ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

真田音夢李

文字の大きさ
147 / 240

月の囁き

しおりを挟む
 
 テオドールの髪が乾ききった頃、テオドールはリリィベルの隣に横たわり、彼女の額の髪を整えるように撫でた。

 今はもうすっかり良くなっているはずだが、よく眠っている。本当に疲れていたのだろう。

 帰って来てからのグレンとの再会、ティータイム、気の張り詰めた食事。

 俺の嫉妬。涙。結婚式の相談。早送りになる教育。

 俺とグレンとの決闘。



 休まるはずがない‥‥。

「‥‥‥ごめんな‥‥‥。」
 リリィベルの身体を抱き寄せて、テオドールは瞳を閉じた。



 お前には謝る事ばかりだ‥‥。


 どんな事からも守ってやりたいと思っても、内から蝕まれる病には普通だったら守れない。最低でも1週間は症状に苦しむ事だろう。


 3週間にも及ぶ視察を経て、色々あった。

 もっと休ませてあげれば良かった。


 結婚式が早まったからなんて、浮かれている場合ではない。


 だが、これは2人が決めた事。



 浮かれないはずがない‥‥。


 今はもう正常な体に戻ったけれど、病を引き起こさせてしまった。


 そう言えば、食事量も少なかったな‥。
 毎日朝夕と食事を共にしてるのに、もっと早く気付いてやれば‥‥。そんな日が続けば体調を崩すに決まってる‥。


「明日は‥‥元気だよな‥?」

 目を覚さないから不安になる。けれど安らかで控えめな寝息が安心をくれる。


 リリィベルの頭は軽くて、腕に乗せても苦にならない。

 だからいつも抱き締めて眠ることが出来る。


 そんな当たり前に、慣れてはいけない‥‥。


 俺達はまだ、夢の途中だ‥‥‥。


「‥‥アイツ‥‥何にを言いにきたんだ‥。」

 グレンだ。昨日俺に負けて少しは大人しくなるかと思えば、
 のこのことリリィベルの前に姿を現した。


 想いを‥打ち明けに‥‥?


 負けを晒して、リリィの同情を引こうと思ったか?


 いや、そこまでするような男には見えない。


 イーノクが、付き添いを申し出たそうだし‥‥。


 試合の後の事は聞いてない。



「‥‥‥‥」
 テオドールは閉じた瞳を薄く開き眉を吊り上げた。


 何度後悔しても、むしゃくしゃする思いはどうにもならない。

 あいつの気などわかっている。


 けど‥‥


 リリィは、俺が一緒にいないとダメだと‥言いたかったようだ。



「いつも、そうやって‥俺がいるからって‥言ってくれるんだな‥‥。」

 愛しくてリリィベルをもっと強く抱き締めた。


 礼蘭が、俺と付き合う前に男達からの告白を断っていた事を知った時と同じ気分だ。



 俺を中心にいつも、俺ばかりを見ていてくれた。

 だからどんな時も、全力でお前を愛した‥。

 愛さずにはいられなかった。



 リリィベルの耳元で囁いた。




「むかし‥‥‥日本という国で‥‥‥


 ある男の子と女の子が生まれた‥‥‥。」


 その言葉を口にした途端、涙がこぼれた。


「誕生日も‥‥近くて‥‥

 2人がこの世に生まれたのは‥‥春だった‥‥。」



 グスッと鼻を啜った。リリィベルの頭を抱えて

 瞳に溜まる涙を、堪えたけど、瞬きしたら簡単にこぼれ落ちる情けない涙だった。


「女の子は‥‥‥綺麗な黒髪で‥‥‥っ‥‥‥

 とても‥‥綺麗だった‥ ‥‥。


 男の子は女の子を守れるように‥‥強くなろうとを誓いました‥‥



 15歳で‥‥2人は恋人同士になって‥‥


 それから‥‥いつも‥‥愛を伝え合いました。


 誰も入ってこられない程、2人はお互いがすべてでした。」


 戻ってきた記憶を繋ぎ合わせたら、たくさんの思い出が、
 テオドールの頭の中を駆け巡った。
 大切なすべてが、リリィベルへの愛を思い知るように心臓がドクドクと高鳴っていた。

「大人になった男の子は言いました。俺の‥‥お嫁さんに‥‥なって、

 永遠に‥‥共に‥‥生きようと‥‥‥。」


「女の子は‥‥涙を流して‥‥頷いてくれました‥‥‥。」


「愛してる。と‥‥‥2人は永遠の愛を‥‥誓いました。」



 物語のラストは、ここまでだった‥‥‥。
 流れた涙が枕とリリィベルの髪を少し濡らした。



 2人は末長く‥‥幸せに暮らしました‥‥。


 そう言えたら‥‥‥‥良かった‥‥‥。


 物語の結末に、幸せな男の子と女の子は‥居ない‥‥‥。



「‥‥‥‥‥」

 この世の女の子の夢の向こうで、低くて心地がいい‥‥
 けれど‥泣いているような声が微かに聞こえた。

 暗闇に、一点の光を灯す月が、女の子を照らしていました。

 それはそれは、見た事がないくらい、温かくて大きな満月でした。


 頬を寄せるともっと温かくて、暗闇が怖くなくなりました。

 月に身体を預ければ、ふわりと埋もれる事が出来て、
 とても心地が良い温度で包んでくれました。


 幸せな気持ちになりました。
 もう、大丈夫だと思えるくらい‥‥。

 この満月と一緒なら、暗闇も怖くない。


 そう思うと、満月の周りで星達がキラキラと輝き始めました。

 あぁ、なんだ。


 こんなに明るかったのね。


 ずっと暗闇だったはずなのに、満月の温かさに、星達まで安心して輝いている。


 


 男の子と女の子は身を寄せ合って、温もり感じながら‥
二人で夜を超えたのでした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...