いだみたいだが、これは中々きついからな。今頃、歩くだけでも激痛が走ってる事だろう。そして。
「鎧なんか着て走り回ってる騎士が耐えられる訳ないよなぁ」
「ひどい光景ですね」
そこら中で騎士が倒れてもんどりうっている。
俺はそれを優しく仕留めてヴェガとウェインの元へ送る。うむ。処理するのが楽になりましたな。
「くひひひ。人間の悲鳴ってのはどうしてこうもテンションが上がるんだろうな」
思わず俺のエクスカリバーを抜剣してしまいそうになっちゃうよ。
これじゃあグレースの事をとやかく言えないね。
「はい。到着」
「牢屋みたいですね」
人と魔物の保管場所なんだし、似たようなもんでしょ。さてさて、シークレットとご対面だ。
俺は牢屋の前で泡を吹いて倒れてる騎士を綺麗に処理してから中に進む。
「ふむふむ。特にこれといった人材はいないけど」
「やはり見目麗しい男女が集められてますね」
解析で見ていくけど、欲しい人材は見当たらない。美男美女揃いだけど、俺の【感覚狂乱】の影響のせいで魅力が半減している。
叫び声を上げてる奴はまだマシだな。気絶して失禁してる奴もいるし。
「レト様。この者達はどうなさいますか?」
「え? いる? 欲しいならあげるけど」
とりあえずこいつらも処理かなぁとか思ってたんだけど。使い道が特に思い浮かばん。
こんな騒ぎの中で生かされても、この先苦労するだろうし殺した方がこいつらの為ではと思いますが。
「いえ、活用法があるのかと思っただけです」
「俺に国があればねぇ」
何かしら使い道はあっただろう。
ほら、顔は良いんだしホストとかキャバクラとかやって貰ったら良いんじゃない?
でも、現状はこいつらを養う意味はなさそうですし。おすし。
「あ、くそっ。寿司食いてぇ」
このぶらり旅で米を見つけるのもリストに入れよう。何処かにあると思うんだ。異世界に無い筈が無い。食に興味がない俺だけど寿司だけは別だ。
あれは無限に食べてられるぐらい大好きだ。
「ん? あの扉で最後か。って事はシークレットさんですかね」
結局、今は邪魔になるし殺しとくかー的なノリでサクサクと処理する。
すまんな。来世では俺に会わない事を祈っておいてくれ。
で、最後のちょっとだけ豪華な扉。
他は鉄格子の中に適当に入れられてただけなのに、ここだけ特別感。シークレットで間違いないだろう。
「ドキドキのごたいめーん!」
扉の鍵をものともせずに、そのまま開ける。
鈍い音と共に扉が開かれてそこにいたのは。
「エルフじゃん」
「エルフですね」
部屋の片隅で苦い顔をしながら【感覚狂乱】に耐えている耳の尖った一人の男がいた。
☆★☆★☆★
「陛下。侵入者です」
「来たか。この時期は毎年恒例だな」
本日の執務も終わり、私室でゆっくりと晩酌していた頃。
宰相は焦りを見せずに入室してきた。
「いつも通りの処理を」
「既に手配済みです」
「ご苦労。ならここで共に続報を待つとしようか」
宰相にグラスを渡して酒を注ぐ。
毎年オークションの日が近くなると、その品を狙う賊が後を絶たない。
オークションに参加してる人間なら、保管場所が王城なのは周知の事実であり、安全に保管してあるからこそ、皆が信頼して預けている。
王や宰相は、毎年狙われてる事できちんと対策は取ってある。
この時期になると国の騎士団のほとんどを、王城内に配置して万全な警備体制を取ってあるのだ。
この日もすぐに捕えられるだろうと、談笑しながら続報を待ってる時だった。
「ぐっ!」
「がはっ!」
突然体中が痛みを訴える。
服が擦れ合うだけで激痛が走り、思わずその場に倒れてしまう。
「こ、これは…」
「い、一体何が起こっておるのだ…」
体の痛みは時間が経つ毎にマシになるどころか、酷くなっていっている。
王と宰相は意識を保つのがやっとだった。
王城中から叫び声が聞こえる。
そして、自分と同じ現象が他の臣下達にも起こっていると悟る。
「ぐ、ぐぅっ…」
「へ、陛下…」
しかし、どうする事も出来ずに二人はそのまま意識を失った。
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