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9年前の残像

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声を抑えられない程、泣いている父を抱きしめた。
いつも広くて大きな背中が震えている。



どんな時も子供にとって母は母だった。


それは息子につけた最大の傷だったか、懺悔だったのかは

その母にしか分からない‥


もうどんな言い訳も、言葉も交わせはしないのだから‥


「あなたがっ‥‥こんな事をしなければっ‥‥

ぅうっ‥‥‥あなたがっ‥‥幸せだったならっ‥‥‥


こんな風にあなたをっ‥‥」

「父上‥っ‥‥」


それは恨み言か、後悔か‥‥
分からずにただ泣いていた。


あの日決意した。すべてを裁くと‥

その首を断頭台で斬らずに済んだのは‥

母の愛だったのかも知れない‥

罪深い母だった‥‥。


「‥‥お祖母様は‥‥父上をっ‥‥想って‥‥

自ら罪を償ったのです‥‥‥っ‥‥‥。

父上っ‥‥‥父上を守ってくれましたっ‥‥‥

私も守りますからっ‥‥絶対‥‥あなたを支える人間に‥」

「うぅっ‥‥‥っ‥‥‥」



母の遺した紙には、最後に1つ‥
ひっそりと、息子へ‥‥

愛していると、言葉が遺された‥‥。




そこへ、皇后マーガレットと、リリィベルがきた。

すでにロスウェルによって綺麗にされた皇太后の姿がそこにある。

「‥‥‥」
マーガレットは、テオドールにその身体を預けるオリヴァーに涙を流して駆け寄った。


「‥‥‥‥‥‥」

リリィベルは、ただ、その場に立ち尽くした‥‥。

オリヴァーの泣き顔が‥‥‥胸に突き刺さった。





《‥‥‥‥ダメだっ‥‥待ってくれっ‥‥‥》


《やだっ‥‥‥‥やめてくれっ‥‥‥‥》


《待って‥ってっ‥‥‥離れたくないんだっ‥‥‥》


《ぅうあああっ‥‥‥待てって‥‥‥連れてかないでっ‥‥》



《________________!!!!!!》




ドクンと胸が鳴った。

その場にストン‥とリリィベルは膝をついた座り込んだ。



ダメよ‥‥‥

そんなに泣かないで‥‥‥‥


私はもう‥‥‥



リリィベルの目の前が真っ暗になった。

マーガレットにその身を委ねたオリヴァー。
テオドールは、涙を拭って座り込んだリリィベルを見た。

無言で近づき、リリィベルの前に膝をついた。
「リリィ‥‥ごめんな‥‥1人にして‥‥
お祖母様が‥‥‥自ら罪を‥‥」

「‥‥‥‥‥」
リリィベルと目が合わなかった。
「リリィ?」


泣かないで‥‥‥


もう、あなたに‥‥‥


黙ったまま、リリィベルの瞳から涙がこぼれた。

「っ‥リリィ?!リリィ!!」
テオドールはリリィベルを肩をゆすった。


リリィベルに、テオドールの声がしばらく届かなかった。



ただ、あの泣き顔に、悲しくて悲しくて


「リリィ!!!!」

一際大きな声が、リリィベルにやっと届いた。

「っ‥ぁ‥‥‥‥」
正気に戻って、やっと息が吸えた気がした。


「‥‥‥リリィ‥‥これ以上見なくていい‥‥
びっくりしただったろ‥‥‥?」
テオドールの目はまだ涙に濡れていて、
リリィベルはただその涙に手を伸ばした。


「テオ‥‥‥」
リリィベルは、縋るようにテオドールの胸に抱きついた。
「リリィ‥‥大丈夫だ‥‥大丈夫だよ‥‥」

テオドールはきつくリリィベルを抱きしめた。


「‥‥ごめんなさいっ‥‥‥」

「お前が謝る事はなにもない‥。
父上に変わって‥‥俺が始末をつける‥‥」

「‥‥‥‥‥‥」
リリィベルは何も言わなかった。


この巡り合わせが‥ダニエルから父と母を奪い‥‥

オリヴァーが、母を無くした‥‥。



リリィベルが誕生祭に来てから‥わずか半年に満たない間の出来事だった。



果たして、何が絡み合って‥こんな事になったのか‥

夏だったあの出会った夜から、秋に変わる今日この時まで、
様々な運命の悪戯が起きていた。




処罰が決定してから3日目の朝、

罪人達は、その断頭台の前にずらりと並んだ。

皇太子は、凛々しい皇族の衣装に身を包み断頭台に立つと
その口を開いた。

「イシニス王国と通じたオリバンダー侯爵家、
また、毒を用意したヘイドン侯爵家、そして、すべてに関わった皇太后の生家、ブリントン公爵家、

帝国を奇襲し、帝国民に不安と被害をもたらそうとした
イシニス王国、ライディン王太子、並びにレベッカ王女。

我が婚約者、リリィベル・ブラックウォールに暗殺者を送りつけた、三家以外の貴族らすべて。

それらの罪を裁く時がきた!!


また‥すべてに加担した皇太后、セシリア・アレキサンドライトは、監禁中その罪を認めすでにその命を天に返した。

9年前、当時皇后だったセシリア・アレキサンドライトは、
側室エレナ・アンファードに自分への毒殺未遂の罪を被せた。また我が婚約者であるリリィベル・ブラックウォールの祖父母、アドルフ、グレースを殺害した罪も明かされた。

毒についてはブリントン公爵家とヘイドン侯爵家が用意し、
セシリアを診察した医師や、数名の使用人が命を落としている。

オリバンダー侯爵家は、親子3人とも卑しくも私の婚約者を狙い、多額の報酬で暗殺者への依頼をする為、イシニスに帝国の情報を売った罪。そしてイシニスと繋がりカドマンに奇襲を嗾けた罪。また、別邸に女性を監禁し強姦した罪。


これらのすべての罪で、何人もの命が無念に死を遂げた。

私は皇帝陛下に代わり、これらの罪を裁く。
この場にてこの者達を死罪とする。

国民達よ!!!!
我が帝国アレキサンドライトは、


いかなる罪も許さない!!これから先も!
悪を滅する私達を信じ、この罪の末路を見届けよ!!!」


皇太子の言葉に、身勝手な貴族らへ帝国民達を激しい怒りの声が響き渡る。


テオドールは、左手を騎士たちに向けかざした。


「始めろ!!!」

真剣で頼もしい正義を貫くその姿は、若き日のオリヴァー皇太子がそこに立っている様だと、国民達は口にした。
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