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第四章
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怪訝に思いそう問うと、イブラヒムはううんと唸り声を上げて、「宰相家の侍女のマリアムってのが、最近、子猫を育て始めたらしいんだよ」と首を傾げてみせる。
「そのことで、……私を信じたの?」
「それだけじゃない。おまえさんはアイシャ達の病を言い当てて、宰相家の邸宅へひとりで乗り込み、宣言通りに薬まで調達してきた。ただの娘っ子じゃないってことを、おまえさん自身が証明したじゃないか」
証明。イブラヒムが何気なく口にしたその言葉が、とん、とルクサナの胸を叩く。
「私、たいしたことはしていないわ。邸宅でだって、ちっともうまく立ち回れなかった。薬をもらえたのは、ただ、お母様がお優しかったから……」
言い淀んで、目を伏せる。必ず薬をもらって帰る、と意気込んだにも関わらず、思いもよらぬ事態に狼狽え、怯えるばかりであった己を思い出すと、また情けなくて穴に入りたい気持ちになった。それなのに、荷台を引いて隣を歩くイブラヒムは、おかまいなしにこう続ける。
「おまえさんの話を信じるなら、この半年後、宰相が不正を犯し、大臣にそれを断罪される。宰相家のお嬢様はクラバトへ逃れようとするが、その道中、何者かに殺害されてしまう。って話だったよな」
己の身に起こった出来事を、未来のこととして語られるのには違和感がある。だがその通りではあるから、ルクサナは「ええ」と頷いた。
「信じられない話でしょう」
「信じようとしているところだ」
「私自身、いまだに信じられないのに?」
イブラヒムを咎めるような口調になってしまった。八つ当たりだ。彼は何も悪くない。ただ、ルクサナの語る夢物語に、寄り添おうとしてくれているだけなのだ。
それなのに、何故こんなにも、惨めな気持ちになるのだろう。
「──、信じてほしくないように聞こえる」
イブラヒムの言葉に、ぎくりと小さく肩が震えた。言い当てられた。そう感じた。けれどまだ、ルクサナの心は整わない。
「だって、まだわからないじゃない。何も起こらないかもしれない。お父様が罪に問われることもなく、誰も死なずに済むかもしれない。何か些細なきっかけがあれば、──未来は、変わるかもしれないじゃない?」
こぼれた声が震えていた。売り言葉に買い言葉。たいした考えがあって、発した言葉ではなかった。けれどイブラヒムは茶化すでもなく、「へえ」と何故だか感心した声音で返す。
「未来は変わると思うか?」
「そのことで、……私を信じたの?」
「それだけじゃない。おまえさんはアイシャ達の病を言い当てて、宰相家の邸宅へひとりで乗り込み、宣言通りに薬まで調達してきた。ただの娘っ子じゃないってことを、おまえさん自身が証明したじゃないか」
証明。イブラヒムが何気なく口にしたその言葉が、とん、とルクサナの胸を叩く。
「私、たいしたことはしていないわ。邸宅でだって、ちっともうまく立ち回れなかった。薬をもらえたのは、ただ、お母様がお優しかったから……」
言い淀んで、目を伏せる。必ず薬をもらって帰る、と意気込んだにも関わらず、思いもよらぬ事態に狼狽え、怯えるばかりであった己を思い出すと、また情けなくて穴に入りたい気持ちになった。それなのに、荷台を引いて隣を歩くイブラヒムは、おかまいなしにこう続ける。
「おまえさんの話を信じるなら、この半年後、宰相が不正を犯し、大臣にそれを断罪される。宰相家のお嬢様はクラバトへ逃れようとするが、その道中、何者かに殺害されてしまう。って話だったよな」
己の身に起こった出来事を、未来のこととして語られるのには違和感がある。だがその通りではあるから、ルクサナは「ええ」と頷いた。
「信じられない話でしょう」
「信じようとしているところだ」
「私自身、いまだに信じられないのに?」
イブラヒムを咎めるような口調になってしまった。八つ当たりだ。彼は何も悪くない。ただ、ルクサナの語る夢物語に、寄り添おうとしてくれているだけなのだ。
それなのに、何故こんなにも、惨めな気持ちになるのだろう。
「──、信じてほしくないように聞こえる」
イブラヒムの言葉に、ぎくりと小さく肩が震えた。言い当てられた。そう感じた。けれどまだ、ルクサナの心は整わない。
「だって、まだわからないじゃない。何も起こらないかもしれない。お父様が罪に問われることもなく、誰も死なずに済むかもしれない。何か些細なきっかけがあれば、──未来は、変わるかもしれないじゃない?」
こぼれた声が震えていた。売り言葉に買い言葉。たいした考えがあって、発した言葉ではなかった。けれどイブラヒムは茶化すでもなく、「へえ」と何故だか感心した声音で返す。
「未来は変わると思うか?」
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