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本質か、血筋か

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お披露目式から、半年後、異例の早さで皇太子と伯爵令嬢の母様の結婚式が執り行われた。


あの日、皇太子から発表された俺と母様だが、
婚外子と、囁かれたのは当然だった。

父様はアリアナと結婚したし、後か先かわからない者達にはそれ以外のなにものでもない。
結婚前の火遊び、愛人などという噂もあった。

父様がアリアナと結婚していた期間、俺は城の外で暮らしていたのだから仕方ない。

だが、婚外子と呼ばれても、俺は母様と父様の愛の結晶だった。


婚外子と、言われることには特に思う事は無かった。読んで字の如く…。
だがその噂を知った父様は

「俺はマーガレットと結婚したかったんだ!!!!デビッドのせいだ!!!
そのせいで婚外子等と言われる羽目にっっ!!!くそが!!!!!!!」

綺麗な顔立ちから、とんでもない言葉が飛び出していた。

怒りを露わにした父様はとんでもない早さで結婚式の準備を始めた。秘密裏にロスウェルが絡んでいるのは言うまでもない。だからこその早業った。
貴族たちに日付がどうの、早めたところで変わらない等と言われたが、
その言葉にまた怒り、暴君の如く結婚式を早めたのだった。

「いいかロスウェル!!血をやるから派手にやれよ!
式中は虹をかけ、披露宴の夜には星を降らせろ!
こんな奇跡2度とないと言う程な演出だ!!
わかったか!!!マーガレットのドレスは光らせておけ!
女神の様に!!!いやっ!マーガレットは女神だ!」

「えーーーーもう、皇太子殿下ったら俺にどんだけ血をくれるって言うんですか?私は蚊じゃないんですー」

「うるさい!つべこべ言わずにやれ!次期皇帝の命令だ!」

「わーーーー陛下殺す気ですかー?謀反だ謀反だーー」

「やかましい!!!マーガレットとテオドールが、この俺が!頭の悪いくだらん中傷されているんだぞ!!」

「っへーーー?元は結婚前に子供作った殿下のせいなのにー?気が知れなーい♡」

ひゃひゃっと馬鹿にした様に話すロスウェル。

「仕方がないだろうがぁ!!!いつ終えるかわからない別れだったのだぞ!出来る様な真似して何が悪い!!!出来てなかったらこんな素晴らしい息子は居なかったんだ!否定するなんて不敬だ!お前はもう火炙りだ!!!!」

「ヘイ暴君ー♡いっそ帝国燃やしてしまえー」

「ふざけるなぁぁーーーー!俺はぁ、真面目ぃ、言ってるんだぁぁぁ!!!!」

終いには剣を振り回す皇太子と、防御魔術で逃げ回るロスウェルとの終わりの見えない攻防戦があったのだった。

そんな攻防戦も当然誰も知らずに結婚式は始まった。
両親の結婚式は、虹がかかり、花びらが舞い、母様は女神のようにバージンロードを歩くという完璧なまでに仕上げられ、皇太子はそれはそれは甘く噂を蹴散らすような永遠の愛の宣誓し、見ている者が呆れるほどの長い長い誓いの口づけをしたのであった。その夜披露宴に星が降り落ち続けたのは言うまでもない。

そして、ロスウェルが俺に言いにきた。
「テオドール王子、アレがお父様の本性ですよ?呆れますよね。はぁ、私と一緒に謀反起こしましょうね?全身全霊王子様をお手伝いしますから。」

げっそりとした顔で、苛立ちを隠さず言い、癖の指パチをして、姿を消した。


その結婚式から早3ヶ月。両親は幸せ暮らしている。

今の俺は、王子宮に住まい城の中を闊歩する。
誰がなんと言うと、俺は王子なのだから。

王子宮は元々父様、いや、お父様が使用していた部屋だった。
一人なのに、キングサイズの天幕付きのベッド。二つの大きな窓の向こうにはバルコニー。
アンティークなソファーが二つ。一人掛けのソファーが陽に向かって置いてある。

部屋はここだけじゃない。続き部屋は執務室になっていて
広さ十分の机と座り心地の良い椅子。部屋のあちこちに邪魔にならないように美術品が置いてある。

どの部屋も落ち着いた雰囲気で、気に入っていたが、
俺は、陽に向かって置いてある一人掛けのソファーがお気に入りだ。
そのソファーに座ってもたれると、それだけで気持ちが和らぐ。

「・・・・・・」

あぁ、このまま寝てしまいそうだ。暖かな陽に当たり微睡んでしまった。

すると眼を閉じた俺の耳に、ふっ…と息が吹き込まれた。

「わぁ!!!」

ビヤッと慌てて飛び起きた。耳を塞ぎ、辺りを見回したが誰もいない。

「・・・・えっ?・・・気のせい?」

耳をむいむいっとしながら、俺は気持ち悪さを感じていた。

再び目を閉じるのは気が引けて、メイドを呼ぶベルを鳴らした。すぐにメイドはやってくる。

「お呼びですか?テオドール王子様」
和やかで少しふくよかなメイド長、ベリーが来てくれた。
「あぁ・・・お茶を用意してほしいんだ、喉が渇いた。」
「承知いたしました。しばしお待ちください。あっお菓子もご用意しましょうね。」

丁寧にお辞儀をしてメイド長は支度へと下がっていた。
俺の年齢を考えての事だろう。とても感じが良いメイドだった。

お父様とお母様が信頼するメイド長。お父様にも仕えていたそうだ。

お茶を待つ間、二人掛けのソファーに移動して、足をブラブラさせた。
ここは私的な空間。畏まる必要もない。


俺は、王子、俺は王子と少し意地を張っていた。
お父様と、お母様が中傷された事が嫌だった。俺のことはいいんだ。

お母様は式の後、マーガレット・アレキサンドライトとなり、皇太子妃として
周囲への態度や、天性の美貌と明るさで貴族の夫人たちを懐柔していた。
お父様も皇太子として仕事は完璧だった。帝国の為、民の為その手を尽くしている。
そして俺の家庭教師を適切・適当に選び、剣術の師を探し俺に知識と技術を与えてくれる。

