54 / 71
54話 昔話(レオンハルト)
しおりを挟む俺はレオンハルト・アイスバーグ、この国の第2王子として生まれた。
俺は母の出自が低いので、第2王子という立場でありながら生まれて直ぐに王位継承権から外された。
別に俺は王位なんて望んでいないからそれは大した問題ではない。
幼い頃は母の体調が思わしくなかったこともあって、俺は母の実家で育てられた。それは俺が王子として論じられていた結果なのだが、今となっては下町で育った事を誇りに思う。
上流階級の世界だけでなく、民が暮らす世界も知る事ができたんだ。それが俺の中では大きな根幹となっている。
論じられているとはいえ、一応第2王子だ。命を狙われる事も少なくない。俺を不憫に思った祖父は、俺を剣士として育ててくれた。強い先生も雇ってくれて、俺を強くしてくれた。
その先生の息子が今俺に付いてくれているライルなのだが、俺より5歳年上のライルは剣士の父から剣の腕を受継いだだけでなく、何故か隠密にするべく育てられたようで、時に隠密として活躍してくれる優秀な部下だ。
そんな俺も9歳の時に王宮に呼び戻され、王族としての教育を受けることになった。
今俺がやっている外交に適任だと思われたらしい。
何も役に立たないと思われるよりましなので喜んでこの役を引き受けたんだが、城に帰って一番に思ったのは、俺は王妃から嫌われている。
まぁ、王位継承権から外すよう言ったのは王妃らしいし、自分の息子の王位継承権を脅かす存在を嫌悪するのもわかる。
俺は何を言われても王位に興味は無いので気にはならない。けど、我慢ならないのが、俺が砕けた言葉遣いをする度に、何か失態をする度に、母の身分が低いから仕方ない等と母を侮辱することだった。
俺は自分の事で何か言われるのは全然構わないが、俺を産んでくれ、肩身の狭い中でも俺を守ってくれていた母の事を悪く言われるのは我慢ならない。
だから社交界では良い王子でいるよう心掛けた。俺が隙を見せれば母が悪く言われる。それだけは避けたかったんだ。
城に戻ってからも、俺はたまに祖父の元に行っていた。それは剣の先生の元へ行くという口実もつけてなんだが、城から抜け出せる時間は俺が自分に戻れる唯一の時間だった。
そして俺が12歳の時、街の図書館で変わった少女に出会った。
少女は10歳にもならない年恰好なのに、大人が読むような難しい書籍を読んでいた。
本当に読んでいるのか気になってしばらく観察していたけど、しっかりと目を通して、時には考え、時には微笑みながら読み進めていく姿に、俺は見とれてしまっていた。
しばらくして俺の落とす影に気が付いて顔を上げた少女は、とても可愛い容姿をしていた。金色の柔らかそうな髪に大きなアメジスト色の瞳は、不思議そうに俺の姿を映していた。
「何か? 」
「君、その本が読めるの? 」
突然聞かれて、焦ってしょうもない質問をしてしまったけど、少女はしばらく俺を眺めた後、ふわりと微笑んだ。
「ええ、読めるわ 」
「本、好きなのか? 」
「大好きよ、あなた名前は? 私はエリシア」
突然名前を聞かれて焦った俺は、剣の先生が呼んでた愛称を答えた。
「俺? ・・・ハルト 」
「ハルト? いい名前ね 」
俺の名前を聞いて、エリシアは懐かしそうな表情を一瞬見せたように見えたけど、一瞬だったので気の所為かもしれない。
俺とエリシアはそれから何度か図書館で会って(と言うか俺が会いに行った)仲良くなった。
「エリシアはどんな本が好きなんだ? いつも色んなものを見てる気がするけど 」
「私はとりあえず何でも読んでみたいの、知識として読むのは好きよ、でも本当に私が読みたいものってこの世界にはないのよね・・・ 」
「この世界? 」
「あ、いえ、世界を探しても見つけられない気がして・・・ 」
たまにエリシアは不思議なことを言う。
自分が読みたいものがこの世にないのに、どんなものを読みたいか知っている。
「ふーん・・・なら自分で書いてみればいいんじゃないか? 」
そんな事を言った。
それからしばらく、俺の警護が固くなってしまったため、あの図書館には行けなくなってしまったんだけど、あの娘と話してる時に衝撃を受けた言葉がいくつかあった。
『 何故女性に活躍の場がないのかしら 』
『 男のハルトに言っても仕方ないけど、女性が男性の下に見られるのはおかしいわ、女性も男性も、身分の上下も関係なく、人はみんな平等に権利を与えられるべきよ 』
『 身分をかさに着てる人は嫌い、自分は誰のおかげで裕福な暮らしができていると思っているの? 領地の人々のおかげなのよ、それを忘れたら貴族はただの間抜けなピエロね 』
等、本当に少女の口から出ているのか不思議に思うくらい衝撃的な意見が沢山出てきた。
俺は母の事があるから素直にエリシアの言葉が受け入れられた。
確かに、何故女性が前に出る事を許されないんだ?
何故身分で苦しめられる人が居るんだ?
俺の中でエリシアの言葉が大きくなって、俺が女性の立場改善のために何か出来ることは無いか? そんな事を思うようになっていた。
そして、俺も年頃になって縁談の話が持ち上がった時、エリシアが頭に浮かんだ。
賢くてものをはっきり言うけど、間違ったことは言わない。変に大人びているのに、正直で素直で、時折見せる屈託のない笑顔は今でも覚えている。結婚するならエリシアが良い。だけど彼女は子爵令嬢だ。
俺は王位を継がないけど、やはり身分で嫌な思いをさせることになるだろう。
母のような思いをさせるのは嫌だ。そう思った俺は策を練ることにした。
彼女を誰からも認めさせればいい。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
湊一桜
恋愛
王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。
森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。
オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。
行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。
そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。
※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる