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離れていても

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「陛下!陛下にお目通りを!」
リリィベルは、皇帝陛下の執務室の前にやってきた。
従者はそのリリィベルの様子に慌てた。

「あっ・・・はい。」

従者が声をかける前にガチャっと扉が開き、皇帝が顔を出した。
「どうした、中まで声が聞こえてきたぞリリィ・・・そんなに慌ててどうしたんだ?」
「陛下!・・・少しお時間を・・・」
「あぁ・・・構わない、入りなさい。」

そう言って皇帝はリリィベルを中へと通した。扉の前にイーノクとアレックスが待機する。

リリィベルは険しい顔で皇帝の前に立った。その顔に皇帝は驚き、眉を顰めた。
「リリィ、どうしたんだ・・・?」

「先程・・・皇太子宮の廊下で・・・ヘイドン侯爵にお会いしました・・・。」
「!!なに?なぜヘイドン侯爵が?」

リリィベルは、切なげに眉を顰めて皇帝の袖を掴んだ。

「お父様が奇襲を受けたと言ったのです!陛下の元へ何か知らせは来ていますか!?」
「!・・・・何故そんな事を・・・・」
「陛下!なにか知らせはっ・・・?」
「・・・リリィ、落ち着いて・・・・。」
宥める皇帝に、リリィベルは今にも泣きそうだった。

「・・・・テオ様もいらっしゃらない・・・そんな時にっ・・・なぜお父様まで・・・・」
「リリィ・・・・」
「っ・・・イシニスの仕業ですかっ・・?イシニスの奇襲がブラックウォールまで?」

