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第一章 森の少女達
第23話 説得
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ある日の朝。ルーフェミアが目を覚ますと、カオルはどこかに行ってしまったみたいで、ベッドにはいない。近くに置き手紙がある事に気づき、ルーフェミアはそれを読む。
それには、『起こすのは申し訳ないので、先に食事をしています』と書いてあった。
「もう文章が書けるようになったんですのね」
ルーフェミアもカオルがいる所に向かおうと、部屋から出る。すると、すぐ近くにクラウドがいた。
「ルー。もう勉強は終わったかい?」
「はい。お父様はどうしてこちらに?」
「ルーに用事があってね」
「わたくしに……ですか?」
クラウドに部屋に招かれ、ルーフェミアは中に入る。
「ルーは、来月に進級するだろう?」
「はい。もしかして、そのタイミングで……?」
「ああ、カオルを学園に入れようと考えている」
ルーフェミアは意外だった。学園に入れようとしている事は知っていたが、もう少し後だと思っていたからだ。
ルーフェミアの通っている学園は、初等部、中等部、高等部と分かれており、ルーフェミアは次で初等部の三年になる。
「では、編入試験を……?」
「いいや。でも、ある程度の一般常識を身につけさせようとは思っている」
カオルは精霊術士の素質持ちなので、編入試験も形だけのもので、入学出来ないという事はないが、学園の授業についていけない可能性がある。
「受けなくても良いのですか?」
「カオルは精霊術士としての素質があるから、学園の方から入れたがるだろう。本当に精霊術士となった場合、貴族との交流が増える。後は分かるね?」
クラウドの質問にルーフェミアは頷く。
貴族は様々な作法がある。精霊術士ともなれば、貴族と同等の扱いをされる。そのため、貴族としての最低限の作法や常識は身につける必要がある。
「では、どうするのですか?」
「まずは、カオルに同意して貰わないといけない。カオルはまだ学園に行く事を了承していないからね」
「そうなのですか!?学園が始まるのは後半月ほどしかありませんよ?」
「だから、何とかしたいんだ。彼女が拒否するなら行かせたくはない。でも、精霊術士の素質がある者を国は放っておかない」
クラウドは、カオルと話している訳でもないのに、申し訳なさそうな顔をしながら話す。
事実、クラウドは貴族としての責務があるので、カオル達の事を放っておく訳にもいかない。だが本音は、カオル達の好きなようにさせたいと思っている。
その二つの思いに挟まれて、葛藤しているのだ。カオルが王都に行かなければならないのはほぼ決定事項。なので、クラウドは学園の話をした後、朦朧としているカオルに謝罪していた。
「だから、ルーに頼みたいんだ」
「わたくしに……?」
「カオルが学園に行くように説得して欲しい。どうしてもダメだと言うのならそれで構わないから」
「……分かりましたわ。わたくしもカオルさんと一緒に通いたいですもの」
ルーフェミアは、部屋を出て、カオルがいるであろう食堂に向かう。カオルはちょうど食べ終えていた所だった。
「カオルさん。おはよう」
「おはようございます、ルーフェミア様」
「もう文章が書けるようになったのは驚きましたわ」
「本を参考にしただけですけどね」
食器を片づけながら、カオルとルーフェミアは会話をする。
「カオルさん、学園の事ですが……」
「あぁ……もう少し待ってください」
(待ってください?)
カオルの言葉にルーフェミアは疑問を持つ。その言い方だと、自分ではなく、他の誰かが反対しているかのように聞こえたからだ。
でも、学園の事はカオルだけの問題のはず。カオルの言葉に疑問を持っているうちに、カオルはどこかに行ってしまったらしく、ルーフェミアは一人食堂に取り残されていた。
カオルは、部屋に戻っていた。
『リーズ。やっぱりダメ?』
『何でわざわざそんな所に行かないといけないのか分からないからな』
カオルは、リーズを説得出来ないでいた。クラウドの予想通り、リーズはなかなか首を縦に振らない。リーズは、あくまでもクラウドを少しだけ信用したに過ぎず、人間の事を見直したりした訳ではない。あの時、女性を助けたのも、カオルが助けたがっていたからだけの事だった。
(やっぱり、無理なのかな……?)
