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第3章 ふたたび、一瞬の夏
ふたたび、一瞬の夏
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翌年、夏も後半戦に入り、蝉しぐれの響くお盆を迎えた中川町。
健太郎は今年も律義に帰郷し、例年通り、新盆回りをしたり、訪問客のおもてなしや準備に追われていた。
何だかんだと時間に追われる中で、お盆の初日もあっという間に夕刻を迎え、夕闇が辺りを包み始めた頃、集落の各家庭で、軒先で先祖の霊を迎える「迎え火」を焚き始めた。
健太郎は、弟の幸次郎とともに、玄関前の道路で薪に火をともした。
火は次第に大きくなり、時折火花を上げて燃えながら、お盆の夜闇に浮かび上がった。
迎え火のまばゆい光に照らされながら、健太郎は、ポケットからスマートフォンを取り出すと、去年、奈緒から教えてもらった携帯番号を電話帳機能で引き出し、電話をかけた。
朝方何度か電話したが、無音のままか、「この電話は、現在使われておりません」のアナウンスが流れた。
昼間にも試したが、同じ反応であった。
夕方に再度試し、これでダメだったら、昨年、奈緒と出会ったコンビニに行こうかと考えていた。
しばらく無音であったが、しばらくすると、プルルルル、プルルル……と、
相手の番号につながっていることを確信させる待機音が鳴り始めた。
そして、やがてカチャリと音を立て、高音でキュートな女性の声がスマートフォン越しに聞こえてきた。
「もしもし?」
「もしもし!坪倉……奈緒さんですか?」
「はい、そうですけど。」
「覚えてますか?去年……お盆に一緒に遊んだ、健太郎です。」
「え?け、健太郎さん!?」
「思い出して、くれたかな?」
「うん。覚えてるよ。元気だった?今年も、中川に来てるの?」
「今年も帰ってきたよ。奈緒さんも、今年もここに帰ってきたんだね」
「うん。だってこの町が好きだから」
「今から会いに行きたいけど、いいかな?いつもの、コンビニに行けばいいの?」
「うん。そこにいるよ。じゃあ、待ってるね」
健太郎はスマートフォンをポケットに仕舞いこむと、安堵した表情で、片手で軽くガッツポーズしながら、幸次郎に語りかけた。
「幸次郎、俺、会いに行ってくるよ。こないだ話した彼女に」
「お?帰ってきたんだ?彼女。俺も会ってみたいな。どんな子か、気になるなあ」
「いいけど、ちょっかいは出すなよ。とりあえず、陰の方から見ててくれないか?」
「チッ、ったく、ケチだなあ。まあいいけど」
健太郎は、幸次郎とともに、迎え火の明かりに照らされた道路を歩き、やがて、県道へと歩みを進めた。
しばらく歩くと、暗闇の中、前方にまばゆい光に覆われたコンビニの看板が見えてきた。コンビニの前の駐車場には、店長の金子が焚いていたと思われる迎え火の跡が残っていた。
いよいよ、1年ぶりの再会の瞬間を迎える。健太郎の胸は次第に高鳴ってきた。
コンビニの駐車場の所で幸次郎は立ち止まり、
「兄貴、俺はここにいるから。ここから、そーっと覗き込むから。気にしないで、ラブラブしておいで。じゃあ、がんばれよ!」
そう言うと、親指を立てて、健太郎の背中をポンと前へ押し出した。
健太郎は、照れ臭いながらも、弟の心遣いに感謝した。
健太郎は、一歩、また一歩と、コンビニの前へと歩みを進めた。
入り口の辺りまで来ると、その後ろから、ささやきかけるような声が、健太郎の耳元に伝わってきた。
「健太郎……さん?」
そこにいたのは、ボーダーのキャミソールに、デニムのショートパンツ姿の、髪の長い、肌が白く華奢な、脚がスラリと長い女性だった。
「奈緒さん?」
「そうだよ。奈緒だよ」
「会いたかった……俺、1年間、ずっと、ずっと待っていたんだ」
「私も、ずっと、ずーっと、会いたかった!」
そういうと、奈緒は健太郎の胸に飛び込み、健太郎は奈緒の肩をグッと両手で抱きしめた。
「奈緒さん。俺、すごく、すっごく嬉しいよ!」
