家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る

りーさん

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第一章 第五王子になりました

15.

 エルンスト兄上から送られてきた名簿を覚えて、エルンスト兄上と一緒に騎士団の視察をする日になった。
 ロナに手伝ってもらいながら着替えをして待っていると、エルンスト兄上が迎えに来る。

「用意はできたか」
「はい、エルンスト兄上」

 僕は椅子から立ち上がり、近くのテーブルに置いてあった名簿を手に取る。
 その名簿をエルンスト兄上に渡した。

「お返しします。覚えたので」
「複製だからそちらで処分しても構わないのだが」

 そう言いながらも、エルンスト兄上は受け取ってくれる。エルンスト兄上は名簿をじっと見ながら聞いてくる。

「……本当に覚えたのか?」

 この量を?という声もなぜか一緒に聞こえてきた。

「はい。順番に言ってみましょうか?」
「いや、時間もないから必要ない。行くぞ」
「はい」

 僕はエルンスト兄上の後ろをついていっていると、エルンスト兄上が声をかけてくる。

「他の王子と王女に会ったそうだな」

 ロナが話したのかな?エルンスト兄上と時々お話ししているみたいだし。

「はい。アイリーン姉上とアルヴィール第三王子殿下とテオ兄さまに」

 僕がそう言うと、エルンスト兄上の足がピタリと止まり、僕のほうを見る。

「なぜ全員呼び方が違う?」

 なぜと言われましても。

「アイリーン姉上とテオ兄さまからはそう呼ぶように言われましたので」
「……アルヴィールは」
「特に何も」

 呼び方の指定はされていないし、特に何か禁止されているわけでもない。だから、僕もアルヴィール第三王子殿下という呼び方を変えていない。
 エルンスト兄上は深くため息をついた。

「あいつは変わらんな……」

 小さい声でボソッと言っていたけど、近くにいた僕には聞こえていた。

「アルヴィールのことは気にしなくていい。王子殿下という呼び方もする必要はない」
「では、兄上とお呼びすればいいのですか?」
「それでいい」

 エルンスト兄上はそう言うと、再び歩きだす。王子殿下という呼び方はよくないのか。まだ第二王子殿下には会ってないけど、もし会ったら呼び方には気をつけないと。

◇◇◇

 騎士団の訓練所についた僕たちは、騎士の訓練の様子を観察していた。正確には、エルンスト兄上は騎士団長とお話ししに行ったけど、僕はロナのお茶を飲みながら、用意された椅子に座って見てるだけ。
 でも、剣と剣のぶつかり合う音や、お互いに向き合っているときの生き生きとした顔は見ていてとても楽しい。

 楽しい……けど、気になることがある。

「ジルベール殿下、いかがされましたか?」
「騎士の人たちが着けているマントの色が違うのが気になって」

 騎士たちはみんなマントを着けている。でも、その色は青、白、赤といろいろなものがあった。

「マントの色は所属の違いです。騎士団には第一~第五まであるのは学びましたね?」
「うん」

 アズール王国の騎士団は全部で五つある。

 まず、第一騎士団。第一騎士団は王族の警護が主な仕事で、専属騎士もほとんどの場合は第一騎士団から選ばれる。他の騎士団から選ばれた場合は第一騎士団に異動?というものをする。
 第二騎士団はお城全体の警備。蒼天宮、蒼月宮、蒼星宮が主な場所で、離宮を警備する場合もある。
 第三騎士団が城下町の警備。見回りなどをして治安維持に勤めるのがお仕事だけど、お城に出入りすることもよくある。
 第四騎士団が城下町以外の都市の警備。国として大切な主要?とされる都市を守るそうで、都市で問題が起きたときくらいしかお城には来ないらしい。
 第五騎士団は魔物の討伐をしている。国中に派遣?というものをされるらしく、お城に来ることはほとんどない。

「青いマントは第一騎士団、白いマントは第二騎士団、赤いマントは第三騎士団です」
「ふーん……」

 ロナにマントの色を教えてもらって、もう一度騎士たちのほうを見てみる。マントの色は白と赤が多くて、青が少し少ないように思えた。第一騎士団は人数があまり多くないのかな?それとも、王族の警護をしている人がここにいないだけなのかな。

