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第四章
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✧✧✧
「大事に至らぬよう、上手いこと釘を差してほしい、っていうのが、さる御方からの要望でね。そこでヤツガシラの一座の皆様に、手を貸していただきたいわけだ」
デーツを貪り、カップにコーヒーを注ぎ足しながら、イブラヒムが事も無げにそう告げた。
ミレーナ達との朝食ののち、イブラヒムに呼ばれてやってきた、隊商宿の一室でのことである。ルクサナの他、座長であるシャイマや、一座の脚本家、振付師など数名が呼ばれたこの場所で、一体何が始まるのかと問うたルクサナに、彼は笑ってこう答えた。
「何って、作戦会議さ」
作戦会議。それはつまり、──赤洟熱の薬を確保し、ルクサナの父に罪を着せられないようにする──未来を変えるための企てを、ここで行うということであろうか。
ならばルクサナも全力を賭して、その為の知恵を絞り出さなくては。そう意気込んではいたものの、どうやらイブラヒムとシャイマの間には、既になんらかの策があるらしい。というのも、イブラヒムが「いつもの調子で頼む」と言えば、シャイマは二つ返事で頷いて、「報酬ははずんでもらうよ」と返すのみなのだ。
一体どういうことであろう。困惑するルクサナを前に、脚本家がこう問うた。
「それで、今回はどういった筋書きをご所望で?」
「……、筋書き?」
もう少し様子を見ようと思っていたはずなのに、つい、声に出して問うてしまった。するとシャイマがルクサナを見て、愉快そうにこう笑う。
「ルクサナ。ヤツガシラの仕事が何か、言ってごらん」
「それは、ええと、舞や物語を、披露することだと思っていたのだけれど。……もしかして、それ以外にも何か、秘密の仕事を請け負っていたり……するのかしら?」
好奇心が先に立ち、声に期待が滲んでしまった。するとシャイマは、からかうようにこう返す。
「知りたいかい? だが──、それを知ってしまったら、ルクサナ、おまえはもう二度と、ヤツガシラからは抜けられないよ」
含みのある物言いに、思わずぎくりと肩が震える。しかしすぐさま、「こらこら」とイブラヒムが遮った。
「またそうやって、捨て猫をいじめて遊ぶんだから」
「……。捨て猫って、私のこと?」
「自覚があるなら、そうかもな。まあルクサナお嬢様のために、きちんと説明させていただきましょうかね」
そう言ってクッションにもたれかかるイブラヒムも、ルクサナに言わせてみれば、シャイマと同じ目をしている。ルクサナのことを、からかって遊んでいるのだ。
「大事に至らぬよう、上手いこと釘を差してほしい、っていうのが、さる御方からの要望でね。そこでヤツガシラの一座の皆様に、手を貸していただきたいわけだ」
デーツを貪り、カップにコーヒーを注ぎ足しながら、イブラヒムが事も無げにそう告げた。
ミレーナ達との朝食ののち、イブラヒムに呼ばれてやってきた、隊商宿の一室でのことである。ルクサナの他、座長であるシャイマや、一座の脚本家、振付師など数名が呼ばれたこの場所で、一体何が始まるのかと問うたルクサナに、彼は笑ってこう答えた。
「何って、作戦会議さ」
作戦会議。それはつまり、──赤洟熱の薬を確保し、ルクサナの父に罪を着せられないようにする──未来を変えるための企てを、ここで行うということであろうか。
ならばルクサナも全力を賭して、その為の知恵を絞り出さなくては。そう意気込んではいたものの、どうやらイブラヒムとシャイマの間には、既になんらかの策があるらしい。というのも、イブラヒムが「いつもの調子で頼む」と言えば、シャイマは二つ返事で頷いて、「報酬ははずんでもらうよ」と返すのみなのだ。
一体どういうことであろう。困惑するルクサナを前に、脚本家がこう問うた。
「それで、今回はどういった筋書きをご所望で?」
「……、筋書き?」
もう少し様子を見ようと思っていたはずなのに、つい、声に出して問うてしまった。するとシャイマがルクサナを見て、愉快そうにこう笑う。
「ルクサナ。ヤツガシラの仕事が何か、言ってごらん」
「それは、ええと、舞や物語を、披露することだと思っていたのだけれど。……もしかして、それ以外にも何か、秘密の仕事を請け負っていたり……するのかしら?」
好奇心が先に立ち、声に期待が滲んでしまった。するとシャイマは、からかうようにこう返す。
「知りたいかい? だが──、それを知ってしまったら、ルクサナ、おまえはもう二度と、ヤツガシラからは抜けられないよ」
含みのある物言いに、思わずぎくりと肩が震える。しかしすぐさま、「こらこら」とイブラヒムが遮った。
「またそうやって、捨て猫をいじめて遊ぶんだから」
「……。捨て猫って、私のこと?」
「自覚があるなら、そうかもな。まあルクサナお嬢様のために、きちんと説明させていただきましょうかね」
そう言ってクッションにもたれかかるイブラヒムも、ルクサナに言わせてみれば、シャイマと同じ目をしている。ルクサナのことを、からかって遊んでいるのだ。
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