「私も、すごく、すごく、すっごく嬉しい!」
健太郎は奈緒の肩から両手を外すと、奈緒は背伸びして、健太郎の肩に手を添え、頬にチュッと音を立ててキスした。
「あ。相変わらずだな、不意打ちのキス」
「だって、すごく嬉しいんだもん、そして、大好きなんだもん。健太郎さんが」
そう言うと、奈緒は健太郎のもう片方の頬にもキスした。
「ありがとう、奈緒さん。今日は暑いし、コンビニで冷たいお茶でも買って、飲みながら散歩でもしようか」
「うん」
奈緒と健太郎は手をつなぎ、コンビニの店内に入ると、冷たいお茶を選び、レジに向かった。
そこには、にこやかに微笑む、店長の金子の姿があった。
「あれ、奈緒ちゃん?久しぶりだねえ」
「こんばんは、久しぶりね。おじさん、元気だった?」
奈緒は、手を振って屈託のない笑顔で金子に話しかけた。
「僕は相変わらずだよ。最近さすがに深夜の店番はきついと思うようになったけどね」
「そうかあ。私、手伝いたいけど、夜は苦手だからなあ。ごめんね。昔は良く手伝ったんだけどね」
奈緒は、金子からレジで精算の終わったお茶を渡されると、
「じゃあね。おじさん、たまには釣りでもして息抜きしなきゃだめだよ」
「奈緒ちゃんもね。勉強ばっかりじゃだめだぞ」
「私、もう勉強はしなくていいんだもん」
奈緒はそういうと、にやりと笑い、健太郎の手を引いて店の外に出て行った。
幸次郎は、しばらく駐車場から健太郎と奈緒の様子を覗いていたが、やがて二人が、ペットボトルのお茶を飲み、楽しそうに会話しながら駐車場の近くまで歩いてくると、気づかれないよう、店の壁にもたれかかった。
そして、店の明かりに照らされた奈緒の横顔が浮かぶと、幸次郎は、思わず驚いた。
「あれ?あの子って、確か……昔、兄貴に会いに来た子じゃ?」
幸次郎は、壁から身を離し、そっと後ろから二人に近寄った。
長い髪、田舎町にはめずらしいスラリとした長身……それはまぎれもなく、健太郎が成人式を迎えた日に、自宅を訪ねてきた女の子である。
「彼女が?まさか、ねえ」
あっけにとられていた幸次郎であったが、その背後から、誰かが幸次郎の背中を叩いた。
「こんばんは。誰なの?さっきからずっと、先輩の後を追っているみたいだけど」
健太郎は今年も律義に帰郷し、例年通り、新盆回りをしたり、訪問客のおもてなしや準備に追われていた。
何だかんだと時間に追われる中で、お盆の初日もあっという間に夕刻を迎え、夕闇が辺りを包み始めた頃、集落の各家庭で、軒先で先祖の霊を迎える「迎え火」を焚き始めた。
健太郎は、弟の幸次郎とともに、玄関前の道路で薪に火をともした。
火は次第に大きくなり、時折火花を上げて燃えながら、お盆の夜闇に浮かび上がった。
迎え火のまばゆい光に照らされながら、健太郎は、ポケットからスマートフォンを取り出すと、去年、奈緒から教えてもらった携帯番号を電話帳機能で引き出し、電話をかけた。
朝方何度か電話したが、無音のままか、「この電話は、現在使われておりません」のアナウンスが流れた。
昼間にも試したが、同じ反応であった。
夕方に再度試し、これでダメだったら、昨年、奈緒と出会ったコンビニに行こうかと考えていた。
しばらく無音であったが、しばらくすると、プルルルル、プルルル……と、
相手の番号につながっていることを確信させる待機音が鳴り始めた。
そして、やがてカチャリと音を立て、高音でキュートな女性の声がスマートフォン越しに聞こえてきた。
「もしもし?」
「もしもし!坪倉……奈緒さんですか?」
「はい、そうですけど。」
「覚えてますか?去年……お盆に一緒に遊んだ、健太郎です。」
「え?け、健太郎さん!?」
「思い出して、くれたかな?」
「うん。覚えてるよ。元気だった?今年も、中川に来てるの?」
「今年も帰ってきたよ。奈緒さんも、今年もここに帰ってきたんだね」
「うん。だってこの町が好きだから」
「今から会いに行きたいけど、いいかな?いつもの、コンビニに行けばいいの?」
「うん。そこにいるよ。じゃあ、待ってるね」
