幼なじみは鬼神。そして私は巫女でした

りーさん

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第一章 鬼神と巫女

第八話 謎のお姉さん

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 星宮さんが引ったくりの被害にあってから四日後。高校に入学してから、丸々二週間が経過した。
 たった二週間なのに、もう一ヶ月も経ったかのような感覚だ。いろいろあったから無理もない。
 いまだに、力を制御するための手がかりのての字も見つからない。
 毎日、使いこなせるように練習しているのだけど、異形を追い払ったときのように、手が熱くなる感覚はない。

「う~ん……」

 私は、ベッドに寝転がりながら考える。
 何か、コツが掴めるきっかけでもあればいいんだけど、そんなご都合主義的な展開はほとんどない。

「ネットは信憑性ないし……やっぱり夜見に聞くしかないかなぁ」

 こうは言ったけど、本当に聞きに行くとなると迷ってしまう。
 なんとなくだけど、夜見は感覚派な気がする。
 もし、理論的に力の制御を知っていたら、夜見はとっくに教えてくれているだろう。参考にしかならないとしても。
 夜見は、幼いころから火を灯したりはできたと聞いているから、できるようになるにはどうしたらいいかなんてわからないだろう。夜見は制御する必要もないみたいだし。
 本当に手詰まりだ。

「ああもう!どうしたらいいの~!!」
「三咲?どうかしたの?」

 私が大声を出したからか、お母さんがノックもなしに入ってきた。
 そういえば、今日は日曜日。お父さんは仕事だけど、お母さんはお休みで家にいるのを忘れてた。

「なんでもないよ!」
「……そう?ならいいけど……」

 お母さんは少し不審な目を向けながらも、部屋を出ていく。
 家の中も注意しなければならないな。

◇◇◇

 家で引きこもっていても解決しないと思って、ぶらぶらと歩きながら考えることにした。

「巫女の力だから……神社の人なら何かわかるかなぁ……」

 そう考えた私は、街の神社にお邪魔してみることにした。運良く神主さんとかに話を聞ければ、もしかしたらヒントになることを聞けるかもしれないし。
 この街の神社ーー紅月神社は、この辺りでもそれなりの大きさになるらしい。……何の神さまを祀っているのかは知らないけど。
 鳥居をくぐると、何か首筋がくすぐったい。別に、風が吹いているわけでもないから、なんでくすぐったいのかわからない。
 今まではこんなことはなかったのに。
 少し気になったけど、気を取り直して、私は境内をぐるっと見渡す。
 別に新年でもないから、神社にはあまり人はいない。ちらほら老人がいるだけだ。神主さんは見当たらない。
 本殿と呼ばれる場所にでもいるのだろうか?

「あら?こんなところに子どもなんて珍しいわね」

 不意に後ろから声がして、慌てて振り向くと、そこにはとんでもない美女のお姉さん?らしき人がいた。
 年上という確信が持てなかったのは、雰囲気は大人の余裕を感じさせるのに、見た目がとても若々しいから。
 私と同じ高校生と言われても信じてしまいそうだ。
 でも、そこでふと違和感に気づいた。
 こんな人、神社を見渡したときにいただろうか。
 もしいたとしたら、絶対に視界に入ったときに気づくはずだ。
 まるで急にその場に出現したかのようだった。そう思ってしまうと、その美貌もまるで人外のもののように感じる。

「……あら?あなた、私の知り合いにどこか似てるわ。名前は?」
「知らない人に名乗るほど不用心ではありません」

 冷たい目を向けながらそう言うと、お姉さんは「それもそうよね」と苦笑いする。

「じゃあ、私から名乗っておくわ。私は天宮あまみや陽咲ひなたよ。お近づきの印に、ちょっと整理してあげる」

 お姉さんはそう言うと、私の額に人差し指を当てる。
 その瞬間、何かぞわぞわとした感覚があった。
 くすぐったいような、寒いような、暑いような。そんないろいろなものが混ざりあった感覚だ。
 お姉さんの指が離れると、少し体が軽くなり、どこかポカポカしている。

「えっと……何を?」

 私はそう聞いたものの、お姉さんは私の質問には答えずに、ふふと笑うだけだ。
 本当にミステリアスなお姉さんである。

「時間がないから、応急措置でごめんなさいね。でも、もうあなたの用は終えたでしょう?」

 そう言いながら、私の体の向きを変える。
 視界には、神社に来たときに見た鳥居がある。
 というか、用?私、この人にここに来た理由も何も話してないよね?

