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邪神の出現
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鈴木・田中・山本美代の3人は邪神との対決前に、それぞれ一旦自宅へ戻り、私服に着替えて再び集まった。
「クトゥルフと戦う時、制服が汚れると困るからな」
「スミを掛けられちゃうかもしれないし」
「鈴木くん、美代ちゃん……クトゥルフは邪神であって、タコとは違うんじゃ……」
「外宇宙からやって来たタコ型異星人……じゃ無くて異星神なんだから、似たようなモノよ」
田中は鈴木と美代を、クトゥルフが居た店へと案内した。
「ココだよ」
「この場所は空き地だと思っていたのに、いつの間にかお店が出来ていたのね」
「それにしても、ヒンソ~な店構えだな。本当に食堂なのか? 営業してるのか?」
「お寿司屋さんであることは、間違いないよ。見て」
田中が、建物の上部に掲げられた看板を指す。
「……『くとぅるふ開店寿司・深層回転』って書いてあるわね」
「〝開店〟と〝回転〟……単語を取り違えるとは、クトゥルフは頭が悪いみたいだな。所詮は、タコか」
「それに、僕、最初来たときは気付かなかったけど、〝深層〟は〝新装〟の誤字だよね」
「そうとも言えないわ」
「どうして? 美代ちゃん」
「あのね、田中くん。〝インスマス〟というのは、正確には半漁人たちが住む港町の名前なの。あくまで通称であって、クトゥルフの眷属の正式名称は〝深きもの〟、種族名は〝Deep ones――深きものども〟と言うのよ」
「〝深きもの〟……だから〝深層〟なんだね。この張り紙のココ、『開店特価』であるはずの文字が『回転特化』になっているのも、〝回転寿司によって、特別な化け物にしてやる〟との意図が込められて……」
「単に誤字ってるだけだろ」
鈴木が身も蓋もないことを言う。
「油断しちゃダメよ。張り紙に書かれている文字の続き……『きょ~きの味を保証』ってところ、田中くんは『驚喜の味を保証』って思ったんでしょ?」
「うん」
「そこがクトゥルフの狡猾な点よ。本当の意味は『狂気の味を保証』だったのよ。お客さんを騙したのね」
「狡猾と言うより、姑息としか感じられないのだが」
再び鈴木が、ズケズケ述べる。
3人は、店の扉の前に立った。
「それじゃ、お店に入りましょう」
「ぼ、僕……」
「怯えるな、田中! 俺たちがついている」
ガラガラと扉を開け、鈴木・美代・田中の順に3人は入店する。
『ヘイ、らっしゃい!』
変な声がした。
店内では寿司皿を載せたチェーンコンベアがウィィィンと回っており、その内側に怪しげな生物が立っている。背丈は存外に低く、美代と同じくらいしか無い。顔らしきあたりにある眼は、6つ。上半身はタコで、下半身は人間のような姿をしており、無数の触手を使って寿司を握っていた。身体の色は赤になったり緑になったり紫になったりと、絶え間なく変化している。
鈴木が叫ぶ。
「うわ! タコだ! しかも体色がどんどん変わるとは……信号機か?」
『我が輩をタコ呼ばわり、あまつさえ信号機呼ばわりするとは、なんと失礼な人間だ。我が輩は……』
「知っているわ。アナタは外宇宙からやって来た侵略者にして旧支配者の大祭司、邪神クトゥルフね!」
美代が、ビシッと邪神を指さす。
『フッフッフ。その通り』
「そしてアナタは、その大いなる邪な力で、田中くんを〝インスマス・田中くん〟に変えてしまった……」
「くそぅ! よくも俺の大事な友達である田中を、半漁人にしやがって。俺は全然、これっぽっちも気が付かなかったけどよ!」
「美代ちゃん……鈴木くん……」
泣く、田中。
泣かしているのは、クトゥルフに非ず。美代と鈴木である。
「田中くんを元に戻しなさい!」
『イヤだ』
「だいたい、なんでお前はこんなことをしてるんだ?」
鈴木の問いに、クトゥルフが答える。
『……これは、復讐なのだ!』