健太郎はスマートフォンをポケットに仕舞いこむと、安堵した表情で、片手で軽くガッツポーズしながら、幸次郎に語りかけた。
「幸次郎、俺、会いに行ってくるよ。こないだ話した彼女に」
「お?帰ってきたんだ?彼女。俺も会ってみたいな。どんな子か、気になるなあ」
「いいけど、ちょっかいは出すなよ。とりあえず、陰の方から見ててくれないか?」
「チッ、ったく、ケチだなあ。まあいいけど」
健太郎は、幸次郎とともに、迎え火の明かりに照らされた道路を歩き、やがて、県道へと歩みを進めた。
しばらく歩くと、暗闇の中、前方にまばゆい光に覆われたコンビニの看板が見えてきた。コンビニの前の駐車場には、店長の金子が焚いていたと思われる迎え火の跡が残っていた。
いよいよ、1年ぶりの再会の瞬間を迎える。健太郎の胸は次第に高鳴ってきた。
コンビニの駐車場の所で幸次郎は立ち止まり、
「兄貴、俺はここにいるから。ここから、そーっと覗き込むから。気にしないで、ラブラブしておいで。じゃあ、がんばれよ!」
そう言うと、親指を立てて、健太郎の背中をポンと前へ押し出した。
健太郎は、照れ臭いながらも、弟の心遣いに感謝した。
健太郎は、一歩、また一歩と、コンビニの前へと歩みを進めた。
入り口の辺りまで来ると、その後ろから、ささやきかけるような声が、健太郎の耳元に伝わってきた。
「健太郎……さん?」
そこにいたのは、ボーダーのキャミソールに、デニムのショートパンツ姿の、髪の長い、肌が白く華奢な、脚がスラリと長い女性だった。
「奈緒さん?」
「そうだよ。奈緒だよ」
「会いたかった……俺、1年間、ずっと、ずっと待っていたんだ」
「私も、ずっと、ずーっと、会いたかった!」
そういうと、奈緒は健太郎の胸に飛び込み、健太郎は奈緒の肩をグッと両手で抱きしめた。
「奈緒さん。俺、すごく、すっごく嬉しいよ!」
「私も、すごく、すごく、すっごく嬉しい!」
健太郎は奈緒の肩から両手を外すと、奈緒は背伸びして、健太郎の肩に手を添え、頬にチュッと音を立ててキスした。
「あ。相変わらずだな、不意打ちのキス」
「だって、すごく嬉しいんだもん、そして、大好きなんだもん。健太郎さんが」
そう言うと、奈緒は健太郎のもう片方の頬にもキスした。
「ありがとう、奈緒さん。今日は暑いし、コンビニで冷たいお茶でも買って、飲みながら散歩でもしようか」
「うん」
奈緒と健太郎は手をつなぎ、コンビニの店内に入ると、冷たいお茶を選び、レジに向かった。
そこには、にこやかに微笑む、店長の金子の姿があった。
「あれ、奈緒ちゃん?久しぶりだねえ」
「こんばんは、久しぶりね。おじさん、元気だった?」
奈緒は、手を振って屈託のない笑顔で金子に話しかけた。
「僕は相変わらずだよ。最近さすがに深夜の店番はきついと思うようになったけどね」
「そうかあ。私、手伝いたいけど、夜は苦手だからなあ。ごめんね。昔は良く手伝ったんだけどね」
奈緒は、金子からレジで精算の終わったお茶を渡されると、
「じゃあね。おじさん、たまには釣りでもして息抜きしなきゃだめだよ」
「奈緒ちゃんもね。勉強ばっかりじゃだめだぞ」
「私、もう勉強はしなくていいんだもん」
奈緒はそういうと、にやりと笑い、健太郎の手を引いて店の外に出て行った。
幸次郎は、しばらく駐車場から健太郎と奈緒の様子を覗いていたが、やがて二人が、ペットボトルのお茶を飲み、楽しそうに会話しながら駐車場の近くまで歩いてくると、気づかれないよう、店の壁にもたれかかった。
そして、店の明かりに照らされた奈緒の横顔が浮かぶと、幸次郎は、思わず驚いた。
「あれ?あの子って、確か……昔、兄貴に会いに来た子じゃ?」
幸次郎は、壁から身を離し、そっと後ろから二人に近寄った。
長い髪、田舎町にはめずらしいスラリとした長身……それはまぎれもなく、健太郎が成人式を迎えた日に、自宅を訪ねてきた女の子である。
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