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いつもきちんと準備に参加しているから、先輩方からの信頼を得て、今日は早く帰っていいよと許可を貰い、僕は生徒会室を後にした。
自転車に乗って、僕は梓紗の家に向かった。
二学期に入ってからは、ほぼ毎日一緒に下校していたので場所はもう分かっている。
毎日一緒だっただけに、こうして梓紗が傍にいない事が、素直に淋しいと思う。
明日はいつも通り元気に登校してくれるだろうか。
自転車を漕ぐ足に自然と力が入り、あっという間に梓紗の家の前に到着した。
僕は自転車を邪魔にならない場所に停めると、鞄の中から今日の授業のノートと学校からの配布文書を取り出して、玄関のインターフォンのボタンを押した。
中から出て来たのは、あの日玄関で顔を合わせたお母さんだった。
「白石くんね、梓紗の彼氏の。どうぞ、上がって」
梓紗によく似たにこやかな笑顔で出迎えられて、断れるはずもなく僕は梓紗の家にお邪魔させて貰う事となった。
「びっくりさせてごめんなさいね。梓紗も夏バテが今頃出るなんて、本人が一番びっくりよね。あれから薬も飲ませて熱も下がったから、ここで座って待ってて。梓紗呼んでくるわね」
そう言って僕は瀬戸家のリビングに通された。
梓紗には三歳年上のお姉さんがおり、今は他県の大学に通っているため県外に住んでいると言う。
リビングには家族写真が沢山飾られている。家族みんなが仲良しの証拠だろう。小さい頃の梓紗とお姉さんらしき女の子の写真も飾られてあった。
写真に写る梓紗はどれも髪の毛が長く、今の梓紗からは想像もつかない位に美少女だった。
決して今の梓紗が可愛くないと言う事ではなく、髪の長い梓紗はその長い髪も綺麗に手入れされており、きっと今以上にモテモテだったんだと痛感させられる。それほどまでに人の目を惹く容姿だった。
何故梓紗は僕の事が好きになってくれたのだろう。
素朴な疑問が湧き上がる。
ここまでの美少女だ、その気になれば僕以上に格好良くて優しい男が言い寄って来ていてもおかしくない。それなのに、僕にどんな魅力を感じてくれたのだろう。それが不思議で堪らない。
しばらくして、廊下から二つの足音が近付いてきた。恐らく梓紗と梓紗のお母さんの物だ。
カチャっと、リビングのドアが開く音が聞こえ、音に反応して振り向いた僕は梓紗の姿を確認した。
ゆったりとしたワンピースは部屋着だろうか、その上にカーディガンを羽織り、暑いのに家の中でも靴下を履いている。それでも身体の締め付けのない楽そうな格好をしているので部屋で寛いでいたのだろう。
「遼、わざわざありがとう」
梓紗は嬉しそうに微笑んだ。
梓紗のお母さんは、お茶を淹れる為にキッチンへと向かった。僕達はその後ろ姿を見送りながらもリビングのソファーに腰を下ろした。
「熱はどう?」
見た目は元気そうだけど、騙されてはいけない。梓紗は体調が悪いのを隠す悪い癖があると言う事を知ったので、僕は注意深く梓紗の表情を覗き込んだ。
「うん、帰ってから解熱剤飲んだから、熱は下がったよ。身体の怠さも昨日ほどではないかな」
昨日はよっぽど体調が悪かったのだろう。今の『昨日ほどではない』と言う言葉も気になったけど、梓紗の我慢する癖は止めさせなければ。下手したらまた教室で倒れた時の様になるのではないかと心配になる。
「昨日ほどではないってことは、まだしんどいんじゃないの?」
正面切って突っ込んでみた。梓紗はしまったと言う表情を見せるかと思ったけれど、照れ笑いを浮かべている。
これからは体調不良を隠さずに素直に伝えてくれる気になったのだろうか。
「えっとね、倦怠感は、アレなの。女の子特有の……」
そこまで言って赤面する梓紗を見て、ようやく思い当たることがあった。
女の子の身体の事はよく分からないけれど、生理痛が重い子、軽い子と色々あると言うのは雑学の知識の中で情報を仕入れていただけに、そんな事を言わせてしまった僕は激しく後悔した。
「あ……、ごめん。察してあげられなかった」
「ううん、遼には分からない辛さだからいいの。こっちこそ余計な心配をかけちゃってごめんね」
梓紗はちょっとしんどそうにソファーの背もたれに身体を預けた。
女の子の身体の事情はよく分からないけど、何だか色々と大変そうだ。
「せっかく白石くんが家に来てくれたのにお構いも出来なくてごめんなさいね」
梓紗のお母さんはそう言って、温かい紅茶を淹れてくれた。
粉を解かして飲むタイプの紅茶だから砂糖も既に入っていると言う。僕は遠慮なくそれに口を付けた。
僕が紅茶に口を付けたのを見て、梓紗も自分のマグカップに口を付けた。
「梓紗も今日はちょっと無理しちゃったみたいで、白石くんに心配かけてごめんなさいね。
でも、こんないい子が彼氏だなんて、梓紗も見る目あるじゃない」
梓紗のお母さんは僕の何を見ていい子と言ったのかは分からないけれど、とりあえず愛想笑いは浮かべておいた。
梓紗は満更でもない表情を浮かべている。