クトゥルフが発した意外な言葉を聞き、美代が尋ねる。
「復讐? どういうこと? アナタは海底の神殿に封印されていたはずでしょう?」
『封印ではない! 我が輩は神殿の中で眠っていただけだ』
「強がり言っちゃって……」
ボソッと呟く、美代。
クトゥルフは触手を振り回しつつ強硬に主張してきた。
『強がりではないぞ! 本当だ。その証拠に時々神殿を抜け出しては、周辺の海底を散歩していたのだ』
「ふ~ん、それで?」
鈴木が話を促す。
『1ヶ月前のある日のこと、我が輩は散歩中に横倒しになった壺を見つけたのだ』
「ほうほう」と鈴木。
『なんとなく気に入り、壺の中で休んでいると……』
「休んでいると?」と田中。
『突如、壺ごと海上に引き上げられ、この町へと連れてこられたのだ!』
「それって、タコ壺だったんじゃ……」と美代。
鈴木と田中がコソコソと話し合う。
「俺たちが住んでいるココは、港町だからな」
「未だにタコ壺漁をやっている漁師さんも居るって聞くし……」
「タコ壺に引っ掛かる邪神……ちんけな邪神。じゃちんね。〝じゃちん・くとぅるふ〟ね」
美代が蔑みの眼差しで、クトゥルフを見る。
『我が輩がなんとか壺から這い出すと、目の前に大きな男が立っていたのだ……』
その時のことを思い出したのか、クトゥルフはブルッと身を震わした。
『大男はでっかい包丁を持ち、「美味そうなタコだな。刺身にして今晩の酒の肴にしてやろう」と喋り……我が輩に近寄ってきた。舌なめずりをしつつ! 恐ろしかったぞ。宇宙的恐怖を感じた』
「宇宙的恐怖……まさに〝コズミック・ホラー〟ね。そのままビッグバンされちゃえば良かったのに」と美代。
「邪神のほうが、人間に恐怖して、ど~すんだ」
鈴木がツッコむ。
『我が輩は男の魔の手から命からがら逃げ出し、そして誓ったのだ。「旧支配者の大祭司たる我が輩に対し、なんたる非道な仕打ち! 許すまじ! この町の人間どもに復讐してやる。全てインスマスにしてやる!」と』
「はた迷惑な誓いね」
「インスマスに変える方法は……やっぱり……」
田中の疑問の声に、クトゥルフは返事した。案外、律儀である。
『我が輩の手作りの寿司を食わすのだ。呪いをたっぷり込めたのを』
「お寿司をそんな悪事に利用するなんて、言語道断だわ」
神社の巫女であり、加えて寿司好きの美代は怒った。
『我が輩が握った寿司を食すことによって、我が輩の眷属となれるのだ。むしろ、光栄であろう』
「自分勝手なタコ……」
美代のクトゥルフへの嫌悪感は、急上昇。
「しかし、町中を歩いていても半漁人になったヤツなんて見掛けないぞ。おい、クトゥルフ。お前、田中以外、いったい何人の人間を半漁人に変えたんだ?」
鈴木が訊くと、クトゥルフはショボンとした。無数の触手がしおしおになる。
『今までのところ、インスマスに出来たのはソイツだけだ』
触手の1本が、田中を指した。
「え? 僕だけ?」
『我が輩はこんなに丹精込めて寿司を握っているというのに……この町の人間どもは、薄情すぎる!』
嘆くクトゥルフへ、美代は尋ねた。
「お店を開いて、何日経つの?」
『約30日だ』
「タコ壺から脱出して、すぐに店を構えたのか。さすがは邪神、侮れないな」
鈴木が感心する。
『そうであろう。我が輩は偉大なのだ。もっと崇めよ』
「それで30日の間に、何人のお客さんがこの店に来たの?」
追及の手を緩めない、美代。
『30人だ』
「1日、平均1人……」
美代は、あきれ顔になった。
『入店した客も、我が輩の顔を見るなり、30人中27人は何も言わずに去ってしまった』
「そりゃ、〝寿司屋に入ると店主がタコだった〟……って状況になったら、黙って立ち去るわな」
鈴木が納得する。
「というか、クトゥルフを目にして、なのに帰ろうとしない人間が3人も居たという事実に私はビックリよ。そのうちの1人は田中くんだけど……」
「しかし結局、田中以外の2人は寿司を食べなかったんだよな?」
「当然だと思うわ」
美代はウィィィンと回っているチェーンコンベアを眺める。