「ちなみに第四騎士団は黄色で、第五騎士団は黒だ」

 ロナではない声が聞こえる。明らかに男の声で、ロナの説明を補足していた。
 声が聞こえたほうを見ると、男がいる。

 黒髪に瞳はきれいな『シアヌ・ジュール』だった。
 僕はペコリと頭を下げる。

「初めまして、ジークハルト兄上」

 王子殿下という呼び方はよくないとエルンスト兄上に言われたので、ジークハルト兄上は最初から兄上と呼んでおく。
 ジークハルト兄上はきょとんとしていた。

「俺のこと知ってんのか?」
「はい。兄上や姉上たちの容姿は教えてもらっています」 

 エルンスト兄上に覚えておけと言われたものの中に、兄上や姉上のこともあった。そこには絵姿も一緒にあったので、どんな顔なのかとかは見ればすぐにわかる。

「お前は何て言うんだ?『シアヌ・ジュール』を持ってんなら王族だろ?」
「第五王子のジルベールです」

 自己紹介してなかった僕も悪いけど、ジークハルト兄上は僕のこと知らないのかな?今まで会った兄上や姉上たちは、年下の王子がいることは知ってたんだけど。

「よし、ジルベール。見てるだけなのも退屈だろ?俺と鍛練しないか?」

 ジークハルト兄上はそう言って僕に木の剣を渡してくる。もしかして、僕にこの剣を使って戦えって言ってるの?僕、剣に触ったことすらないんだけど。
 それに、別に退屈じゃないし。

「退屈じゃないですよ。騎士たちのいろいろな動きが見られるのは楽しいです」
「そうかぁ?」

 ジークハルト兄上は首をかしげている。ジークハルト兄上にとっては、見てるだけなのは退屈なのかもしれない。だから、楽しいと言ってる僕の気持ちがわからないんだろうな。

「でも、王子なら剣は見るだけじゃなくて実際に使えなきゃダメだ!」
「でも、僕は剣の使い方を知らないです」
「なら教えてやるから来い!」

 ジークハルト兄上は僕の腕を掴んでぐいっと引っ張る。

「わぁっ!」

 突然のことだったから、僕はそのまま椅子から落っこちてしまった。
 うう……ちょっと痛い。

「ジルベール殿下、大丈夫ですか!?」

 ロナがしゃがんで僕の側に来てくれる。一番痛い膝のところを見ると、赤くなって血が出ていた。
 ジンジンして痛い。

「ただいま治療いたします」

 ロナはそう言うと、僕の膝に手を当てた。

「光と水の精霊よ。我が祈りを聞き届け、癒しの力を与えよ」

 ロナがそう言うと、僕の膝は白い光で包まれる。それと同時に痛みもなくなってきて、痛みがなくなって光が消えると、きれいな膝の状態に戻っていた。

「わぁ、ロナすごい!」
「簡単な治癒魔術ですよ。ジルベール殿下も使えると思います」
「僕も?」

 ケガが治せるのは嬉しいな。今まではケガしたことはあまりなかったけど、また今日みたいなことがあるかもしれないし、覚えておくほうがいいかも。

「ジルベール、どうした?」

 僕がロナの手を取って立ち上がると同時に、エルンスト兄上が僕のほうに走ってきた。
 僕はエルンスト兄上に向かってニコッと笑う。

「ちょっと転んじゃっただけです。ロナが治してくれたので、もう大丈夫です」
「転んだ?それはーー」

 エルンスト兄上はハッとしたような顔をすると、近くにいるジークハルト兄上を睨む。ジークハルト兄上が怒られると嫌だからジークハルト兄上の名前は言わなかったんだけど、エルンスト兄上には気づかれちゃった。

