魔女は恋心をキスで隠す。

矢凪來果

文字の大きさ
11 / 50
link

誕生日プレゼント

しおりを挟む
「毎年張り切らなくてもいいのに…」
『よし!今日はもう店閉める!』と言ったたきり、買い出しに走った真夜を見送り、店じまいをしながらため息をつく。

 前の街にいた頃、近所の子供の誕生日を羨ましく思ったコハクは真夜に聞いた。
「僕の誕生日はないの?」
 一瞬、キョトンとした真夜だか、その後に拾ってくれた日を誕生日にしてお祝いをしてくれた。

 ただ、その後は自分で決めた誕生日なのに、毎年忘れてしまって、ひとしきり落ち込んでは挽回しようと張り切ってとんでもないことになる真夜を見なくてはいけないので、いっそ言わなければよかったと思っている。

 部屋がひっくりかえらないよう、真夜の代わりに自分で誕生日の用意を始めながら、コハクはもう一度小さなため息をついた。
 たたそれは、呆れた感情だけではなく、安堵のため息でもあった。
「でも、今年も祝ってくれるんだ…」

 半年前、部屋の十年時計が一周する少し前に引っ越しを決めた真夜は、「コハクは残る?」と聞いてきた。コハクは『友達と離れるのは寂しいなぁ』とふんわり考えていたが、自分が真夜と離れてここに残ることは少しも考えておらず、想定外の問いに慌てて「一緒にいく!」と答えた。

 真夜も「まだ早いわよね」とついてくることを了承してくれたが、彼女がなにを考えていたのか、コハクには分からず、「まだ」がいつまでのことを指しているのかとひっそり怯えていた。
 だから、できれば真夜には誕生日を忘れていて欲しいと思っていたコハクだが、誕生日を祝うと言われれば、なにかの契約が更新されたような安心感があった。



「コハク、今何歳だっけ?」
「十三歳ですよ」
 その夜、真夜が戻ってきたのは日もとっぷり暮れた後だった。
 コハクが用意したご馳走を囲みながら、真夜はコハクに訪ねた。
「道理で料理も上手くなるわけだわ。このフライも魔法みたいに美味しい」
「真夜さんのパンケーキには敵いませんよ」

その後、
「将来何なりたい?」という質問には間髪入れず、
「もちろん魔法使い!」と答えたが、真夜もすかさず「まーだ、言ってるの?」とつれない。

「毎年毎年全く…魔法なんか使えてもろくな目に合わないっていうのに…」と呟く真夜は「そんなになりたいって、魔法が使えたら何をしたいの?」と尋ねた。

 やりたいこと…と聞かれて少しコハクは止まってしまってしまった。
 真夜と離れたり、誰かに取られるのが嫌だから、魔法使いになりたかっただけで、力をどう使うかなんて考えたこともなかった。

 しかし、ふと今日のナタリーの嬉しそうな顔が頭をよぎった。
「あのね」とコハクは切り返す。

「ぼく、魔法が使えるようになったら、真夜さんみたいにいろんな人を助けたい」
「助けたい?」
「マーサのおばあちゃんも、おじいさんも、他の人も、みんな真夜さんが元気にしてて、すごいなぁって思うんだ。僕もそんな魔法使いになりたい。」
 真夜はアーモンドのような目を瞬かせるが、反応がない。コハクはまずい事を言ったかと耳の後ろをかきながら、「…変かな」と首を傾げてみせると、真夜はコハクの鼻をきゅっと摘み、「いっちょ前なことを言うようになって!」と揶揄った。

「魔法使いは向いてないと思うけど」
 何処か諦めた様子の真夜は、どこから出したのか、ドンと大きな箱を机に置いた。
真夜の開けてみて、という目線に従って、コハクは丁寧に包装紙をめくって箱を開ける。
「わぁ…」
「…良い薬屋にはなるんじゃない?」
 中には、沢山の本と、真夜が持っているものよりも少し小ぶりな調剤器具が入っていた。

「楽しくないプレゼントで悪いけどね、この街にいる間に普通よりは上等な薬屋をやってけるくらいには仕込んであげる」
 コハクは何も言えないまま、顔を上げて真夜を見つめた。そんなコハクに真夜は照れからぶっきらぼうに言った。
「今日からは師匠せんせいって呼びなさい」

「師匠…」
「ああ、もう泣かないっての、オープナーちょうだい!もう一本ワイン開けるわよ」
「泣いてない…です。」
 りんりん、と相変わらず綺麗な鈴の音に合わせてぽろぽろ流れる涙が収まるまで、真夜はワイン片手にコハクを撫で続けた。

 ようやく落ち着いたコハクは、準備の疲れもあり、教科書を眺めながらゆっくり船を漕ぎ始めた。真夜はコハクをベットへ連れて行こうとしたが、どうしてもプレゼントと一緒に寝たいと言うので、ふらふらするコハクを支えながら、久しぶりの魔法でプレゼントも浮かせて、コハクの部屋へ運んだ。

 箱はベットのサイドボードに着地させ、一際頑丈そうな本だけ取り出して枕元に添えてやると、コハクは満足そうに微笑んで、もう一度お礼をいってからゆっくりとした寝息を立て始めた。

 真夜はいつも通り、コハクの額にそっとキスをして、起こさないように寝室の扉を閉めた。
「おやすみコハク」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜

ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。 イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。 8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。 ※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。 夫と婚姻してから三年という長い時間。 その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

処理中です...