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心から愛を込めて
第五話
しおりを挟む「あ~サトシ先輩?俺です。俺オレ。」
「携帯に登録なかったら俺オレ詐欺だな。久しぶりじゃないかヨッシー」
「そのあだ名まだ続きます?もう流行ってないんで、せめてヨシノリって普通に呼んでもらえませんか?木原って苗字(みょうじ)もあるんですけど…」
ため息混じりに冗談で返すとスピーカーからは笑い声が聞こえる。さすがグリークラブ出身。
低音のいい声~ですわ。
俺だって普段は普通の男にしか聞こえない声なのに、歌う時の声はやたらと女子っぽい。
地声で歌って男らしさは出るが、本当にちゃんと歌おうとするとダメだ。
裏声なんかまるで女子。
なので、高校を卒業してからは裏声では一切歌わなくなった。
地声は幅が狭くて簡単な歌しか無理だが、本当の音域が高くて女みたいと言われるよりマシだ。何よりも、高校を卒業した時に先生を諦めるために封印した。
甘い想い出が多すぎる。
2人っきりの。
ダメだ。また思考がピンクになる。
「サトシ先輩。俺、昨日こっちに帰ってきたんですよ。仕事もこっちでもう決まってて。ケイ先輩とも会いたいですし、都合つく日があれば飲みに行きませんか?」
ここは敢(あ)えて本命を避けての飲み会だ。
まだ無理だ。
心の準備もあるし。
まずは情報収集だ。
「え?こっち帰って来たって、東京から嫁さんと?」
「あ、え~っと、あの、離婚…しました。」
「マジか!なんで?ちっこくて可愛い子だったよな!?」
「はは…まあ、色々ありまして…」
罪悪感で地味にブロー入ってきます先輩。
「いや、まあ、色々無かったら離婚なんてしないだろうけど…。」
暗くなっていく声音に慌ててフォローして、何とか飲み会への話へと持ち込む。
いや、何て言うか、慰めて貰える俺じゃないんで。心配かけるのは申し訳ない気持ちでいっぱいです。元はと言えば俺の初恋が原因なんで。
離婚されてようやく踏ん切りが着く情けない男なんで。
もう、慰めの言葉が心を余計に抉られるんで。
罪悪感はあるのに離婚した事にスッキリしてる俺は本当に最低な男なんです。
何とか先輩の追求を振り切って電話を切る。
一緒に暮らした10年を振り返っても、先生の時のように好きにはなれなくて、いつも不安と葛藤ばかりで、義務みたいに抱いて、でも決定的になる子供は避けて…。
好きになりたい。
彼女を好きになれたらいいのにって。
そんな俺がそんな気持ちで結婚なんてするから失敗するんだ。好き同士で結婚したところでも離婚するぐらいなんだ。
元々が無理だったんだ。彼女の努力で成り立っていただけで…。
いや、ダメだ。
いくら1番好きな人の所にって思って離婚したって、彼女の10年は重い。落ち込んでいく気持ちにそれこそダメだと自分を叱咤して、前を向く。
お互い前を向く為に離婚したんだ。
1番の人と幸せにって。
彼女はもう1番の人に受け入れられてるんだから、それでいいんだ。俺が彼女の心配をするなんて烏滸がましい。
1番好きな人…。
先生に会いたいな。
ずっと好きなんだ。
諦めるって自分で切り捨てた筈なのに、まだ好きで。
好きで好きで。
もう、他の誰も好きになれないんだ。
ねえ、先生。
今度はちゃんと俺を振ってよ?
離婚したばかりなのに、ずっと貴方のことを想って切ないままだ。
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