「ジークハルト、何をしている」
「お、俺は別に何も……」
「なら、椅子に座っていたはずのジルベールがなぜ転ぶようなことになるんだ」

 あっ、それで気づいたんだ。確かに、椅子に座ってたなら転ばないよね。

「ちょ、ちょっと引っ張っただけで……」

 ジークハルト兄上がそう言うと、エルンスト兄上ははぁとため息をつく。

「お前は加減というものをそろそろ覚えろ」

 ジークハルト兄上は加減ができないんだ。でも、いつもあんな風に引っ張られたら嫌だから、できるようになってほしい。

「ジークハルトがすまなかったな、ジルベール」
「エルンスト兄上が謝る必要はないです」

 だって、エルンスト兄上は何も悪くないもん。

「私が連れてきたのだから、お前の身の安全を図るのは当然のことだ」
「僕がついていきたいって言いました」

 エルンスト兄上は僕のお願いを聞いてくれただけ。

「提案をしたのは私だ」
「騎士団を見学したいと言ったのは僕です」
「何の争いをしてんだ」

 ジークハルト兄上が間に入って止めてくる。でもでも。エルンスト兄上は絶対に悪くないのに、謝ってるのはおかしいもん。

「そもそもはお前が加減できずにジルベールにケガを負わせたことだろう」
「いや、それはわざとじゃ……」
「……ジークハルト兄上は、僕がケガしたことは悪いこととは思ってないんですか?」

 僕はずっと思ってたことを聞いてみた。

「ロナは、悪いことをしたと思ったら謝らないといけないって言ってました。兄上は悪いことをしたとは思ってないってことですか?」

 別に悪いことじゃないって思ってるならいいけど、悪いことだと思ってるのに謝らないのはダメだと思う。

「子どもに言われてどうする」
「わ、わかったよ。謝ればいいんだろ?」
「いえ、悪いことだと思ってないなら謝らなくてもいいです。無理やり謝らせるのは悪いことです」

 悪いことはしてはいけないとロナと約束しているから、悪いことをするわけにはいかない。それに、僕も悪いことはしたくない。

「いや、悪かったとは思ってて……」
「そうなのですか?」

 僕がこてんと首をかしげると、ジークハルト兄上は目をそらす。う~ん……ジークハルト兄上の考えがよくわからない。

「気にするな、ジルベール。ジークハルトは謝ることができないだけだ」
「そうなんですね」

 謝ることができないなら仕方ない。できないことをやらせるのも悪いことだから。

「おい、変なことを吹き込むな!」

 ジークハルト兄上はそう言うと、しゃがんで僕と視線を合わせる。

「その……強く引っ張って悪かったな。痛かっただろう?」
「ちょっとだけです。ロナが治してくれたからもう痛くないです」
「ロナが治療したと?」

 エルンスト兄上が驚いたような顔をする。ロナが治療したのがそんなに不思議なのかな。ロナは簡単な治癒魔術って言ってたのに。

「そういや、治癒魔術で治してたな」
「治癒魔術は光と水の複合魔術だろう?適性が二つもあるのか」
「はい、ございます」

 複合魔術?適性?何の話をしてるの?とりあえず、治癒魔術が使えるのは普通のことじゃないのはなんとなくわかったけど、なんで普通じゃないのかがわからない。

「二つも適性あるなら魔術師としてもやっていけるだろ。なんで下女なんかやってんだ?」

 ジークハルト兄上がこてんと首をかしげた。

「私は魔力量が多くありませんから、初級の魔術しか使えないのです」

 ロナはさらに詳しく説明する。ロナは魔術の適性?というものは多いけど、魔力が少ないから大したことはできないらしく、治癒魔術も小さな傷を治すくらいのことしかできないから、魔術師として生活できるほどではないらしい。

「それに、下女の立場のほうが、ジルベール殿下のお力になれますから」

 そう言ってロナはにこりと笑う。僕も嬉しくなってにこりと笑った。

「……下女よりは侍女のほうが力となることができるだろう」
「ですが、私は侍女となるのは難しいので……」
「いや、問題ない」

 エルンスト兄上のその言葉に、僕は目を輝かせる。

「ジルベールの侍女はロナに任せることにした。父上とも話し合って正式に決まっている」
「本当ですか!?」

 ちょっと前まで、ロナを侍女にするのは無理だという話をしてたから、本当に嬉しかった。ロナは、僕を育ててくれたもう一人のかあさまのような存在だから、ずっと一緒にいたかった。

「本当に私でよろしいのでしょうか」
「こちらとしてもお前が侍女でいるほうが都合がいい。根回しも済んでいる。問題はない」
「かしこまりました。誠心誠意勤めさせていただきます」

 エルンスト兄上に頭を下げた後、ロナは僕のほうを向いてにこりと笑った。
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