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17 どちらが悪人なのか
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あまり神経過敏にならなくてもいいことに気づいた私は、とりあえず、問題を起こさないような人材を選んだ。
今まで問題を起こしていないのは前提として、相性が悪い人は避けたり、朱星輝宮に回しすぎて、フリーの侍女が不足しても困るので、そこのバランスも考えつつではあったけど。
そして、仮の配属案ができたので、一度お母さまにチェックして貰うことにした。お母さまの仕事の一つに、使用人の管理があるためだ。
マリエとラファエルの説得が大変だったけど、まだ服ができていない状態で、白月光宮には入れられない。お母さまに何度も足を運んで貰うわけにはいかないし。
最後は涙目になりながら見送っていた。
白月光宮に来た私は、たいして時間が経っていないのに、久しく来ていないような感覚になった。
私は、お母さまの部屋をノックする。
「入りなさい」
入室の許可を貰って、私は中に入る。
「お母さま!」
私は、お母さまにぎゅっと抱きつく。
やっぱり、お母さまにくっついていると、ぽかぽかして眠くなるなぁ……
「リリー。今日はどうしたの?」
「お母さまに見ていただきたくて。お父さまが私に任せた、朱星輝宮の使用人についてのことです」
私は、お母さまに紙を渡す。
お母さまは、調べたりでもして知っていたのか、国王から聞いたのかはわからないけど、私が任されたことには何も言わずに、目を通していく。
「悪くないと思うわよ。ただ、何人か太陽宮にいる使用人がいるから、一応は陛下にお話ししたほうがいいわね」
「お、お母さま……今、なんと……?」
冗談ですよね!?冗談だと言ってくれ!
「だから、陛下にお話ししないと。わたくしから話を通してもいいけど……陛下に何を言われても、わたくしは擁護しなくってよ?」
私は、お母さまに伝えてもらった場合の国王の姿を思い浮かべる。
浮かんだのは、私を臆病者とか、こんなことも一人でできんのかとバカにするような笑みと、人を見下すあのムカつく目だけだった。
国王にまたあんな風に罵られるなんて、たまったもんじゃない!
「わかりました……いってきます」
「それじゃあ、陛下に面会の話は通しておいてあげるから、頑張ってね、リリー」
「はーい……」
お父さまのことが関わると、お母さまも敵になるなぁ……
◇◇◇
そんなこんなで、後日、私はお父さまのおわす執務室まで出向くこととなってしまった。
マリエとラファエルは、すごい寂しそうにしていたけど、止めても無駄だとわかっているのか、「はやくね!」とか、「きぉつけて」とか言ってくれるようになった。
スマホがあったら、動画にして収めたのになぁ。
さっさと終わらせて、マリエとラファエルに癒されようと、私はドアをノックする。
「入れ」
私がドアを開けて入ると、そこには山積みの書類に囲まれている国王がいた。
「朱星輝宮の侍女の配属について、お話に参りました」
私は、用件を言って、国王に頭を下げる。
「思ったよりは早かったな」
開口一番、国王はそう言った。
いきなり罵り言葉が飛んでくると思っていたわけではないけど、予想外の言葉にぽかんとなる。
「……それは、お待たせしてすみません?」
「待ってはない。早く済ませろ。私は、簡単には時間が取れん」
その目は、お前と違ってなと言っているように見えた。
今の言葉で、ほんのひとつまみくらい上がった好感度が、一気にマイナスになった。
こいつは、一言発するたびに、私をバカにしないと死ぬ病気なのか?
まったく。だから来たくなかったのに。
私は、今すぐ怒鳴りたくなるのを堪えて、国王に資料を渡す。
国王は、私から資料を受けとると、軽く目を通して、私に聞いてきた。
「なぜこのようにした?有能なものだけでなく、平凡なものたちも配属するとは」
「優秀なものたちばかり取っていては、仕事が回らなくなる可能性があるからです」
「そうか。なら、そのようにするといい。この程度なら、好きに持っていけ」
侍女を所有物みたいに……いや、国王からすればそうなのか。
危うく初対面の先入観で、悪く見るところだったけど、使用人が主の所有物という感覚は、王族だけでなく、貴族なら当たり前のように持つものだ。
好きに扱っていいとまでは言わないけど、どこにどう配属するかは、悪く言えば主の気分で決まるわけだから、主の機嫌は損ねないようにするし、主の意向に沿って、態度を決めたりもする。
主が邪険に扱うのがいれば、使用人も邪険に扱うのは、それが理由だ。
私がやろうとしているのもそういうことだし。この人たちは、今の仕事を続けたいと思っているかもしれない。それを、王女のわがままで強制的に変えさせるのだ。どちらが悪人なのだろう。
あの時、私は私欲のために動く存在と同列に扱われて怒っていた。
私は、弟妹やお母さまのために行動に移したのだからと正義感を持っていたけど、それが本当に正しいことだったのかと再度問われると、はっきりとした答えは出せないだろう。それでも、私は自分の起こしたことの責任は持たなければならない。