「お寿司の皿を載せているこのコンベア、回転が凄く遅いんだもの。待っているお客さんは、イライラしちゃう」
『フハハハハ!』
クトゥルフが、突然笑い出す。店内に響き渡る、狂笑。
『そうだ! これこそ、まさしく〝呪いの回転寿司〟なのだ。何故なら』
「こら、じゃちん。コンベアの回転がノロい……だから『ノロいの回転寿司だ』なんて言うんじゃないでしょうね?」
「山本! よもやクトゥルフともあろうものが、そんな下らないセリフを口にするわけないだろ!」
「そうだよ、美代ちゃん! クトゥルフは邪悪な存在とは言え、一応は神様なんだよ。どう考えてもギャグとも呼べないような、究極的につまらない冗談もどき、少しでも恥を知っているのなら、たとえタコスの具になったって言わないよ!」
『……………………』
クトゥルフ、沈黙。
「そ、そうね。ごめんなさい、クトゥルフ。もしも私がそんなスベりまくりの寒いジョークを口にしたら、勿論そんな自爆的行為をするはずないけど、万が一にでもしてしまったら、屈辱と後悔と絶望のあまり首をくくりたくなっちゃうに決まっているのに。アナタに首があるかどうか、分からないけど」
『……………………コンベアの進みが遅いから、待っている間に寿司の新鮮さが無くなり、パサパサとなってしまうのだ…………だから〝呪いの回転寿司〟なのだ……』
「なるほど、意図して寿司の鮮度を落としているのね」
「味も悪くなるしな」
「さすが、クトゥルフだね。邪悪だよ。僕を半漁人にしてしまっただけのことはある」
3人の少年少女はウンウンと頷き合った。
♢
※注 クトゥルフの眷属である〝深きもの〟を「インスマス」と呼ぶのは、厳密に言うと間違いです。美代が述べているとおり、インスマスは町の名前なので。ただ本作では、通称として使わせてもらっています。
あと クトゥルフの容姿について……鉤爪のある腕や、コウモリのような翼などもクトゥルフにはありますが、『寿司を握るのに面倒』との理由で、身体の中に引っ込めています。だから美代たちには「タコに人間の下半身がくっついている」という風にしか見えません。
「クトゥルフと戦う時、制服が汚れると困るからな」
「スミを掛けられちゃうかもしれないし」
「鈴木くん、美代ちゃん……クトゥルフは邪神であって、タコとは違うんじゃ……」
「外宇宙からやって来たタコ型異星人……じゃ無くて異星神なんだから、似たようなモノよ」
田中は鈴木と美代を、クトゥルフが居た店へと案内した。
「ココだよ」
「この場所は空き地だと思っていたのに、いつの間にかお店が出来ていたのね」
「それにしても、ヒンソ~な店構えだな。本当に食堂なのか? 営業してるのか?」
「お寿司屋さんであることは、間違いないよ。見て」
田中が、建物の上部に掲げられた看板を指す。
「……『くとぅるふ開店寿司・深層回転』って書いてあるわね」
「〝開店〟と〝回転〟……単語を取り違えるとは、クトゥルフは頭が悪いみたいだな。所詮は、タコか」
「それに、僕、最初来たときは気付かなかったけど、〝深層〟は〝新装〟の誤字だよね」
「そうとも言えないわ」
「どうして? 美代ちゃん」
「あのね、田中くん。〝インスマス〟というのは、正確には半漁人たちが住む港町の名前なの。あくまで通称であって、クトゥルフの眷属の正式名称は〝深きもの〟、種族名は〝Deep ones――深きものども〟と言うのよ」
「〝深きもの〟……だから〝深層〟なんだね。この張り紙のココ、『開店特価』であるはずの文字が『回転特化』になっているのも、〝回転寿司によって、特別な化け物にしてやる〟との意図が込められて……」
「単に誤字ってるだけだろ」
鈴木が身も蓋もないことを言う。
「油断しちゃダメよ。張り紙に書かれている文字の続き……『きょ~きの味を保証』ってところ、田中くんは『驚喜の味を保証』って思ったんでしょ?」
「うん」
「そこがクトゥルフの狡猾な点よ。本当の意味は『狂気の味を保証』だったのよ。お客さんを騙したのね」
