悪妃の愛娘

りーさん

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16 荷が重い……?

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 朱星輝宮の人員は、いまだに決まらず、私は頭を悩ませている。
 そもそも、マリエとラファエルが私を離してくれないので、マリエとラファエルがいるところで考えないといけないわけだけど……。
 侍女たちにトラウマを持っているこの子たちに言聞いても、そんなのはいらないという答えが返ってくる未来しか見えない。
 それどころか、ずっとここにいてもいいとか言いそうだし、私もそれでいいんじゃないと思っている。
 だからといって、朱星輝宮に使用人を置かないわけにもいかない。
 五歳には荷が重すぎる。

「どうしようかなぁ……」

 そう悩んでいるうちに、アレクシスとのお茶会の日時になってしまった。
 マリエとラファエルにはお留守番ーーしてもらおうと思ったんだけど、意地でも離さなかったので、侍女を通じて、アレクシスに同席の許可を取っておいた。
 ちゃんと大人しくしていることと言い含めて、アレクシスとお茶会を始める。
 二人は、私の隣に座って、言われたように大人しくしている。
 両手でティーカップを持ちながら飲んでいたり、お菓子を頬いっぱいに頬張っていたりしていて、見ているだけでも微笑ましい。
 だが、目の前のやつが大人しくなかった。

「最近、朱星輝宮の侍女が一斉解雇されたとか?」

 耳が早いな。そして、マリエたちの前で出す話題じゃないだろう。

「ええ。マリエとラファエルに関してのことで、不手際がありましたので。王族に無礼を働いたのですから当然でしょう」

 ここで否定しても、一斉解雇は事実なので意味がない。すべてを語らなければいいだけだ。
 まぁ、処分の内容を見る限り、一斉解雇は表向きのような気がするけど……

「では、朱星輝宮の侍女を新たに雇うのではありませんか?」
「いえ、今は無配属の侍女を配属していますので、新たに雇うことはしないでしょう」

 まだ私が決めていないので、完全に決まっているわけではないが、その間、宮を放置するわけにもいかないので、手入れにフリーの侍女が送られているのは本当だ。あながち、嘘ではない。
 侍女というのは、下手に募集ができない。権力者が自分の息のかかった者を送るのに、使用人ほど手軽なものはない。犯罪歴がないのと、仕事さえできれば、特に厳しい条件というのはないからだ。
 アレクシスが聞いてきたのも、それを狙ってのことかもしれない。まだこの年なら、父親からの指示だろうか。

「では、しばらくすれば、マリエ王女殿下とラファエル王子殿下は戻られるのですか?」
「どうでしょう?まだお父さまやお母さまからの指示がありませんし、具体的なことはまだ申せません」

 多分、そのままここに残ることになるような気がする。今はお母さまが後見人となっているから、白星輝宮にいても、そこまでの問題ではないし、二人が私から離れたがらないし。
 そこまで考えたところで、私はあれ?となって気づいた。
 二人が朱星輝宮に戻らないのなら、ここまで神経質に二人のことを気にする必要はないんじゃ……? 
 そりゃあ、王族を粗雑に扱ったりする人は論外だけど、こんな頭を抱えるほどではない……?
 五歳には荷が重すぎると思ったけど、そんなことはないような気がしてきた。

「……殿下。リリー王女殿下?いかがなさいましたか?」
「いえ、少々考え事をしていたもので……何かお話が?」
「はい。王女殿下は、誕生日のプレゼントに欲しいものはあるのか、と思いまして……。まだ、早いと思われるかもしれませんが……」

 確かに、私の誕生日は、三ヶ月くらい先だからね。

「いえ。アレクシスさまの気持ちのこもったものでしたら、どんなものでも嬉しいですわ」

 これは嘘じゃない。義務で高価なものを貰うよりは、安くても気持ちのこもったもののほうが嬉しい。
 特に、マリエとラファエルからのプレゼントなら、その辺の雑草でも大歓喜する自信がある。
 あっ、そうだ!プレゼントと言えば!

「渡し損ねるところでした。アレクシスさまへ私からのプレゼントです」

 私は、侍女に例のものを持ってこさせる。
 前世でも、こういう転生ものとかはあまり読まなかったから、私はよく知らなかったんだけど、こういうプレゼントとかも、使用人に持たせて、相手の使用人に渡すのが普通らしい。
 これは、危険を避けるためだ。プレゼントには、悪意が隠れていることもあるから、使用人が検閲のような役割を果たしている。
 でも、プレゼントの内容を話すのはマナー違反ではないので、私はいつも話している。

「今年は、昨年とは趣を変えまして、私の手作りです。手慰みに作ったものですが」
「そうなのですか?」

 アレクシスは、意外という顔をして、使用人に自分に見せるように指示をする。
 使用人が丁寧な手つきで蓋を開けると、そこには丁寧に畳まれたハンカチが入っていた。

「これは……ハンカチですか?」
「はい。無地のものを購入して、私が刺繍をいたしました。気に入ってくださると嬉しいですわ」

 気に入らなかったとしても、捨てることはしないはずだ。王家の家紋入りなのだから。少なくとも、侯爵は何かに利用しようとするために、取っておくように指示するはずだ。
 あの人は、そういう人。国王の周りにいるのは、みんなそんな人間なのだ。

「ありがとうございます。大切にしますね」

 アレクシスは、にこりと微笑む。性悪な侍女や、あの国王と相対した私にはわかる。これは、心からの笑みだ。
 プレゼントを貰うと嬉しそうな顔をするのは、本当に子どもらしい。

「では、今度の王女殿下の誕生日には、このハンカチに見合うものをお送りしますね」
「え、ええ。楽しみに待っていますね」

 アレクシスを見ていると、しっぽを振って喜んでいる子犬に見えてきた。
 三歳から一緒にいるから……もう二年……いや、私が三歳になってすぐからで、もうすぐ私が六歳だから、三年になるのか。

「ねえちゃま……ねむい」
「エルも……」

 マリエとラファエルが、私の服を掴んでそう言う。その顔は、とろんとしていて、今にも眠りそうだ。
 そうか。二人は、普段ならお昼寝をしている時間だ。眠くなってもおかしくない。むしろ、お茶会の間、大人しくしていてくれただけでもありがたく思わないと。

「では、アレクシスさま。本日のお茶会はここまでということで……」
「はい。来月にお会いしましょう」

 アレクシスを見送った後、私は白星輝宮に戻り、弟妹と一緒に眠りについた。
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