どうしても行きたいという訳ではない。でも、行けるなら行ってみたいと思っている。だから、カオルは字の勉強をしようと思ったのだから。
『そもそも、何で行きたいんだ?お前も目立つのは好きじゃないだろ』
リーズもカオルも、目立つのは好きじゃない。むしろ嫌いな方だ。カオルは学園に行ったら間違いなく目立つ。精霊術士の素質を持っており、精霊を見る事が出来て、会話も出来る。その上、容姿も整っている。目立たない要素は皆無だった。
『ルーフェミア様が楽しみにしているし、それに……』
『それに?』
『せっかく自由になったんだから、色々な所を見てみたいの』
森を出られた。それは、彼女にとっては喜ばしい事である。森は、故郷のようなものなので、嫌いではない。でも、森の外は、彼女にとっては外の世界。今まで森しか知らなかったカオルは、外の世界でいろいろな事に遭遇した。それは、楽しい事でも、怖い事でもあった。他にも、いろいろ見てみたかった。
『そう思うのは、ワガママかなぁ?』
『……二つ、条件がある』
リーズが突拍子もなくそんな事を言い始めたので、カオルは驚きを隠せない。
『一つは、余程の事情でない限り、一人で行動しない事。もう一つは、お前がピンチだったら、たとえ人前でも私は表に出る。だから、そうならないように危険な目に逢わないようにする事。それが出来るなら行っても良い』
突然突きつけられた条件に、カオルは困惑する。一人で行動しないようにするのは、簡単に出来そうな事だが、もう一つの危険な目に逢わないというのは難しい気がしたからだ。
そう思っても、カオルの答えは一つだった。
『分かった。なるべく気をつけるから、行っても良い?』
『……分かった。じゃあ、私はしばらく寝てるから。余程の用じゃない限り起こすなよ』
そう言ったきり、リーズと会話は出来なくなった。
(これは、許可してくれたのかな?)
そう思った時、ちょうど良いタイミングでルーフェミアが部屋に入ってくる。
「カオルさん。先程の──」
言葉はどういう意味か。そう言う前にカオルが話し始めた。
「ルーフェミア様。私、学園に行きます。もちろん、王都にも。クラウド様にもそう言ってくれますか?」
「ほ、本当ですの!?」
「はい」
いてもたってもいられなくなり、ルーフェミアははしたないという考えも忘れて、廊下を走っていく。
(しっかりやらないと)
入学を進めてくれたクラウドに迷惑をかけないように。リーズとの条件を破らないように。リーズが出てくる事のないように。
聖女と邪龍の娘だと言うことを隠し、ただ精霊術士としての素質があるだけの存在になれるように、決意をして、カオルは王都に向かった。
それには、『起こすのは申し訳ないので、先に食事をしています』と書いてあった。
「もう文章が書けるようになったんですのね」
ルーフェミアもカオルがいる所に向かおうと、部屋から出る。すると、すぐ近くにクラウドがいた。
「ルー。もう勉強は終わったかい?」
「はい。お父様はどうしてこちらに?」
「ルーに用事があってね」
「わたくしに……ですか?」
クラウドに部屋に招かれ、ルーフェミアは中に入る。
「ルーは、来月に進級するだろう?」
「はい。もしかして、そのタイミングで……?」
「ああ、カオルを学園に入れようと考えている」
ルーフェミアは意外だった。学園に入れようとしている事は知っていたが、もう少し後だと思っていたからだ。
ルーフェミアの通っている学園は、初等部、中等部、高等部と分かれており、ルーフェミアは次で初等部の三年になる。
「では、編入試験を……?」
「いいや。でも、ある程度の一般常識を身につけさせようとは思っている」
カオルは精霊術士の素質持ちなので、編入試験も形だけのもので、入学出来ないという事はないが、学園の授業についていけない可能性がある。
「受けなくても良いのですか?」
「カオルは精霊術士としての素質があるから、学園の方から入れたがるだろう。本当に精霊術士となった場合、貴族との交流が増える。後は分かるね?」
クラウドの質問にルーフェミアは頷く。
貴族は様々な作法がある。精霊術士ともなれば、貴族と同等の扱いをされる。そのため、貴族としての最低限の作法や常識は身につける必要がある。
「では、どうするのですか?」
「まずは、カオルに同意して貰わないといけない。カオルはまだ学園に行く事を了承していないからね」
「そうなのですか!?学園が始まるのは後半月ほどしかありませんよ?」
「だから、何とかしたいんだ。彼女が拒否するなら行かせたくはない。でも、精霊術士の素質がある者を国は放っておかない」
クラウドは、カオルと話している訳でもないのに、申し訳なさそうな顔をしながら話す。
事実、クラウドは貴族としての責務があるので、カオル達の事を放っておく訳にもいかない。だが本音は、カオル達の好きなようにさせたいと思っている。
その二つの思いに挟まれて、葛藤しているのだ。カオルが王都に行かなければならないのはほぼ決定事項。なので、クラウドは学園の話をした後、朦朧としているカオルに謝罪していた。
「だから、ルーに頼みたいんだ」
「わたくしに……?」
「カオルが学園に行くように説得して欲しい。どうしてもダメだと言うのならそれで構わないから」
「……分かりましたわ。わたくしもカオルさんと一緒に通いたいですもの」
ルーフェミアは、部屋を出て、カオルがいるであろう食堂に向かう。カオルはちょうど食べ終えていた所だった。
「カオルさん。おはよう」
「おはようございます、ルーフェミア様」
「もう文章が書けるようになったのは驚きましたわ」
「本を参考にしただけですけどね」
食器を片づけながら、カオルとルーフェミアは会話をする。
「カオルさん、学園の事ですが……」
「あぁ……もう少し待ってください」
(待ってください?)