(偽善者という言葉の意味……なんとなくわかった気がする)
私は、国王に背を向けて、静かに部屋を出た。
今まで問題を起こしていないのは前提として、相性が悪い人は避けたり、朱星輝宮に回しすぎて、フリーの侍女が不足しても困るので、そこのバランスも考えつつではあったけど。
そして、仮の配属案ができたので、一度お母さまにチェックして貰うことにした。お母さまの仕事の一つに、使用人の管理があるためだ。
マリエとラファエルの説得が大変だったけど、まだ服ができていない状態で、白月光宮には入れられない。お母さまに何度も足を運んで貰うわけにはいかないし。
最後は涙目になりながら見送っていた。
白月光宮に来た私は、たいして時間が経っていないのに、久しく来ていないような感覚になった。
私は、お母さまの部屋をノックする。
「入りなさい」
入室の許可を貰って、私は中に入る。
「お母さま!」
私は、お母さまにぎゅっと抱きつく。
やっぱり、お母さまにくっついていると、ぽかぽかして眠くなるなぁ……
「リリー。今日はどうしたの?」
「お母さまに見ていただきたくて。お父さまが私に任せた、朱星輝宮の使用人についてのことです」
私は、お母さまに紙を渡す。
お母さまは、調べたりでもして知っていたのか、国王から聞いたのかはわからないけど、私が任されたことには何も言わずに、目を通していく。
「悪くないと思うわよ。ただ、何人か太陽宮にいる使用人がいるから、一応は陛下にお話ししたほうがいいわね」
「お、お母さま……今、なんと……?」
冗談ですよね!?冗談だと言ってくれ!
「だから、陛下にお話ししないと。わたくしから話を通してもいいけど……陛下に何を言われても、わたくしは擁護しなくってよ?」
私は、お母さまに伝えてもらった場合の国王の姿を思い浮かべる。
浮かんだのは、私を臆病者とか、こんなことも一人でできんのかとバカにするような笑みと、人を見下すあのムカつく目だけだった。
国王にまたあんな風に罵られるなんて、たまったもんじゃない!
「わかりました……いってきます」
「それじゃあ、陛下に面会の話は通しておいてあげるから、頑張ってね、リリー」
「はーい……」
お父さまのことが関わると、お母さまも敵になるなぁ……
◇◇◇
そんなこんなで、後日、私はお父さまのおわす執務室まで出向くこととなってしまった。
マリエとラファエルは、すごい寂しそうにしていたけど、止めても無駄だとわかっているのか、「はやくね!」とか、「きぉつけて」とか言ってくれるようになった。
スマホがあったら、動画にして収めたのになぁ。
さっさと終わらせて、マリエとラファエルに癒されようと、私はドアをノックする。
「入れ」
私がドアを開けて入ると、そこには山積みの書類に囲まれている国王がいた。
「朱星輝宮の侍女の配属について、お話に参りました」
私は、用件を言って、国王に頭を下げる。
「思ったよりは早かったな」
開口一番、国王はそう言った。
いきなり罵り言葉が飛んでくると思っていたわけではないけど、予想外の言葉にぽかんとなる。
「……それは、お待たせしてすみません?」
「待ってはない。早く済ませろ。私は、簡単には時間が取れん」
その目は、お前と違ってなと言っているように見えた。
今の言葉で、ほんのひとつまみくらい上がった好感度が、一気にマイナスになった。
こいつは、一言発するたびに、私をバカにしないと死ぬ病気なのか?
まったく。だから来たくなかったのに。
私は、今すぐ怒鳴りたくなるのを堪えて、国王に資料を渡す。
国王は、私から資料を受けとると、軽く目を通して、私に聞いてきた。
「なぜこのようにした?有能なものだけでなく、平凡なものたちも配属するとは」
「優秀なものたちばかり取っていては、仕事が回らなくなる可能性があるからです」
「そうか。なら、そのようにするといい。この程度なら、好きに持っていけ」
侍女を所有物みたいに……いや、国王からすればそうなのか。
危うく初対面の先入観で、悪く見るところだったけど、使用人が主の所有物という感覚は、王族だけでなく、貴族なら当たり前のように持つものだ。
好きに扱っていいとまでは言わないけど、どこにどう配属するかは、悪く言えば主の気分で決まるわけだから、主の機嫌は損ねないようにするし、主の意向に沿って、態度を決めたりもする。
主が邪険に扱うのがいれば、使用人も邪険に扱うのは、それが理由だ。
私がやろうとしているのもそういうことだし。この人たちは、今の仕事を続けたいと思っているかもしれない。それを、王女のわがままで強制的に変えさせるのだ。どちらが悪人なのだろう。
あの時、私は私欲のために動く存在と同列に扱われて怒っていた。
私は、弟妹やお母さまのために行動に移したのだからと正義感を持っていたけど、それが本当に正しいことだったのかと再度問われると、はっきりとした答えは出せないだろう。それでも、私は自分の起こしたことの責任は持たなければならない。
(偽善者という言葉の意味……なんとなくわかった気がする)
私は、国王に背を向けて、静かに部屋を出た。
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