「・・・リリィ、落ち着いて、話してあげるから・・・落ち着いて。」

そう言ってリリィベルの肩を摩った。

「お義父様っ・・・・どうにかなってしまいそうですっ・・・・・・

テオ様もいらっしゃらないのにっ・・・・お父様までっ・・・・・・

私は何も知らずっ・・・お二人は戦って・・・・」

「大丈夫だよ・・・。さぁ、そこに座って・・・。」

ゆっくりとリリィベルをソファーに座らせた。そして、その頭を撫でた。

テオドールもそうだが、リリィベルもテオドールが居ないとその心はとても脆くなる。
まるで半身がそぎ取られるように・・・。

出来れば、イシニスの件が落ち着くまで言わないつもりだった・・・・。

「リリィ・・・まず、話しておく。ダニエルは無事だよ?ロスウェルが確認している。」
「っ・・では・・・奇襲は誠なのですか?」

「あぁ・・・残念ながら本当だ。イシニスにテオドールが行った翌日、手紙が届いた。
お前に会いたいとの事だったが、リリィ、お前もよくわかっているはずだ。

危険だと分かっていて、ダニエルはお前をそばに寄越せと言う男だと思うか?」


「・・・・・いっ・・・・いいえ・・・・・・。」
リリィベルの瞳から一筋涙がこぼれた。
そんなリリィベルを安心させるように、皇帝は優しく微笑んだ。

「あぁ、そうだ・・・。だから、その手紙を不審に思って、ロスウェルに北部を見てきてもらったよ?
奇襲は残念ながら本当だった。でも・・・。ダニエルは言っていた。

お前が、王都でテオドールに守られていて良かったと。北部にお前が居たら大変だった。

だから、ダニエルはそんな手紙をこちらへは送っていない。それは偽の手紙だった。

誰かが、お前をこの城の外へ連れ出そうとしたようだ。暗殺者の件も知っているだろう?
お前がこの城にいる限り、ロスウェル達の手で守られている。


それを・・・・おそらく、知って・・・外へ出そうとする・・・・・。


すまない・・・・きっと・・・・皇太后陛下の仕業であろうな・・・・・。

魔術師が居る限りお前を害することが出来ないと分かっているから、お前を外へ出そうと。

そう考えるのは、皇族の秘密を知る者のみ・・・・。

だが、安心してくれ・・・。ロスウェルがお前の実家に守りの術を施した。

だから、そんなに泣かなくても大丈夫だぞ・・・。」


皇帝は、リリィベルの涙を拭った。その優しい仕草を見て、リリィベルは顔を歪ませた。

「っ・・・お義父様はっ・・・テオ様・・・そっくりっ・・・・」

「ははっ・・・そうか・・・テオでなくてすまないな・・・。

テオドールを敵地へ送ったのは私だ・・・お前の父を狙っているのも私の母・・・。

本当にリリィには謝る事ばかりだ・・・・。私を憎んでくれて構わない・・・。」

「っ・・お義父様は何も悪くありませんっ・・・皇帝陛下でありっ・・・

私の愛するテオ様の・・・大切なお父様ですっ・・・ごめんなさいっ・・・

何度も情けない姿をっ・・・うぅっ・・・・。」


涙が溢れるリリィベルを、皇帝は少し控えめに抱きしめた。
「情けなくなどない・・・。リリィは・・・王都に来てからいろんな事を耐えて・・・・

必死に頑張っているじゃないか・・・。とても頼もしい息子のお嫁さんだよ?

不甲斐ない私を許してくれ・・・。必ず、皆が安心していられるように全力を尽くすよ・・・。

お前たちの結婚式の時には、何もかも片付けて盛大な結婚式をしよう。

私は、それが今一番の楽しみなんだ・・・。私の息子の晴れ姿と、リリィ、そなたの綺麗な花嫁姿がな。

ダニエルも一緒だ。お前の無事を願っている。心配だろうが、

どうか、私とロスウェル達を信じてくれ・・・。早くテオドールに会いたいだろう・・・。

お前の悲しみを癒せるのは、テオドールだけだろうから・・・。」


そして皇帝は、リリィベルの頭越しに鋭い瞳を浮かべた。


「私はもう・・・決意を固めている。」





しばらくしてから、カタリナに紅茶を部屋に運ばせた。
鼻先と頬を赤くしたリリィベルに、皇帝は微笑んだ。

「落ち着いたか?」
「はい・・・すみませんっ・・・陛下・・・・。」
「いいんだ。だが、理解してくれ、決して城を出てはいけないよ?
せめてテオドールが戻るまでは、踏みとどまってくれ。」

「大丈夫です・・・。口車に乗せられて・・・陛下たちの計画を台無しにしたくありません・・・。」

「ありがとう・・・。窮屈な思いをさせてすまない・・・。」


皇帝は、カタリナを下がらせた。そして指輪を三回叩いた。
「はい。陛下。」

ハリーが初めてリリィベルの前に姿を現す。
「リリィ、この子はハリーと言って、テオドールとは幼い頃から知っている間柄の魔術師だ。
いつもリリィを守っている者たちは別にいるが、ハリーが一番今はちょうどいい。

ハリー、ロスウェルに連絡を。」

「畏まりました陛下。」

皇帝は、リリィベルの頭を撫でて優しく言った。
「私たちは席を外す。・・・・こんな事でもお前の慰めになればいいと思ってな。」
そう言ったのを合図に、ハリーはリリィベルの目の前のテーブルに水晶玉を置いた。