カオルの言葉にルーフェミアは疑問を持つ。その言い方だと、自分ではなく、他の誰かが反対しているかのように聞こえたからだ。
でも、学園の事はカオルだけの問題のはず。カオルの言葉に疑問を持っているうちに、カオルはどこかに行ってしまったらしく、ルーフェミアは一人食堂に取り残されていた。
カオルは、部屋に戻っていた。
『リーズ。やっぱりダメ?』
『何でわざわざそんな所に行かないといけないのか分からないからな』
カオルは、リーズを説得出来ないでいた。クラウドの予想通り、リーズはなかなか首を縦に振らない。リーズは、あくまでもクラウドを少しだけ信用したに過ぎず、人間の事を見直したりした訳ではない。あの時、女性を助けたのも、カオルが助けたがっていたからだけの事だった。
(やっぱり、無理なのかな……?)
どうしても行きたいという訳ではない。でも、行けるなら行ってみたいと思っている。だから、カオルは字の勉強をしようと思ったのだから。
『そもそも、何で行きたいんだ?お前も目立つのは好きじゃないだろ』
リーズもカオルも、目立つのは好きじゃない。むしろ嫌いな方だ。カオルは学園に行ったら間違いなく目立つ。精霊術士の素質を持っており、精霊を見る事が出来て、会話も出来る。その上、容姿も整っている。目立たない要素は皆無だった。
『ルーフェミア様が楽しみにしているし、それに……』
『それに?』
『せっかく自由になったんだから、色々な所を見てみたいの』
森を出られた。それは、彼女にとっては喜ばしい事である。森は、故郷のようなものなので、嫌いではない。でも、森の外は、彼女にとっては外の世界。今まで森しか知らなかったカオルは、外の世界でいろいろな事に遭遇した。それは、楽しい事でも、怖い事でもあった。他にも、いろいろ見てみたかった。
『そう思うのは、ワガママかなぁ?』
『……二つ、条件がある』
リーズが突拍子もなくそんな事を言い始めたので、カオルは驚きを隠せない。
『一つは、余程の事情でない限り、一人で行動しない事。もう一つは、お前がピンチだったら、たとえ人前でも私は表に出る。だから、そうならないように危険な目に逢わないようにする事。それが出来るなら行っても良い』
突然突きつけられた条件に、カオルは困惑する。一人で行動しないようにするのは、簡単に出来そうな事だが、もう一つの危険な目に逢わないというのは難しい気がしたからだ。
そう思っても、カオルの答えは一つだった。
『分かった。なるべく気をつけるから、行っても良い?』
『……分かった。じゃあ、私はしばらく寝てるから。余程の用じゃない限り起こすなよ』
そう言ったきり、リーズと会話は出来なくなった。
(これは、許可してくれたのかな?)
そう思った時、ちょうど良いタイミングでルーフェミアが部屋に入ってくる。
「カオルさん。先程の──」
言葉はどういう意味か。そう言う前にカオルが話し始めた。
「ルーフェミア様。私、学園に行きます。もちろん、王都にも。クラウド様にもそう言ってくれますか?」
「ほ、本当ですの!?」
「はい」
いてもたってもいられなくなり、ルーフェミアははしたないという考えも忘れて、廊下を走っていく。
(しっかりやらないと)
入学を進めてくれたクラウドに迷惑をかけないように。リーズとの条件を破らないように。リーズが出てくる事のないように。
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