冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第12話 兄妹との交流 4 第六皇子視点

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 逃げてしまった……怪我したのも放置して、訓練場に行くとか言って。

 頑張って、妹として接しようとしたけど、やっぱり人形みたいで不気味だったから、その場にいることができなかった。血まで出ていたのに、まったく表情が変わらないし、全然話さないし……

 あのときと、何も変わっていない。僕は、ディルしか下の兄弟がいない。だから、妹になる子が新しく宮に入ったと聞いて、気になってシトリン宮に行ってみた。あの悪妃の娘だから、性格が悪いんだろうと思って。でも、見てみたいという思いが抑えられなくて。

 でも、予想と全然違った。あれは、演技には思えなかったし、あんなんじゃあ、悪妃のように性格が悪いなんて考えられない。

 でも……ただ不気味だった。何を考えているのか、何をしたいのかまったく分からない。

「訓練場に行ってくる」
「鍛練ですか?」
「体を動かそうと思ってな」

 こういうときは体を動かすのかいい。気分が落ち着かないときは、体を動かせば楽になる。

「フィレンティア皇女殿下は……」
「客である前に俺の妹だ。丁重に扱え」
「……はい」

 どの口が言っているんだ。本当はあいつのことを、妹どころか、人として見れていないのに。見ようとしても、不気味だという思いが消えない。感情が出せないのは、悪妃のせいだということは分かっている。頭では分かっているけど、少しは人間らしくすればいいのにと思う自分もいる。

 なら、人間らしくってなんだと言われれば分からないけど。

「アルク様、今日はフィレンティア皇女殿下の元に行かれたのでは……」
「ヘルトか」

 訓練場にいた俺のことを不審に思ったのか、騎士の一人、ヘルトが聞いてきた。こいつは、公の場ではちゃんと振る舞うが、俺と二人きりのときは、あまり気遣うことはない。それが俺にとっては気楽で、よく一緒に手合わせもしているし、話したりもしている。

「あいつなら、俺の宮で休んでいる。気分転換で来ただけだ」
「……自分の妹なのに、放置するんですか?」
「仕方ないだろ!なんか、居づらかったし……」

 ハリナとセリアは、少なくとも人間としては扱っているのに、俺はあいつのことを、人として見れない。だから、あの場から逃げ出してしまったんだ。

「どういう意味ですか?」
「お前に話しても意味ないだろ」
「話を聞いて欲しいから、俺に会いに来たのかと思ってたんですけど、違うんですかー?」
「……」

 そんなわけないだろと言いたいのに、なぜか言えない。

「大丈夫ですよ。俺は口が堅いから、誰にも話しません!」
「口が軽くてすぐ噂にしますの間違いじゃないか?」
「だから、それは俺がやってるんじゃないっていつも言ってるじゃないですか!」

 実際のところ、こいつの話す声が大きくて、噂が広まっているから、俺の言ってることは間違ってはいないんだが……黙っててやるか。

「妹を妹として見れないんだ」
「……もう少し詳しくお願いします」
「だから、あいつを妹として見れないんだ!なんか不気味で、気味が悪いって感じにしか……」
「陛下と同じような感じなんですね」
「父さんと?」

 同じようなってことだと、父さんもあいつを娘として見れないってことか?父さんも、悪妃を嫌っていたから、あり得なくはないが……

 それにしても、こいつはどこでそんなことを知ったんだ?父さんがこんなアホで噂の出所のような奴にそんなことを話すとは思えないんだが。

「……失礼なことを考えませんでしたか?」
「気のせいだろ。で、父さんがなんだって?」
「あくまで噂ですし、真相は分かりませんが、あの人も皇女殿下のことを娘として見れていないそうですよ?だから、会いに行かないで皇子殿下達に押しつけてるんじゃないかって」

 そんな噂が流れてたのか。全然知らなかったな。でも、確かに俺らに話をしてから、父さんがフィレンティアに会いに行ったという話は聞かない。

 ……父さんも同じなのか?あいつを人間にしたいなら、自分ももっと交流すればいいのに。確かに、あいつは成長したら悪妃と同じ顔になりそうなくらいには似ていると思う。

 あいつは、フィレンティアとは別の意味で人間じゃない。使用人は、自分を満足させるための道具としか見ていなかったらしいし、あいつが演技で浮かべる笑みほど怖いと思ったことはなかった。

 フィレンティアあいつが2歳のとき……3年前に冷宮に追放していたけど、それでもあの笑みは忘れられない。

 ……そうだ。あいつが不気味に感じるのは、人形みたいだからというだけじゃない。あの悪妃と顔が似ていることも不気味に感じる理由なんだ。多分、父さんも同じだ。父親の義務とか、そう言う風にしかまだフィレンティアと接することができないんだ。

「……予定を変える」
「では、宮に戻るんですか?」
「その前に、行くところがある」

 本来なら、呼ばれてもいないのに事前に連絡を入れずに訪問するのはマナー違反だ。でも、正式に会うとなると、何週間、何ヵ月後になるか分からない。

 でも、ここで誰も動かなければ、多分気づかない。俺だって、言われるまで気づかなかった。伝えないといけない。フィレンティアと悪妃は違うんだって。

 そして……俺も、たった一人の妹として見られるように、悪妃の娘としてしか見られない、今の状態を……変えないといけない。 
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