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55話 訪問者(レオンハルト)
しおりを挟むエリシアの兄のジルフレアに強力を願い出て、久しぶりに会った彼女は俺の事を覚えていなかった。
本名を明かしていなかったのは俺だし、黒髪は王族特有なので、街へ出る時は違う色のウイッグを被っていたので気が付かないのも無理はない。
オマケに、彼女は俺に全く興味を示さない。それ所か俺を避けるような行動を取る。
今まで女性は俺が微笑みかけると皆顔を赤らめて恥ずかしそうにするものだと思っていたけど、エリシアの反応は違った。
それが新鮮で、面白くて、そんな彼女をますます好きになった。
好かれてないなら好かれる行動を取るべきなんだろうけど、彼女を見ているとついからかいたくなってしまって、俺も好きでない素振りを見せてしまい、本当の気持はまだ伝えていない。
俺が昔あげた本を今でも大事にしてくれていることが分かって、宝物だと言ってくれただけで今はいい。
(あの時のハルトが俺だと知った時の反応も今から楽しみだ)
だけど、俺の勝手な我儘のせいで危険なことに巻き込んでしまったのは本当に申し訳ない。
先日も夜中にジルが俺の所に駆け込んで来てエリシアが攫われたと聞いた時は心臓が止まるかと思った。
無事でいてくれて、間に合って本当に良かった。そのおかげで、以前から狙われていたエリシアを城に匿う決断ができた訳だけど、エリシアを俺の勝手な行動に振り回しているのは本当は申し訳ないと思っている。
彼女が望んだ訳でもないのに、密やかに暮らしたいと願ってい彼女を勝手に表舞台に引っ張り出したんだ。
それなりの責任は感じている。本当に嫌われているのなら、俺は今後も陰ながら彼女を支え、何れ誰かの元に嫁ぐ時も笑って見守っていてやるつもりだ。
エリシアが城に来てから2日目、今日は偶然出会った母上の所でのんびりくつろいでいたのに、突然の来訪者をライルが告げに来た。
「今どこにいる? 」
「西の応接室にてお待ちです 」
「わかった、直ぐに行く 」
俺はエリシアを置いて母の部屋を出ると、直ぐに応接室に向かった。
「おぅ、レオンハルト、ディアルドぶりだな 」
部屋に入るなり明るい声で話しかけてきたのはクシャナ帝国のジャスタ皇子だ。
クシャナ帝国は我が国と同等の国土を持つ豊かな国だ。
そしてジャスタは時期皇帝、そんな奴がなぜ突然前触れもなく俺の元にやってきたのか、
「ディアルド以来なので5ヶ月ぶりですね、今日は遠路はるばるどのようなご要件で? 」
クシャナの都からは馬を走らせても10日はかかる距離、簡単に来れるものでは無い。
それを尋ねてくるという事は大事な要件があるのか、ジャスタの気まぐれか・・・
「うん、実はレオンハルトに確かめたいことがあってな、今日は砕けた話し方をしてくれないのか? 俺はあっちの方が友達みたいで嬉しいんだが・・・今は誰も居ないぞ? 」
ジャスタは先見の眼を持っているらしく、俺のことも直ぐに見抜かれた。
この力で第4皇子でありながら時期皇帝の座も勝ち取ったらしいから本物だろう。
「・・・・・・お前には隠してもしょうがないか 」
俺は素直に諦めることにした。
今は他に誰もいないし、ジャスタは意外とそういう所は察してくれるやつだ。
「ああ、その方がいい 」
俺が素に戻ると、ジャスタは顔を崩して嬉しそうに笑った。
「で? こんな所まで何の用だ?」
「ああ、お前がなんか企んでるみたいだから直接問いただしに来た、あと警告もな 」
「警告? 」
「ああ、レオンハルトの事だから気付いてはいるだろうが、あの国が動き出してるぞ 」
ジャスタはやはり凄いな、どんな情報網を持っているのか気になる。
「ああ、俺が今やってる事を聞きつけたら何れ動くだろうとは思ってたけどな、意外と早かったな 」
あの国と言うのは我が国の北に位置するラグマドルの事だ。
ラグマドルは我が国の豊かな領土を狙ってる為、北に対しては常に牽制を行っている。
そして、ディアルドの資源も狙っている為、ディアルドとは共闘してる訳なんだが、鉄道を開発中の話を何処かで聞きつけたんだろう。
我が国とディアルドの間で鉄道が出来てしまえばラグマドルは両国を手に入れる事が困難になってしまう。
完成するまでに何か動くだろうとは思っていた。
だけど、それをジャスタが知っているとは、流石と言うしかない。
「何か面白い事をやってるらしいな、しかも発案者はエリシアだとか 」
「そこまで知ってるのかよ 」
「聞いた時は耳を疑ったけどな 」
苦笑いをしながらも、エリシアが先陣を切っていることへの嫌悪感は感じられない。
クシャナ帝国は元々女性に対しても寛容な国だからすんなり受け入れられたのかもしれない。
「エリシアには何か特別なものを感じてはいたけど、素晴らしい才があったとはな、レオンハルトもそれで手元に置いてるのか? 」
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