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第二章
5.
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「座長! ああ、ここに居たんですね。探しましたよ」
筒抜けの窓から覗き込むように顔を出した青年が、安堵した様子で声をかけた。座長と呼んだから、シャイマを探しに来たのだろう。とするとこの青年も、旅芸人の一座の者なのだろうか。
「おや、ハサン。どうしたんだい。慌てた様子で」
砂糖をたっぷり入れたミントティーを啜りながら、シャイマが問う。ハサンと呼ばれた青年は、窓から部屋の内へと身を乗り出して、声をひそめてこう囁いた。
「アイシャが倒れました。酷い熱で。感染る可能性もあるので、隔離してあります。同室で寝泊まりしていたノウラも悪寒を訴えているので、これから熱を出すかもしれません」
熱病。
はっと小さく息を呑む。するとハサンと呼ばれた青年が、その息遣いでたった今ルクサナの存在に気づいたといった様子で、警戒するような視線を向けた。
何故こんな目で、ルクサナを見るのであろう。当惑するルクサナをよそに、苦々しげにシャイマが告げる。
「そこの小娘は気にしなくて良い。それより、……町の人間には、知られていないかい」
「ええ、はい。……どこでもらってきちまったか知らないが、俺達が町に病を持ち込んだとでも思われたら、面倒なことになりますからね」
聞いて、そういうことかと合点した。
流行病が出た際、その感染源と目されれば、周囲から非難の目を向けられることは想像に難くない。旅芸人であるヤツガシラの一座が、それを忌避するのはわかる。
けれど。
「熱病……。それ、きっと、赤洟熱だわ!」
ぎくりと肩を震わせたイブラヒムが、とっさにルクサナの口を覆う。「声が大きい」と押し殺すように苦言を呈され、口を塞がれたままもごもごと、「ごめんなさい」と謝罪した。
「違うの、あの、もし本当に赤洟熱なら、そんなに怯えることはないって、わたくし、そう言いたかったの。熱が出始めたばかりの今なら、適切な薬を服用すれば、大事には至らないはずだから」
赤洟熱。ルクサナはその熱病が、月と花の都で猛威を振るう未来を、既に知っている。
(本格的に流行り始めたのは、もう少し後だったはずだけれど……。この頃から少しずつ、感染者が出ていたのかもしれない)
だとしたら。
筒抜けの窓から覗き込むように顔を出した青年が、安堵した様子で声をかけた。座長と呼んだから、シャイマを探しに来たのだろう。とするとこの青年も、旅芸人の一座の者なのだろうか。
「おや、ハサン。どうしたんだい。慌てた様子で」
砂糖をたっぷり入れたミントティーを啜りながら、シャイマが問う。ハサンと呼ばれた青年は、窓から部屋の内へと身を乗り出して、声をひそめてこう囁いた。
「アイシャが倒れました。酷い熱で。感染る可能性もあるので、隔離してあります。同室で寝泊まりしていたノウラも悪寒を訴えているので、これから熱を出すかもしれません」
熱病。
はっと小さく息を呑む。するとハサンと呼ばれた青年が、その息遣いでたった今ルクサナの存在に気づいたといった様子で、警戒するような視線を向けた。
何故こんな目で、ルクサナを見るのであろう。当惑するルクサナをよそに、苦々しげにシャイマが告げる。
「そこの小娘は気にしなくて良い。それより、……町の人間には、知られていないかい」
「ええ、はい。……どこでもらってきちまったか知らないが、俺達が町に病を持ち込んだとでも思われたら、面倒なことになりますからね」
聞いて、そういうことかと合点した。
流行病が出た際、その感染源と目されれば、周囲から非難の目を向けられることは想像に難くない。旅芸人であるヤツガシラの一座が、それを忌避するのはわかる。
けれど。
「熱病……。それ、きっと、赤洟熱だわ!」
ぎくりと肩を震わせたイブラヒムが、とっさにルクサナの口を覆う。「声が大きい」と押し殺すように苦言を呈され、口を塞がれたままもごもごと、「ごめんなさい」と謝罪した。
「違うの、あの、もし本当に赤洟熱なら、そんなに怯えることはないって、わたくし、そう言いたかったの。熱が出始めたばかりの今なら、適切な薬を服用すれば、大事には至らないはずだから」
赤洟熱。ルクサナはその熱病が、月と花の都で猛威を振るう未来を、既に知っている。
(本格的に流行り始めたのは、もう少し後だったはずだけれど……。この頃から少しずつ、感染者が出ていたのかもしれない)
だとしたら。
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