「また困ったら来なさい。私の手が空いてたら整理してあげる」

 その瞬間、お姉さんのほうから、ぶわっと強い風が吹く。
 砂ぼこりが舞ってしまったので、私は目を閉じた。
 風が止んで目を開けると、あのお姉さんはどこにもいなかった。
 登場から退場まで、ミステリアスじゃなかったところが一つもない。

「なんだったんだろう、あの人……」

 私は少し探してみようかと思ったけど、神主さんが見当たらない以上、確かにここにはもう用はないしと思い、一度帰宅することにした。

◇◇◇

 自分の家が見えてきたころ、奥から誰かが歩いてくる。

「あれ?夜見!」

 歩いてきたのは夜見だった。夜見は、私が声をかけたことで気づいたのか、少し驚いたような表情をする。

「三咲……か?」

 夜見はそう言うと、おそるおそるではあるけど、珍しく自分から近づいてきた。
 私が反射的に離れようとすると、夜見が走ってきて腕を掴んでくる。

「熱っ!」

 でも、そう言ってすぐに離した。
 ……というか、熱い?痛いじゃなくて?

「夜見?さっきからどうしたの?それに、熱いって……」
「どうしたはこっちのセリフだ。最初、お前かどうかわからなかったぞ」
「えっ?なんで!?」

 そう驚いたけど、さっきの夜見の言動を思い出す。
 言われてみれば、夜見は私だったことに戸惑っていたようだ。

「いつもはお前から溢れている霊力で、隠れていようが、離れていようが認識できるが、今はまったく溢れていない。100が一気に0になってるんだ。何があったんだ?」
「え?え~っと……」

 私は、先ほどの出来事を説明する。とはいっても、私もよくわかっていない。
 説明したのは、女性が整理すると言って私に触れたこと、その時に何かくすぐったいような感覚があったこと、その後に、体が軽くなり、なんかポカポカしたような感覚になっていること。その女性はいつの間にか消えていたことだ。
 うん。自分でも何を言っているのかよくわからない。
 でも、夜見は「そうか」と納得したような返事をする。今ので理解したとでもいうのか?

「多分、その人はお前から漏れていた霊力を、中に仕舞ってくれたんだろ。薄れていた霊力が圧縮されたから、少し熱を感じるんだろうな」
「へぇ~……」

 前言撤回。私よりも理解していました。
 というか、夜見って、感知能力で私を認識していたのか。どうりで、隠れていても出てきてくれなかったわけだ。
 そこに毒ガス的なのがあると感知していたら出てくるわけがない。

「でも、熱さは感じるから、完全ではないのか。外からぎゅうぎゅうに押し込んだだけで、隙間がないというところだな。それなら、一度引っ張り出すと、また溢れる可能性があるな……」

 夜見が何かぶつぶつ呟きながら、自分の世界に入ってしまっている。
 私は、夜見の世界に入り込む勇気はない。今の時点で、夜見が何を言っているのかさっぱりわからないからだ。
 夜見の世界に入り込んだところで、溶け込めずに逃げ帰ってくるのがオチだ。
 夜見が自分の世界から帰ってくるのを待つこと数分。ようやく出てきてくれたようで、私に話しかけてくる。

「三咲。これからは、むやみに霊力を使わないでくれ」
「言われなくてもやらないけど、どうして?」
「あくまでも予想の範疇からは出ないが、お前が霊力を使わなければ、霊力が溢れることはないはずだ」
「そうなの?じゃあ、夜見は側にいても平気ってこと?」
「完全に平気なわけではないが……触れなければ日常生活に問題はない」

 私は、夜見の言葉に少しの希望を見いだした。
 この状態を維持できれば、触れ合うことは不可能だとしても、普通に友人の距離感での付き合いはできるはずだ。
 もし霊力が溢れることになっても、また神社に行ってみればいいだろう。あのお姉さんもまた来てって言っていたし。
 怪しいは怪しいから、完全に信頼できるわけではないけどね。

◇◇◇

 家に戻って、リビングのソファに腰かける。
 テレビを見ようと電源を入れると、ちょうどニュースがやっていた。
 それは、引ったくり犯が捕まったというニュースだ。
 引ったくり犯は、自主したらしく、お金が欲しかったのは事実だけど、盗むつもりなんかなかった、女子学生を狙った後、不意に罪悪感が込み上げてきたということを供述していると報道している。

「なんか、案外あっさり捕まったなぁ……」

 早く捕まればいいと思っていたのに、あまりにもあっけなくて、そんな感想しか出てこなかった。
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