勉強も剣の稽古も、昔と同じ、吸収するんだ。学校行ってたんだ。慣れたことじゃないか。
仕事もしてた。責任感と遣り甲斐、守る者の為、働いていたじゃないか。

「・・・・」

そうだ。本来俺の家族のために・・・・。


ジリッと胸が痛む。レイラの名前が刻まれてから、このやり場のない気持ち。

結婚してた。他の女性と。

レイラを忘れ。でも思い出した事は、まだアレクシスからもらった7歳のレイラとの言葉と
名前だけ。だから気持ち悪いんだ・・・胸がざわつくんだ。

今生は、この立場に産まれ王子となった事、レイラと再び巡り合う事。
やれる事をやり、レイラと巡り合えればいい。今度こそ幸せに・・・・。


考え込んでいるうちに、メイド長がやってきた。
目の前のテーブルに暖かな紅茶とクッキーが綺麗に並べられた。

「ありがとう。ベリー・・・」
紅茶を手に取り、ベリーに笑顔を向けた。
ベリーはふんわりと微笑んだ。
「お勉強大変でしたか?」
「ううん、学ぶ事は楽しいよ。たくさんの事を知られるんだ。」
「本当にテオドール様は聡明ですね。皇太子様とよく似ていらっしゃいますね。」
「そう?僕もお父様みたいになれるかな?」
「なれますとも!」

クスクスと和やかに笑いあった。
ベリーは無駄な事は言わず、朗らかで優しい人だった。会話も楽しい。
俺はクッキーに手を伸ばした。

「あら・・・?」
ベリーが目を丸くした。

「どうしたの?」
「テオドール様、今初めてクッキーをお食べになるところでしたよね?」
「そうだけど・・・」

「おかしいわね・・・クッキーが減ってる・・・」

皿を見ると綺麗に並べられていたクッキーが不自然に真ん中の一枚がなくなっていた。
「あ、ここ・・・ない。」

「ずれたのかしら?」

「何枚持ってきたの?」

「確か・・・6枚だったと思いますが、あまり食べ過ぎてもいけないですし・・・控え目に・・・」
顎に手をあてて考え込むベリーだった。

「・・・・・・」

変だな。


クッキーを一枚手に取り、サクッと噛り付いた。


俺の咀嚼音が聞こえるが、遠くでもう一つサクサクと咀嚼音が聞こえた。

パッと音がする方へ振り向いた。


「っどうなさいました?」
「いや・・・・俺以外にも・・・・」

ぽかんとしながら、クッキーを皿においてソファーから立ち上がった。

急に部屋の中をウロウロし始めた俺にベリーは困惑していたが、ちょっと構ってられない。

確かに音がしたんだ。俺だけの音じゃなかった。

それにさっきも耳をふってされた。気持ちわりぃ。


あちこち見回り、部屋の隅に置いてある美術品のテーブルと壁のほんの少しの隙間。


・・・・クッキーのカス・・・・。



「ベリー、もう下がっていいよ。ありがとう。」

「ですが・・・」

「大丈夫だって、気にしないで。」

ニコっと笑って、ちょっと圧強めにベリーを下がらせた。

一人になった部屋。



「誰だ。誰かいるんだろ?」

しん、と俺の声だけ響く。

声は返ってこない。


独り言みたいではずいんだけど!!

「わかってる。クッキー食っただろ!」

・・・・・・・

くそっ、ハズイから返事しろよ!


「おい!出てきたらクッキーもっとやるよ!」

部屋のあちこちに向かって声をかけ続けた。



それでも返事はなかった。

「くそっ・・・・いらねぇ恥かいちまった。」

チッと舌打ちしてしまった。




「うわ、口悪っ」

俺の後方で声がした。
逃がすまいとくるっと振り返る。

「舌打ちもした!王子様のくせに!」

薄い水色の、髪の短い同じ年くらいな背丈の男の子。
くっきりした眉に少し生意気そうな眼。その瞳の色は黒真珠に似ている。
そして、白いシャツと黒いハーフパンツ、の上にローブ・・・。

その子供を品定めするように上から下まで見た。


「・・・・なんか見たことあんな・・・・」

「人の事上から下までそんな目で見るなんて失礼だな!」

「お前誰に向かって言ってんのかわかってんのか?」

こちとら王子だぞ!

「うわエラソー・・・・口も悪いし、うざっ」

ゲーっと舌を出して嫌そうな顔を向けてきた。

「てめぇ何しに来やがったんだこらぁ」

暁の本質は隠せない。いや、お父様似かもしれない。

「うわー、すっごい口悪い」

「悪口言いに来たなら帰れ!どうせお前魔塔の奴だろ!」

「っひっ・・・・・」

その言葉にこの子供は顔を引き攣らせた。

「あんだよ!図星だろうが!」

このローブ見りゃ十分だ。

「わーーっ待って!」

じたばたと慌てだす子供。ふんっと俺は鼻を鳴らして横目見た。


「俺知ってんだからな・・・・ロ・ス・ウェ・・・」

「あーーーーごめんなさいごめんなさいごめんなさいっっ」


本来、暁の俺は性根が悪い。口も悪い。
その胸倉を引っ掴んでやった。


「てめぇ、さっき俺の耳に息吐きかけやがったな?・・・」


そうか、俺は常に礼儀正しく品行のよい王子様の自分にちょっとイライラしてたのか。
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