メダカのキモチ

clumsy uncle

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私そのもの?

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「ただいま、さより」

恭介がアパートのドアを開けると、カレーの香ばしい匂いがしてきた。

「お帰り。今日は遅かったのね。遅いときはLINE送ってよ。心配しちゃうからさ」

エプロンをしたさよりが恭介に駆け寄り、ちょっと怒った表情で恭介を睨みつけた。

「ごめんな。今日さ、俺がメダカを買ったお店、復活していたから、店主に挨拶してきたんだ」
「え?あの長髪のおじさん?どこかへ逃げちゃったんじゃなくて?」
「借金取りに殴られて、入院していたんだって。でも、なんとか回復して、身の安全もそれなりに図られてきたから、営業再開したんだって」
「そうなんだ。あ、そのお店って、私がメリーとジョリーを買ったお店なんでしょ?」
「そうだよ。千葉でも一時営業してたんだって。でも、借金取りに追われてすぐ他所に行っちゃったみたい」
「ああ、やっぱりそうだったんだ。でもよかった、無事だったみたいで」
「無事だったのかな?」

恭介は複雑そうな表情になりつつも、スウェットスーツに着替え、用意されたカレーライスを食べ始めた。

「おお、だいぶまともになってきたな。こないだ初めてカレー作った時は、肉の煮込みが中途半端だったり、野菜が硬かったりしたのに」
「まあね、最近は自宅で練習してるのよ、恭介くんから教えてもらった通りにね」

さよりはエプロンを外すと、恭介の真向かいに座り、食べながら恭介に話しかけた。

「ねえ、ところでさ。今日、水槽覗いてみた?」
「え?まだだけど」
「ついに、生まれたのよ…メダカの赤ちゃんが!」
「え?マジで??たえ子が卵を産んだの、つい1週間位前なのに、早くね?」

恭介は突然の告知に、思わず手に持ったスプーンを落としてしまった。

「温かいからかな?孵化するのが早かったみたいね。」

恭介は、水槽に近づき、じっと目を凝らして卵のあった水草のあたりを覗き込んだ。すると、小さな針のようなものが何匹か、水底に浮かんでいた。

「これが赤ちゃんか」
「やったね。ジョリー、たえ子、おめでとう」

さよりの顔を見ると、赤ちゃんの誕生を心から喜んでいる様子だった。
そして、改めて水槽を見遣ると、何と、親メダカのうち1匹が、赤ちゃんメダカに近づき、襲いかかろうとしていた。

「あ、やばい、稚魚は親から隔離しないと、食べられちゃうんだった」
「ええ~??じゃあ、早く赤ちゃんを助けないと!」

恭介は、まずジョリーとたえ子の2匹の親メダカを別な水槽に移し替え、その間に赤ちゃんたちを、水の入ったバケツに移し替えた。
そして、親2匹を元の水槽に戻し、赤ちゃんたちはバケツから、親たちを一時的に移していた水槽へと再移動。

「なんとか助かったかな?赤ちゃんは3匹だっけ?」
「そうだね。あとは居ないみたい。卵のついた水草も、念の為赤ちゃんのいる水槽に移しておいたよ」

恭介とさよりは、ホッとした表情で、再びテーブルに戻った。
ご飯を食べ終わると、さよりは恭介と一緒に、SNSに今日のメダカの様子をアップした。

「無事、生まれました!」の大きな文字と、針のような赤ちゃんたちの写真が、堂々と大きくページに掲載されると、やがて、沢山のお祝いのメッセージが入ってきた。

『おめでとう。卵から孵るの早かったね。元気に育つようにしっかり世話してね。』
『生き残ったたえ子ちゃん、最後に幸せを掴んだね。やったね。』
『ジョリー、たえ子、おめでとう。いいパパとママになれよ~!』

そんなメッセージに交じって、
『kyodreamくんとguppyさんも、ジョリーとたえ子に負けずに、幸せになるんだよ!』というメッセージが入っていた。
2人は顔を合わせ、ちょっと照れながらも笑いあった。

「恭介くんが、他の子が死んじゃってたえ子ちゃんだけになった、と私にメッセージをくれた時、私もジョリー1匹だけだった。でも、うちのジョリーとたえ子ちゃんが一緒になれば、なんだか仲良くやっていけそうな気がしてたんだ。私と恭介くんのメダカだから、きっとお互い上手くいくかなあって思って」

「え?」恭介はドキッとしながら、さよりの顔を覗き込んだ。
さよりはくすっと笑って、そして恭介の頬にキスした。
恭介は、さよりからの不意打ちのキスに、思わず顔が紅潮してしまった。
ジョリーとたえ子、2匹のメダカが仲睦まじく追いかけっこをしている。
たえ子は、以前ならば何があっても水底でじっとしていたのに、ジョリーが来てから、活発に泳ぐようになった。

「たえ子ちゃん、ジョリーが来てから、元気になったもんね。きっとジョリーに恋したんだろうな。好きなヒト、じゃなかった、魚が現れるまで、じっとひたすら待っていたのかもね。なんというか、健気だよね」

たえ子は、ジョリーと一緒に、水面にあるエサを食べていた。

「たえ子ちゃん、きっと私と同じ性格かも。というか、私そのものかも」

さよりは、クスッと笑いながら話した。

「え?たえ子が…さより?」

恭介は、あっけにとられ、しばらく考え込んでしまったが、さよりはそんな恭介の表情がおかしいようで、ずっと声を上げて笑っていた。

それから1か月後、恭介とさよりは婚約した。
両方の両親を呼び、都内の小さなレストランで、結納を兼ねて食事会を開いた。
恭介は終始緊張していたが、さよりはにこやかで、晴れ晴れとした表情であった。
恭介の両親は、まさかこんな美人と我が子が?という感じで、いまだに信じられない様子であったが、さよりの両親は、恭介との結婚を心から喜んでいるようだった。
ここまですべて順風満帆な2人であったが、恭介には1つ気になることがあった。
さよりって、僕が初めての彼氏なんだろうか?以前、付き合っていた人とかいたんだろうか?恭介はさよりが初めての彼女だと伝えてあるが、さよりは過去について何も話してくれず、謎に包まれたままであった。
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