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㉜嫉妬からピンチ

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「シンラ、どうしたんだ?」

俺の涙を見てグレンが心配そうに覗き込む。

「グレン・・・っ、起こしちゃったね、ごめん。」

「そんな事はどうでもいい、何かあったのか?」

グレンが俺を掴んだ手を引き寄せてもう片方の手で俺の涙を拭ってくれる。

「・・・何もない。」

「何も無いわけないだろ、何故泣いていた?」

そんな事、言えるわけない。
もう居ない人に嫉妬してるなんて、グレンが聞いたらきっと幻滅する。

「本当に、何でもない。離して。」

俺はグレンの顔が見れずにそっぽを向いたまま手を離してとお願いする。

「シンラ・・・」

離してとお願いしたのにグレンは俺を引き寄せて抱きしめた。

「っ・・・」

グレンの腕の中、居心地のいい場所。
なのに、今は心が痛い。グレンの心の中にはひなさんが居る。
俺に優しくするのは、俺が癒しの存在だから。ただそれだけ。そう考えると、自然とまた涙が溢れる。

「グレン・・・お願いだから、離して。」

「泣いてるシンラを離すなんて出来ない。」

「グレン、俺にそんな優しくしないで!」

勘違いしちゃうじゃん。

「何故だ?シンラに優しくしたいと思うのはダメなのか?」

「・・・俺に優しくするのは、俺がグレンの癒しの存在だからだよね。」

俺の事は好きじゃないのに、癒しの存在だからキスしたり、抱いたりしたいんだ。

「何言ってるんだ?」

グレンは俺がなにを言いたいのか分からない風に俺の顔を見つめる。

「・・・俺、グレンの事好きだよ。・・・愛してる。」

自分で言ってから恥ずかしくなって赤面するのを隠すため、下を向いた。
そんな俺の顔をグレンが顎を持ち上げて目線を合わせようとする。

恥ずかしいから見ないで欲しい。
目をそらす俺をじっと見つめるグレン。

「グレンは・・・俺の事愛してないでしょ?」

「愛してる。」

嘘だ。グレンの心の中にはひなさんが居る。
ずっと食欲無かったのも、ひなさんが居なくなったショックから立ち直れていなかったからだ。
俺にこんなこと言うのは俺を抱くためだ。
そうしないと、グレンが自我を失ってしまうから。

「・・・そんな嘘付かなくてもいいよ。キスならするから・・・」

俺は目をそらしながら素っ気なく話す。
全然気にしてないふうに話したかったのに、自分の言葉に心が反応して目から涙が流れる。

本当は、本当に愛されてキスしたい。
愛されていないのならしない方がマシだ。
でも、グレンには俺の笑顔やキスが必要だからしょうがない。
俺は神様にその存在としてこの世に使わされたのだから・・・

「さっきから本当にどうしたんだ?俺がシンラを愛してない?そんな訳ないだろう。」

グレンが戸惑ったように俺を見る。
グレン困ってる。

でも、もう居ない人に嫉妬してるなんて絶対言えない。

「・・・ギル・・・」

俺がグレンの事をギルって呼ぶと、グレンが少し固まる。

「・・・俺の事、ギルって呼びたいか?」

グレンは優しく俺に問いかけてくる。

俺はふるふると首を振って是定を表す。

「俺はグレンがいい。グレンに愛されたい。でも、グレンはギルとして愛した人の事が好きなんでしょ?」

俺がそう言った途端、グレンは俺を強く抱き締めた。

「グレン、苦しいよ。」

「俺はシンラの事を愛してる。」

「うん・・・」

まぁ、二番目でもいいか・・・

「信じていないだろう。」

「だって、俺のどこに惹かれたの?俺・・・男みたいだし・・・」

そうだ、俺なんかのどこに惹かれたんだろう?それこそ嘘なんじゃないの?

「シンラの元気なところも、繊細ですぐ泣くところも、人に気を使うところも、優しいところも、毎日のプレゼントにちゃんとありがとうと言って答えてくれるところも全部好きだ。」

グレンは俺の質問に戸惑うことなく、スラスラと答える。

「・・・本当に?」

「嘘をついてどうなる?」

そう言って、俺を抱き上げて歩き始める。

「グ、グレンっ、どこ行くの?」

「ベッド」

「え?ち、ちょっと待って!俺そんなつもりで来てない!」

てか、なんでそんな展開になるの??

「シンラが俺の事信じないから俺がどれだけシンラの事を愛してるか、身体で教えてやる。」

グレン、怒ってるの?怖い!

「ヤダ!やめて!」

グレンの腕の中で暴れてもビクともしない。

「シンラに愛してるって言われて燃えた。今日は許してやらない。」

ええぇー?!ちょっと待って!グレン!







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