ガーベラの栞で挟んで

月代 斑

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憧れ

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   俺と颯悟は家が近く、生まれた時から顔見知りではあった。でも、初めて喋ったのは幼稚園に入園してからだ。

 この頃から俺は暗くて、目つきが悪いため怖がられた。友達もなかなか出来なかった。


「おーい!鬼ごっこしよーぜ!」

「やろうやろう!」

 園児たちが外で元気に遊んでいる中、僕はいつも隅っこの陰で本を読んでいた。勿論気にかけてくれてるやつも居たが、何か異様なオーラでも放っているのか、話しかけるまでは至らない。

(いいんだ、外遊び苦手だし…でも、楽しそうだなぁ。)

「ねぇねぇ、何してるの?」

「…だれ?」

「俺はたかはしそうご!よろしくな!それ楽しいの?」

「いや、何もしてないけど。」

「君も逃げなきゃ、鬼に捕まっちゃうよ?」

「僕はいいよ…。」

「…もしかして嫌い?」

「嫌いじゃないけど…。僕下手だし、足遅いし…。」

「なんだそんなことか!大丈夫だって!あ、そうそう、君のお名前は?」

「みなせ…りひと。」

「おーい、みんな!りひともかくれんぼしたいって!仲間に入れて~!」

「え?そ、そんなこと言ってない!」

「いいからいいから、行こ!」

 勢いよく引っ張られた手は僕と同じくらいの大きさのはずなのに、妙にたくましく感じられた。

「いいよ~!遊ぼ遊ぼ~!」

「りひとくんって言うんだ!」

さっきまで遊んでいた園児たちが、僕の周りに集まってくる。

「僕ね、君と仲良くなりたかったんだけど、声掛けづらくて…ごめんね。」

「…ううん。僕も気づいてたのに、声かけられなくてごめん。ありがとう。」

「ほらな?大丈夫だったろ?」

 そう言ってニカッと笑う君はとても眩しくて、深く沈んだ僕の心を救いあげてくれた。

(すごい!そうごくんの力で僕がみんなに溶け込めてる!)



 その後も相変わらず根暗な僕だったけど、この出来事をキッカケに友達がたくさんできた。

(そうごくん、かっこよくて、堂々としてて、みんなの人気者で…。僕とは正反対だ。どうやったらあんな風になれるんだろう?)

 僕は颯悟くんに憧れ、次第に仕草や口調を真似るようになった。って言っても考え方もまだ子どもだったから、一人称を〝俺〟にしてみたり、ちょっと喋り方を荒っぽくしてみたりと、簡単なものだった。だけど、それでも少し颯悟くん…颯悟に近づけた気がして嬉しかった。



 小学校になると、少しづつ自分に自信が持てるようになった。表情も明るくなり、友達も増えた。毎日昼休みにサッカーやドッヂボール、鬼ごっこで遊んで、放課後はみんなでゲームをした。前の俺からは想像出来ないほど、充実した日々だった。

「お前、最近明るくなったよな。」

「おう!今日も今から公園でゲームするんだ!ほら、この前出た新作の。颯悟も一緒に行こうぜ。」

「あぁ!俺も丁度そのゲーム気になってたんだよ。」

 颯悟は俺が楽しそうにしていると、心底嬉しそうに笑っていた。


 だけど、それから段々と素行が悪くなっていき、学校で〝悪ガキ〟や〝問題児〟などと言われているような奴らとつるむようになった。颯悟にはひどく心配されたが、聞く耳を持たなかった。

 ここが俺の居場所だと思った。

 それから颯悟と過ごす時間もどんどん短くなっていき、そのまま卒業を迎えた。



「俺らも中学生か~。」

「大して変わんねぇだろ。急に大人になるわけでもないし。」

「ま、それもそうか。」

 俺は相変わらず、友達とつるんでバカなことばかりしていた。それでも幼い頃本ばかり読んでいたせいか、成績だけは良かった。

「期末テストどうだった?」

 俺はテストの答案用紙を自慢げに見せびらかした。

「え!?81点かよ!すげ~!」

「マジ?俺らとずっと遊んでたくせに。コソ勉したな?裏切り者!」

「してねぇって。お前ら頭悪すぎだっての笑。」

「うわひっでぇ笑。調子に乗りやがって!このこのっ!」

「痛ぇって!首締まるから笑!」

 ふと廊下に目をやると、他の組のやつと話している颯悟の姿が目に入った。

「ちょっとトイレ!」

 俺はダッシュで廊下に出て、颯悟に声をかけた。

「颯悟~!テスト何点だった?」

「75点だ。璃人はどうだったんだ?」

「俺は81点だ!やりぃ!」

「そうか。ちゃんと勉強したのか?」

「いや?ノー勉だけど。すげーだろ!」

「だろうな。お前にしては低いと思った。」

「は?俺の勝ちだろ笑。」

「前は周りをよく見ていて、繊細で…。虫や野良猫と戯れてるような優しい目をしたやつだったのに。変わっちまったな。」

「なんの嫌味だ?もしかして颯悟怒ってる?」

「そうじゃなくて。俺は今のギラギラしたお前よりも、昔のお前が好きだったし、落ち着く。」

「それはお前が最初に会ったのが、そういう俺だったからだろ?」

「…そうかもな。」

(なんだよ急に。今に始まったことじゃねぇだろ。そもそも俺はお前に憧れて…。憧れて?)


 そう。俺は颯悟の真似事ばかりしてきた。口調も仕草も好きな物も全部…。

 確かに人気者にはなれたかもしれない。でも、違うんだ。俺がなりたかったのは、みんなを巻き込んで、その場にいる全員救ってしまうような光。たとえ俺が完璧な高橋颯悟を真似ることができたとしても、俺は俺だ。絶対に水瀬璃人の要素が入ってくる。俺が颯悟になっても、ただの不良にしかならない。誰かを変えたり、救える力なんて到底ない。

(そうだ。俺とあいつは最初から対局だったじゃないか。それなのに受け入れて貰えたのが嬉しくて、どんどん後にひけなくなって、無理して…。)

 自分がとっくの昔にボロボロになっていたことに、今更ながら気づいた。本当の自分をさらけ出して、また一人になるのが怖かったんだ。

 すぐ異変に気づいて寄り添おうとしてくれたやつがいたってのに。

「バカだよな…。」

(もう自分を偽るのは辞めよう。)

 だが、今更戻ろうとしたってあいつらが受け入れてくれるだろうか?颯悟にだってだから言っただろう?何で耳を貸さなかったのかと呆れられるかもしれない。

 颯悟に嫌われるのだけは嫌だ。

(俺はもう、自分が分からねぇ。どんな喋り方でどんな考えを持っていて、どんな性格だったのか…。)

 誰も居ないのに、声を押し殺して泣いた。精一杯のプライドだった。

「俺はどうしたらいい?そう―」

(クソッ!こんな時まで颯悟頼みかよ!)

「情けねぇ…。」

 自分から一番大切で、ずっと憧れていた人から離れていったんだ。今更そばに居てくれなんて、虫のいい話だ。





 次の日から俺は、家にひたすら引きこもった。
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