「狡猾と言うより、姑息としか感じられないのだが」
再び鈴木が、ズケズケ述べる。
3人は、店の扉の前に立った。
「それじゃ、お店に入りましょう」
「ぼ、僕……」
「怯えるな、田中! 俺たちがついている」
ガラガラと扉を開け、鈴木・美代・田中の順に3人は入店する。
『ヘイ、らっしゃい!』
変な声がした。
店内では寿司皿を載せたチェーンコンベアがウィィィンと回っており、その内側に怪しげな生物が立っている。背丈は存外に低く、美代と同じくらいしか無い。顔らしきあたりにある眼は、6つ。上半身はタコで、下半身は人間のような姿をしており、無数の触手を使って寿司を握っていた。身体の色は赤になったり緑になったり紫になったりと、絶え間なく変化している。
鈴木が叫ぶ。
「うわ! タコだ! しかも体色がどんどん変わるとは……信号機か?」
『我が輩をタコ呼ばわり、あまつさえ信号機呼ばわりするとは、なんと失礼な人間だ。我が輩は……』
「知っているわ。アナタは外宇宙からやって来た侵略者にして旧支配者の大祭司、邪神クトゥルフね!」
美代が、ビシッと邪神を指さす。
『フッフッフ。その通り』
「そしてアナタは、その大いなる邪な力で、田中くんを〝インスマス・田中くん〟に変えてしまった……」
「くそぅ! よくも俺の大事な友達である田中を、半漁人にしやがって。俺は全然、これっぽっちも気が付かなかったけどよ!」
「美代ちゃん……鈴木くん……」
泣く、田中。
泣かしているのは、クトゥルフに非ず。美代と鈴木である。
「田中くんを元に戻しなさい!」
『イヤだ』
「だいたい、なんでお前はこんなことをしてるんだ?」
鈴木の問いに、クトゥルフが答える。
『……これは、復讐なのだ!』
クトゥルフが発した意外な言葉を聞き、美代が尋ねる。
「復讐? どういうこと? アナタは海底の神殿に封印されていたはずでしょう?」
『封印ではない! 我が輩は神殿の中で眠っていただけだ』
「強がり言っちゃって……」
ボソッと呟く、美代。
クトゥルフは触手を振り回しつつ強硬に主張してきた。
『強がりではないぞ! 本当だ。その証拠に時々神殿を抜け出しては、周辺の海底を散歩していたのだ』
「ふ~ん、それで?」
鈴木が話を促す。
『1ヶ月前のある日のこと、我が輩は散歩中に横倒しになった壺を見つけたのだ』
「ほうほう」と鈴木。
『なんとなく気に入り、壺の中で休んでいると……』
「休んでいると?」と田中。
『突如、壺ごと海上に引き上げられ、この町へと連れてこられたのだ!』
「それって、タコ壺だったんじゃ……」と美代。
鈴木と田中がコソコソと話し合う。
「俺たちが住んでいるココは、港町だからな」
「未だにタコ壺漁をやっている漁師さんも居るって聞くし……」
「タコ壺に引っ掛かる邪神……ちんけな邪神。じゃちんね。〝じゃちん・くとぅるふ〟ね」
美代が蔑みの眼差しで、クトゥルフを見る。
『我が輩がなんとか壺から這い出すと、目の前に大きな男が立っていたのだ……』
その時のことを思い出したのか、クトゥルフはブルッと身を震わした。
『大男はでっかい包丁を持ち、「美味そうなタコだな。刺身にして今晩の酒の肴にしてやろう」と喋り……我が輩に近寄ってきた。舌なめずりをしつつ! 恐ろしかったぞ。宇宙的恐怖を感じた』
「宇宙的恐怖……まさに〝コズミック・ホラー〟ね。そのままビッグバンされちゃえば良かったのに」と美代。
「邪神のほうが、人間に恐怖して、ど~すんだ」
鈴木がツッコむ。
『我が輩は男の魔の手から命からがら逃げ出し、そして誓ったのだ。「旧支配者の大祭司たる我が輩に対し、なんたる非道な仕打ち! 許すまじ! この町の人間どもに復讐してやる。全てインスマスにしてやる!」と』
「はた迷惑な誓いね」
「インスマスに変える方法は……やっぱり……」
田中の疑問の声に、クトゥルフは返事した。案外、律儀である。
『我が輩の手作りの寿司を食わすのだ。呪いをたっぷり込めたのを』
「お寿司をそんな悪事に利用するなんて、言語道断だわ」
