悪妃の愛娘

りーさん

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7 双子の弟妹 2

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 朱星輝宮に入った私たちは、マリエとラファエルの二人がいると思われる場所に向かう。部屋の装飾品や、待遇が違うだけで、部屋の使われ方はほとんど同じだ。見つからなければ侍女たちに聞けばいい。
 最初から聞けと思われるかもしれないけど、なるべく声をかけないようにしたい。
 道中で会った侍女たちは、道のど真ん中でペラペラと雑談ばかりしていたけど、私に気づくと、急いで道の端に立ち、頭を下げる。
 本来なら、主の通る道を塞ぐことになるから、普段からなるべく道の端を通るようにしないといけないんだけど……そんなのは気にしていないみたい。
 これだけでも、二人がどんな扱いを受けているかわかるというもの。
 侍女たちに聞いたら、事実隠蔽のために嘘を教えるか、そもそも教えてくれないか……。その言葉が真実と確証が持てなくなってしまう。
 侍女たちは、私が来た理由がわからないのだろう。不思議そうな顔でひそひそ話していたが、私が目的地に近づくにつれ察してきたのか、その顔は焦りに変わっている。

「リリー王女殿下。よろしいでしょうか」

 他の侍女たちとは違い、堂々とした態度で私の前に立った。
 その人は、ベテランのような雰囲気を醸し出しているが……どう見ても、その目は私を見下している……いや、小物としか見ていないように見える。

「あら、何かしら?私の前に立つなんて……よほどの理由があるのよね?」
「はい。朱星輝宮にお越しになった理由をお聞きしたいのです」
「あら。王女である私が、王宮を歩くのに理由がいるのかしら?」

 偉そうにそう言ったけど、その侍女は顔色一つ変えなかった。

「いえ。ですが、ここはマリエ王女殿下とラファエル王子殿下の住居でもあります。事前にご連絡をいただきたいのです」
「だって、散歩のついでに寄っただけだもの。忙しいようだったら帰るから、そこをどきなさい」
「たとえリリー王女殿下でも、約束のない方にお二方に会わせるわけには参りません」
 
 毅然とした態度でそう言う侍女に、私は深くため息をつく。

「会う会わないは、本人が決めることよ。間違っても、あなたが決めることではないわ」
「お二方はまだ幼いですから」
「そんなことは関係ないわ。それに、確かに幼いけど、三歳よ?会うか会わないかくらいの判断はできるわよ。あの子達は人形じゃないのだから」

 私はそう言うと、後ろにいるマリーとメアリーに視線を向ける。二人は、静かに頭を下げた。
 それを確認して、私は道を塞ぐ侍女の横を通り抜ける。
 下から二番目の朱とはいえ、ここは王子や王女の住まう王宮。一人だけで廊下を完全に塞ぐことはできない。
 まさか、私のほうから端に寄るとは思わなかったのだろう。ぎょっとした顔で、私のほうに手を伸ばしてくる。
 でも、その腕が私を掴む前に、メアリーに掴まれた。

「王女殿下に何をなさろうと?」
「それに、王女殿下に道を開けさせるなんて、無礼にも程がありますわ。あなたみたいな方が王家に仕えているなんて……侍女長はずいぶんと見る目がありませんね」
「あ、あなたたち……!」

 マリーとメアリーは、そもそも私が赤ん坊の頃から仕えていて、私が危険な目にあった時、いつも守ってくれていたのだ。私を傷つけようとする存在がいれば、考えるよりも早く体が動く。
 加えて、私は事前に二人に目配せをしている。お陰で、二人には合図になったようだ。
 二人が足止めしてくれている間に、私はさっさとその場を立ち去る。
 ありがとう、二人とも。後で迎えに行くよ。
 しばらく歩くと、他の部屋とは違う美しい作りのドアノブがある。現代日本には敵わないかもしれないが、かなり複雑な金属の加工だ。
 私は、コンコンとドアをノックしたけど、返事がない。ここではないのか、何か事情があって話さないのか。
 私は、そっとドアを開ける。
 すると、そこには、お互いに手を握り、こちらの様子を伺う子どもがいた。
 それは、世辞にも、良いところのお嬢さんや坊っちゃんには見えない。都なら、平民でももっとましだろう。

「あなたたちが、マリエとラファエルね」

 私は、二人に視線を合わせて言った。

「「……」」

 二人は、何も言わないけど、私から目をそらすことはない。

「私はリリーよ。あなたたちのお姉さん」
「……ねえ、ちゃま……?」
「ねえちゃま……なの?」
「ええ、そうよ」

 私は余裕そうにそう言ったけど、内心は興奮していた。
 なにこのかわいい生物!!少し上目遣いになるところも、ころころした声も、すべてが人を魅了する要素だ。

「私ね、あなたたちを散歩に誘いに来たの。お外を歩かない」
「おしょと?でてもいいの?」
「だりあ、だめって……」

 ダリアって誰だ?私の道を塞いだやつか?それなら、通りすぎた時に足を踏んづけるくらいはしておくんだったな。失敗だ。

「そんなことないわ。出たいんなら、外に出てもいいのよ」

 二人は、お互いに目を合わせる。
 そして、意を決したように言った。

「……いきたい」
「マリエも……おしょと、でたい」
「それじゃあ、お外に行きましょう」

 私は、にこりと微笑んだ。
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