「あ、これ、今日の授業のノートと配布プリント……」
自転車に乗って、僕は梓紗の家に向かった。
二学期に入ってからは、ほぼ毎日一緒に下校していたので場所はもう分かっている。
毎日一緒だっただけに、こうして梓紗が傍にいない事が、素直に淋しいと思う。
明日はいつも通り元気に登校してくれるだろうか。
自転車を漕ぐ足に自然と力が入り、あっという間に梓紗の家の前に到着した。
僕は自転車を邪魔にならない場所に停めると、鞄の中から今日の授業のノートと学校からの配布文書を取り出して、玄関のインターフォンのボタンを押した。
中から出て来たのは、あの日玄関で顔を合わせたお母さんだった。
「白石くんね、梓紗の彼氏の。どうぞ、上がって」
梓紗によく似たにこやかな笑顔で出迎えられて、断れるはずもなく僕は梓紗の家にお邪魔させて貰う事となった。
「びっくりさせてごめんなさいね。梓紗も夏バテが今頃出るなんて、本人が一番びっくりよね。あれから薬も飲ませて熱も下がったから、ここで座って待ってて。梓紗呼んでくるわね」
そう言って僕は瀬戸家のリビングに通された。
梓紗には三歳年上のお姉さんがおり、今は他県の大学に通っているため県外に住んでいると言う。
リビングには家族写真が沢山飾られている。家族みんなが仲良しの証拠だろう。小さい頃の梓紗とお姉さんらしき女の子の写真も飾られてあった。
写真に写る梓紗はどれも髪の毛が長く、今の梓紗からは想像もつかない位に美少女だった。
決して今の梓紗が可愛くないと言う事ではなく、髪の長い梓紗はその長い髪も綺麗に手入れされており、きっと今以上にモテモテだったんだと痛感させられる。それほどまでに人の目を惹く容姿だった。
何故梓紗は僕の事が好きになってくれたのだろう。
素朴な疑問が湧き上がる。
ここまでの美少女だ、その気になれば僕以上に格好良くて優しい男が言い寄って来ていてもおかしくない。それなのに、僕にどんな魅力を感じてくれたのだろう。それが不思議で堪らない。
しばらくして、廊下から二つの足音が近付いてきた。恐らく梓紗と梓紗のお母さんの物だ。
カチャっと、リビングのドアが開く音が聞こえ、音に反応して振り向いた僕は梓紗の姿を確認した。
ゆったりとしたワンピースは部屋着だろうか、その上にカーディガンを羽織り、暑いのに家の中でも靴下を履いている。それでも身体の締め付けのない楽そうな格好をしているので部屋で寛いでいたのだろう。
「遼、わざわざありがとう」
梓紗は嬉しそうに微笑んだ。
梓紗のお母さんは、お茶を淹れる為にキッチンへと向かった。僕達はその後ろ姿を見送りながらもリビングのソファーに腰を下ろした。
「熱はどう?」
見た目は元気そうだけど、騙されてはいけない。梓紗は体調が悪いのを隠す悪い癖があると言う事を知ったので、僕は注意深く梓紗の表情を覗き込んだ。
「うん、帰ってから解熱剤飲んだから、熱は下がったよ。身体の怠さも昨日ほどではないかな」
昨日はよっぽど体調が悪かったのだろう。今の『昨日ほどではない』と言う言葉も気になったけど、梓紗の我慢する癖は止めさせなければ。下手したらまた教室で倒れた時の様になるのではないかと心配になる。
「昨日ほどではないってことは、まだしんどいんじゃないの?」
正面切って突っ込んでみた。梓紗はしまったと言う表情を見せるかと思ったけれど、照れ笑いを浮かべている。
これからは体調不良を隠さずに素直に伝えてくれる気になったのだろうか。
「えっとね、倦怠感は、アレなの。女の子特有の……」
そこまで言って赤面する梓紗を見て、ようやく思い当たることがあった。
女の子の身体の事はよく分からないけれど、生理痛が重い子、軽い子と色々あると言うのは雑学の知識の中で情報を仕入れていただけに、そんな事を言わせてしまった僕は激しく後悔した。
「あ……、ごめん。察してあげられなかった」
「ううん、遼には分からない辛さだからいいの。こっちこそ余計な心配をかけちゃってごめんね」
梓紗はちょっとしんどそうにソファーの背もたれに身体を預けた。
女の子の身体の事情はよく分からないけど、何だか色々と大変そうだ。
「せっかく白石くんが家に来てくれたのにお構いも出来なくてごめんなさいね」
梓紗のお母さんはそう言って、温かい紅茶を淹れてくれた。
粉を解かして飲むタイプの紅茶だから砂糖も既に入っていると言う。僕は遠慮なくそれに口を付けた。
僕が紅茶に口を付けたのを見て、梓紗も自分のマグカップに口を付けた。
「梓紗も今日はちょっと無理しちゃったみたいで、白石くんに心配かけてごめんなさいね。
でも、こんないい子が彼氏だなんて、梓紗も見る目あるじゃない」
梓紗のお母さんは僕の何を見ていい子と言ったのかは分からないけれど、とりあえず愛想笑いは浮かべておいた。
梓紗は満更でもない表情を浮かべている。
「あ、これ、今日の授業のノートと配布プリント……」
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