神社の巫女であり、加えて寿司好きの美代は怒った。
『我が輩が握った寿司を食すことによって、我が輩の眷属となれるのだ。むしろ、光栄であろう』
「自分勝手なタコ……」
美代のクトゥルフへの嫌悪感は、急上昇。
「しかし、町中を歩いていても半漁人になったヤツなんて見掛けないぞ。おい、クトゥルフ。お前、田中以外、いったい何人の人間を半漁人に変えたんだ?」
鈴木が訊くと、クトゥルフはショボンとした。無数の触手がしおしおになる。
『今までのところ、インスマスに出来たのはソイツだけだ』
触手の1本が、田中を指した。
「え? 僕だけ?」
『我が輩はこんなに丹精込めて寿司を握っているというのに……この町の人間どもは、薄情すぎる!』
嘆くクトゥルフへ、美代は尋ねた。
「お店を開いて、何日経つの?」
『約30日だ』
「タコ壺から脱出して、すぐに店を構えたのか。さすがは邪神、侮れないな」
鈴木が感心する。
『そうであろう。我が輩は偉大なのだ。もっと崇めよ』
「それで30日の間に、何人のお客さんがこの店に来たの?」
追及の手を緩めない、美代。
『30人だ』
「1日、平均1人……」
美代は、あきれ顔になった。
『入店した客も、我が輩の顔を見るなり、30人中27人は何も言わずに去ってしまった』
「そりゃ、〝寿司屋に入ると店主がタコだった〟……って状況になったら、黙って立ち去るわな」
鈴木が納得する。
「というか、クトゥルフを目にして、なのに帰ろうとしない人間が3人も居たという事実に私はビックリよ。そのうちの1人は田中くんだけど……」
「しかし結局、田中以外の2人は寿司を食べなかったんだよな?」
「当然だと思うわ」
美代はウィィィンと回っているチェーンコンベアを眺める。
「お寿司の皿を載せているこのコンベア、回転が凄く遅いんだもの。待っているお客さんは、イライラしちゃう」
『フハハハハ!』
クトゥルフが、突然笑い出す。店内に響き渡る、狂笑。
『そうだ! これこそ、まさしく〝呪いの回転寿司〟なのだ。何故なら』
「こら、じゃちん。コンベアの回転がノロい……だから『ノロいの回転寿司だ』なんて言うんじゃないでしょうね?」
「山本! よもやクトゥルフともあろうものが、そんな下らないセリフを口にするわけないだろ!」
「そうだよ、美代ちゃん! クトゥルフは邪悪な存在とは言え、一応は神様なんだよ。どう考えてもギャグとも呼べないような、究極的につまらない冗談もどき、少しでも恥を知っているのなら、たとえタコスの具になったって言わないよ!」
『……………………』
クトゥルフ、沈黙。
「そ、そうね。ごめんなさい、クトゥルフ。もしも私がそんなスベりまくりの寒いジョークを口にしたら、勿論そんな自爆的行為をするはずないけど、万が一にでもしてしまったら、屈辱と後悔と絶望のあまり首をくくりたくなっちゃうに決まっているのに。アナタに首があるかどうか、分からないけど」
『……………………コンベアの進みが遅いから、待っている間に寿司の新鮮さが無くなり、パサパサとなってしまうのだ…………だから〝呪いの回転寿司〟なのだ……』
「なるほど、意図して寿司の鮮度を落としているのね」
「味も悪くなるしな」
「さすが、クトゥルフだね。邪悪だよ。僕を半漁人にしてしまっただけのことはある」
3人の少年少女はウンウンと頷き合った。
♢
※注 クトゥルフの眷属である〝深きもの〟を「インスマス」と呼ぶのは、厳密に言うと間違いです。美代が述べているとおり、インスマスは町の名前なので。ただ本作では、通称として使わせてもらっています。
あと クトゥルフの容姿について……鉤爪のある腕や、コウモリのような翼などもクトゥルフにはありますが、『寿司を握るのに面倒』との理由で、身体の中に引っ込めています。だから美代たちには「タコに人間の下半身がくっついている」という風にしか見えません。
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