小さなお姫様と小さな兎

砂臥 環

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禁忌の花

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魔女や魔法使い。
国によって定義や扱いは様々だが、魔法が無くなったこの国では『始祖の力を持つ方々』として大事に扱われる。

魔女や魔法使いを騙る、偽物の存在への懸念はない。なにせ彼等がふらりと現れるのは決まって王の前だ。
そのこと自体、彼等が魔女、或いは魔法使いであることの証左。証明はそれで充分である。

彼等は気紛れであり、過度な交流や干渉を好まない。現れた際は食客としてもてなし、決して害さないこと。そう伝えられている。
自分達の世代で有用な知識や情報を授けてくれなくとも、また次の世代に期待が持てる。敵に回すと厄介だが、味方につければ心強い。

事実、過去の伝染病が蔓延した際などに、恩恵を受けている。
魔法というよりも、その深く幅広い知識によるモノなので、賢者として扱われていると言ってもいいだろう。

現国王陛下もまた、彼女の恩恵を受けたひとりである。




王宮内の外れの一角。
小さな泉の湧き出すところに小さな家がある。もうずっと昔、伝承通りふらりと現れた魔女が『ここに住みたい』と言って作られたもの。
去る時に魔女は特になにも言わなかったものの、いつでも彼女がやって来れるように綺麗に整えておくよう、言い伝えられていた。

そして先王の代。
再びやってきた魔女はかつて住んだ家がまだ美しく保たれていることに、とても感激した。

当時、現国王陛下であるエーベルハルトは重篤な病にかかり、即位どころか生命が危ぶまれていた。
しかし先王夫妻にはなかなか子ができず、嫡男はエーベルハルトのみ。
それを憂いていることがわかると、魔女は『これまでのお礼に』と薬湯を作ってくれた。
それを飲み、エーベルハルトは九死に一生を得、今に至る。

現在も魔女はそこに住んでいる。
そんな自身の経緯もあるので、尚のこと魔女は大切に扱っていた。

そうは言っても彼女は干渉を嫌うので、望まれなければこちらからはなにもしない。
余計なことをしなければいいだけのこと。




「レオ……その花はどこから詰んできた!」

麗しい小さな姫君に、やはり麗しい少年王子が自ら詰んできた一輪の特別な花を差し出す、美しく微笑ましい光景。

まるでそれは高名な絵師の挿絵で彩られた絵本のようで。
皆がそれに見蕩れ、次の受け取るシーンを待ち望む中、悲鳴のような男の声がそれを遮った。

エーベルハルトが駆け寄ると同時に、息子レオンハルトの身体が突如、ぐらりと傾く。


『彼女が住んでるところに近付いてはいけない』
『彼女が栽培している植物は決して触れてはいけない』

──レオンハルトにも、強くそう言い含めておいた筈だった。

「レオ! レオンハルト! ……ああ、なんて馬鹿な真似を!!」

魔女は、干渉を嫌う。
彼女がなにかを授けてくれるのは、あくまでも気紛れで。
恩義を感じれば報いてくれることもあるが、逆には必ず・・報復する。




『昼食会』は始まって早々、それどころではなくなってしまった。

レオンハルトは高熱を出し、意識がない。
陛下が抱え『医者を呼べ』と叫びながらレオンハルトの部屋へと運び出す。
王妃も狼狽しつつそれに続こうとし、それでもなんとかこの場を収めなければならない、と思い出したように踵を返す。

「マイヒェルベック卿。折角来て頂いたのだけれど、この場はこれで。 どうか悪く思わないで頂戴」
「王妃様、どうぞレオンハルト殿下に」
「……有難う」

その顔は気の毒な程に蒼白だった。

大人達はバタバタと忙しなく動く。
シャルロッテはなにが恐ろしいのか青ざめ、震えて泣いており、カサンドラにしがみついている。

その場に残されたギルベルタはそっと床に落ちた花を拾い、意外にも冷静にレオンハルトの侍従を捕まえ話を聞いている父の元へ歩き出す。

「お父様、このお花に問題が?」
「ギルベルタ…………お前には関係ない」

少しの逡巡を見せた後、そう答えるギュンター。冷たいようだが彼なりに娘を気遣った結果で、いつものギルベルタならそれに気付いて引いただろう。
だが今の彼女は、レオンハルトが自分に向けた気持ちで動いていた。

「いいえ、関係あります。 このお花は私がレオ様から頂いたモノですから」








✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

ご高覧ありがとうございます。

『重篤な病』とされていたモノは、毒だったり犯人は当時の王弟だったりと、まあ色々あるんですが。
その辺は端折りました(笑)

ちなみにそのあたりのゴタゴタした血縁関係上の問題もあって、マイヒェルベック公爵家はちょっと力が弱かったりします。
ギュンターとエーベルハルトは従兄弟ですが、多少歳は離れてます。ふたりの仲は悪くないです。

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