「・・・・これは・・・・?」
リリィベルは不思議に皇帝の顔を見上げた。

「その水晶玉を見つめていろ。私が戻るまで、ここに居なさい。いいね・・・・?」


そう言って、皇帝は隣の部屋にハリーと共に消えていった。

「・・・・・・・・。」
残されたリリィベルは・・・その水晶玉を見つめた。

映った自分の顔は、目の下も、頬も、鼻も赤くなって、なんて顔をしているんだろう・・・・。


けれど、その映った自分の顔は消えて、水晶玉にはテオドールの顔が映り始める。

「っ・・・・・テオっ・・・・・」

両手で鼻先を覆い隠して、リリィベルは驚いた。

その様子に、テオドールはふっと笑みを浮かべたのだった。

【リリィ・・・・泣いたのか・・・・?】

優しいテオドールの顔に、リリィベルはまた涙を浮かべたのだった。

「テオっ・・・・本物・・・ですか?・・・」


水晶玉の向こう。テオドールから映るリリィベルは泣いていた。
ロスウェルから話を聞き、泣いているからと聞いた時、胸が痛んだ。

「・・・・・リリィ・・・・。」
案の定泣いているリリィベルにテオドールは、思わず水晶玉に触れた。



【リリィ・・・・リリィ・・・・顔を隠さないで見せろ・・・何日ぶりだと思ってるんだ?】


【うぅっ・・・テオっ・・・ごめんなさいっ・・・私っ・・ひどい顔をっ・・・・・・】


【ははっ・・・鼻を赤くしてたって、お前は可愛いよ・・・・。】


【そんっ・・そんな訳ありませんっ・・・】


【嘘じゃない・・・本当だ・・・。父君の話は俺もロスウェルから聞いた。

心配しただろ?でも大丈夫だ。ロスウェル達が守ってる。心配いらないから・・・】


【はいっ・・・・・はいっ・・・・っ・・・】


【リリィ・・・・お前は泣いてても可愛いな・・・・。

触れられないと分かっていても、手を伸ばしたい・・・・】


【テオっ・・・・・】



【泣いてるお前を抱きしめられなくて、胸が苦しいな・・・・。

すぐにでも帰りたいが・・・ここから離れる訳にいかない・・・・。

もどかしいな・・・・でも、お前は、俺の婚約者だから・・・・】


【うぅっ・・・・ぅっ・・・・】


【リリィ・・・・離れてても・・・・ずっと愛してるよ・・・・・・。


俺を見て・・・・リリィ・・・・お前の顔を見せて・・・・】



【っ・・・テオっ・・・・会いたいですっ・・・・】


【あぁ・・・そうだな・・・・。俺も会いたいよ・・・・・】



【待ってると・・・誓ったのにっ・・・・すぐにくじけそうになりますっ・・・】


【俺も同じだ・・・。お前の手紙を抱いて眠るくらいだ・・・・。】



【・・・っ私もっ・・・・抱いて眠っていますっ・・・・】


【ははっ・・・そうか、俺たちは一緒だな・・・・。文字で伝えるのもいいが・・・。

直接、その耳に届けたいな・・・。リリィ・・・・


愛してるよ・・・・。愛してる・・・・・。】


【私もっ・・・愛していますっ・・・・・】


【あぁ・・・ずっとお前だけを思ってる・・・。必ず帰るから・・・・】



【・・・・は・・いっ・・・・はいっ・・・・・っ・・・】


【安心しろ・・・俺はいつも、離れてても、お前と一緒だ・・・・。

俺達には指輪があるだろ・・・・?ずっと一緒だ・・・・・。】



「・・・・テオっ・・・・・」
リリィベルは、水晶玉のテオドールを見つめた。

映ったテオドールは、涙こそ流しては居なかったが、瞳が濡れているように見えた。

そして、左手で水晶玉の上部を掴んでいる。


【・・・・ほら・・・これで、お前の頭を撫でてるみたいだ・・・・】

「テオっ・・・・」

【今は・・これで許してくれ・・・・。】


頭を撫でているように水晶玉を摩り、そして、手が離すと、揃いの指輪に口付け微笑んだ。

【愛してるよ。リリィ・・・・。何も心配いらないからな・・・・?

な・・・?俺はいつもお前と一緒だ・・・・。】



愛を囁いて・・・その仕草が色っぽくて、テオドールにまた心を奪われていく。


「テオ・・・帰ったら・・・すぐに・・・私の元へ来てくださいね・・・・。」

水晶玉越しの愛する人に・・・愛が溜まっていく・・・・。


離れていても、吸い寄せられるようにその心へと引きずり込まれる・・・・・。


【もちろんだ・・・。俺の帰る場所は、お前だよ。リリィ・・・・・。】


【・・・はい・・・っ・・・両手を広げて・・・待っています・・・・。】
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